セクシャルセニョリータ!
ズンドコズンドコ ドコドコ!
ナチョス!
黄金のナチョス!
タコス!
金色のタコス!
今宵もセクシャルなセニョリータで
ズンドコズンドコ ズンズン!!
セクシャルセニョリータ! Hi!!
「二番!」
―――ボゴォ!!!!
「シェケッ……!!」
「何じゃそのクソみたいな歌は!!??」
鮭を咥えた木彫りの熊で酷く殴られた男は、地面でもんどり打ったまま起き上がれずにいた。
「何が黄金のナチョスよ!! いい加減に目を覚ましなさい!!」
ギターを奪い取りケースに仕舞うと、鍵を掛けて蓋を開けられなくした。
「ああっ……!!」
「私友達と喫茶店に行って来るから、家の掃除しておきなさいよ!?」
―――バタン!
吐き捨てる様に部屋を出ると女は手頃な服装に身を包み、手早く家を後にした。
「―――てな事があったのよ」
「……アンタ知らないの?」
「旦那がネットに載せた歌が、アメリカの有名シンガーに絶賛されてるのよ!?」
「……まさかぁ?」
友達から手渡されたスマホには、旦那がいつも通りに自室で歌い、妻が木彫りの熊で殴る映像が映っていた。しかし既にかなりのコメントが寄せられており、その殆どが英語圏やアラビアやコイサンマン語で書かれていた。
「ちょっと待って! この再生回数1500万回って……!!」
「いやー、アンタの旦那すっかり有名人ねぇ?」
(どうりで最近人目を感じると思ったら…………)
「普段旦那の歌をボロクソに貶してるけど、本当は才能有るんじゃないの?」
「あるある! アンタが邪魔しなければ今頃トップスターだったかもね♪」
「……そ、そんな…………」
女は急に今までの彼に対する己の行動に、疑念や後悔の念が沸いてきた。本当に自分が邪魔をしていたのならば、それはとても心苦しい物だ。
「じょ、冗談よ! そんなに落ち込まないでよ」
「そ、そうよ、たまたまかもよ?」
「ゴメン……私帰るね。アイツのギター返してこないと……」
千円札をテーブルに置くと、女は足早に家路に着いた。
「ただいま!!」
「―――早っ! ごめん、まだ掃除終わってない」
「いいのよ! そんなことよりアンタはギターを弾きなさい!!」
ギターケースの鍵を開け、ギターを手渡す。男はキョトンとした顔でそれを受け取ると、軽くポロロンと撫でた。
「……ついにシェケナが認められた……のか……?」
男はそれから幾多の動画をUPした。楽しそうに歌う男を見て、女も何だか楽しそうな顔をする。そして二人で読めないコメントを見るのが日課になっていた。
「何だか最近再生数が激減したわね……」
爆発的ヒットから右肩下がりで動画の再生数は減り、今では1000にも満たない。そしてその理由を女はコメントの中から知る事となる……。
『嫁早く音痴旦那を殴れ』
日本語で書かれたそのコメントが全てを物語っていた!
「バズったのはアイツじゃなくて私か!!」
―――シェケナシェケナ~♪
隣の部屋でいつも通り動画を撮影している男の元へ、木彫りの熊を持って女が乱入する。
「世界がコレをお望みだってよ!!」
―――ボゴォ!!
その動画は2000万再生回数を記録し、女は女子プロレスラーに転身した。
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