知名度2
知名度2
例の事件から数週間が経過した。一連の騒動は時間と共に風化し民達も通常の生活に戻りつつある。そんな中とあるグループが一つの宿に訪問する所から物語は始まる。まずはその宿から。
「すいません」
「はい〜。あれ?あなた方は、あの有名人たちじゃないですか〜。どうかなされました?」
「例の人を呼んで頂けますか?」
「例の人?」
「日本国家憲兵の方です」
「あ〜その人ね。今遅めの朝食を食べてる所だよ。そのまま食堂へどうぞ」
「ありがとうございます」
「君達も食事は?」
「いいえ、私達は…」
「話が長くなるようなら軽食くらいは。どう?」
一同、一旦見つめ合い、頷く。
「どうやら出す方向で良さそうだね。私から調理師に伝えておくよ。10人で良いのかな?」
「?10人で良いですよ?それがどうかしましたか?」
「いやね?君らの後ろに、報道陣?たちが…」
「あ、ああ…。どうする?一旦俺が話つけてこようか?」
「変な憶測を書かれても困るしね…。けど追い返しも」
「変な誤解が生まれる恐れもある。特に今我々は微妙な立場にある。どうしようか…」
「あ、ならさ。数人の報道の方だけ同行を許可したらどう?これならあの人にもここにも迷惑を掛けないしさ。変な憶測を呼び込む事もない。どうかな?」
「『……』」
「それで行こうか。ただその前にこことあの人に確認を取ろう。すいません受付の方。報道陣数名同行してもよろしいでしょうか?一応例の方にも確認を取りますが、まずは」
「構わないよ。報道陣の方に軽食は出さなくても?」
「はい。それでお願い出来れば。ご迷惑はお掛けしませんので」
「私は構わないし今はお客さんもいないから平気さ」
「ありがとうございます。後はあの人だけだが、君らは先に会ってくれないか?俺は報道陣を相手にするから」
「分かったわ」
・・・・・
報道陣側
「宿に入って暫く経とうとしていますが、動きがありませんね」
「そうですね。一応何かあると思って尾行したのですが、宿に入ってからはな…」
「けどこんな日中から男女の営みはある訳がありませんよ?」
「それは分かってます。それにその心情は他の報道陣も一緒でしょう。しかし何故この宿屋なのでしょうか?何か理由が?」
「まあ普通ならそう思うでしょう。変な言い方で言うならば、ごく一般的な宿屋。セキュリティーや質が良い宿屋に比べると見劣りする。それを敢えて選んだ意味とは?」
「しかもあの例の騒動の当事者である10人が集まるとは、これは何かあるに違いありませんよ!だから尾行したのに動き無しとは…」
「ウズウズしたいのは分かりますが、ここは我慢ですよ。それに他の報道陣も同様に特段情報を手に入れてる雰囲気では無いようですし」
「ですね。因みに中継してるのは?」
「見た限り半数は超えてますね」
「そうですか。取り敢えずは待ちましょう…ってあれ?」
「?あ!!」
「出てきたぞ!!」
「(うわっ。一気に来たな。まあそれはそれで好都合だな)」
「『すいません。何か一言ありますか?』」
「えっと。一応まずは憶測や誤解を生まない為にご説明させてください。まずこちらの宿に入った理由ですが、私達全員とある方に会うためにこの宿に来ました。それ以外の目的はありません。次にそのとある方ですが、今暫くお待ち下さい。今はその方にコンタクトを取っています。取材陣同行でも構わないかどうかを。先に言っておきます。宿屋側からの許可は取りましたのでこちらはOKです。今お話出来るのは…あ、ちょっと失礼」
耳打ち程度の会話
「許可取ったよ。同行構わないって」
「分かった。なら先に行ってて。すぐ行く」
「すいません。先程のとある方ですが、本人も構わないとのことなので全員は無理ですが代表として数組同行をしてもらおうかと思います。質問は?」
「そのとある方とはどなたですか一般人ですよね?」
「はい。一般人です。ですが貴方方取材陣全員見たことある方です」
「『?』」
「いたか?」
「さあ…」
「分からないみたいなので自分の口から。これから会う方ですが、数週間前にあった我々と一緒に巻き添えという形でカメラに映り、色々と被害を被ってしまった方」
「『!!!』」
「『そ、それって!!??』」
「はい。日本国家憲兵である方です」
「『えええぇぇぇぇ!!!???』」
その雄叫びは現地にいた取材陣のみならずスタジオにいるキャスターらは勿論のこと、お茶の間で視聴している国民や他国にまで響き渡った。
「それで?どうします?同行はどなたがやります?但し申し出た以上は覚悟を持って同行してください。その方の機嫌を損ねる様なら、私達ではどうしようも出来ませんが故」
「『(ゴクリ)』」
「『い、一旦上と協議します〜…』」
「(流石凄い効力だな。だが俺は嘘は言ってないぞ。本当に機嫌を損ねたら知らんからな)」
・・・・・
話をちょっと巻き戻し、食堂へ。例の人は朝飯を堪能中である。
「うむ。この肉は旨いな。特に肉汁が気に入った」
そうして暫く食事を楽しんていたその時。背後から声を掛けてきた集団が現れた。
「あ、あの」
「?ああ、お前らか」
例の集団である。
「どうした?お前らもここに泊まってたのか?」
「いいえ。私達は貴方に用があってこちらへ」
「用?どんな用だ?そんな大した用では無いだろ?」
「いいえ。それが大した用でして。正式に各方面から謝罪と賠償したいからお越し願えないだろうかという打診がきまして」
「うわマジか。めんどくせぇ…。しかもお前らのその顔だとそれだけでは無いだろ?」
「分かりますか?はい。実は表に報道陣がズラッと並んでいるのです。私達としては追い返したいのですが、追い返したら追い返したで逆に変な憶測が飛び交う可能性があるのです。しかも宿屋なんて尚更。なのでお願いがあるのですが…」
「まさか取材陣共々同行しろと」
「お願い出来ませんか?」
「…まあ良いだろ。但しお前らが責任取れよ?」
「はい。ではちょっと行って参ります」
「因みにお前らはこっちの都合は考えないのか?」
「えっと…」
「見てみろ?飯中だしこっちの都合を考えないで一方的に話され挙句には報道陣とのコラボ。誰が良い顔をするんだ?言ってみろよ」
「『……』」
一同はこう思った。
「『や、やってしまった…』」
・・・・・
「?どうした?」
「その…」
「?」
「あの人、ちょっとご機嫌斜めだ」
「え」
「『?』」
「あ、この人たちが?」
「あ、ああ代表の報道陣だ。それで?ご機嫌斜めとは?」
「それが…」
「あ、ああ…それはなるわな…。やべぇ…。全く考えてなかった」
「まあでも普通に受け入れるとも言ってたよ?」
「但し機嫌は悪いままか?」
「そういうことだね」
「まあ、今回はお言葉に甘えよう。本人は?」
「『飯は食い終わってる。いつでも来い』」
「なら行こうか。報道陣も用意は?」
「出来ています」
「ではご案内します。こちらへ」
「改めてどうも」
「ああ。あれから数週間経ったが、いつなんだ?その謝罪と賠償金の正式決定は?」
「数日前に決定しました。他も一緒です」
「それで?俺はいつ行けば良いんだ?」
「?都合合わせて頂けるのですか?」
「そこまで冷酷ではない。合わせるさ」
「あ、ありがとうございます。でしたらもう少しお待ち下さい。連絡します」
「そうかい。んで?お前らの用事は終了か?」
「一旦は。残りは報道陣の質問を終えてからにします」
「賢明だな。ということで次に君らの質問に答えよう」
ここで報道陣に変更。
「あ、はい。ではまず当時なのですが、何故あの店に?」
「当日か?あれは俺の本業が終わって何処か近くに酒や飯が美味い店を探したら近所の奴らが勧めてきてな。そこからあの店に入った訳だ。だからコイツらとの鉢合わせは本当にただの偶然さ」
「そうなのですか。因みに本業は日本国家憲兵だとか?」
「ああ。今は休暇中だが」
「当時はどの様な仕事を?」
「守秘義務があるが、既に表沙汰になってるから話そう。先週か?複数国で国際指名手配された魔法組織、主に魔女一味が逮捕起訴された報道を」
「あ、はい。結構有名になっています。あの追跡不可能と言われていた魔女たちを根こそぎ逮捕したと…ってまさか!?」
「そのまさかだ。起訴は違うが逮捕したのは俺だ」
「『え!!??』」
「え!?けどあの一味って20人もいましたよね!?良く全員確保出来ましたね?!」
「まあ、正直な話が、手に取る相手では無かったということだ」
「はぁ〜。流石日本の憲兵と言うべきか。ですが何故貴方のような憲兵が?普通は日本国に被害が出ないと出動しないと聞きましたが?」
「強ち間違いではないが、合ってもいない。まあその辺りは色々条件があるから気にしないでくれ。まあとにかくそういった経緯から俺が出向き、逮捕の後現地警備隊に引き渡したと言うことだ。それだけさ。その帰りにあれさ」
「そうだったのですね。あの一味は私たちも早く逮捕される事を祈ってたので助かります」
「それなら素直に受け取ろう。他には?」
「次なのですが、何故ここから離れて別の土地へ?変な話が一点に留まれれば貴方が更なる被害や容疑者を生まずに済んだのに」
「そこは仕事だったとしか言えない。一点には留まれないから」
「そうですか。しかし良くあれだけの人数の攻勢を凌げましたね?」
「別に睨まれただけでは俺も手出ししない。だが俺に手を出そうとした、または手を出した時点で俺も奴らを敵認定しただけだ」
「ですがそれだけ長期間攻勢を凌ぐのは些か大変だったのでは?」
「それ俺に聞くか?コイツら当事者が誤解される様な動きをしなければ、お前ら報道陣が俺を巻き添えにしたからこうなったのだからな?」
「『…』」
「も、申し訳ありません…」
「まあ大変だったが、そこは忍耐力と精神力で乗り切った。とだけ言っておこう」
墓穴を掘ったと後悔した報道陣は即座に質問の内容を変える。
「で、では次になのですが、現在彼らとの関係は?」
「俺とコイツらか?まあ初対面時はともかく、今は顔見知りだな。それ以上もそれ以下も無いな」
「飲みに行ったりとかは?」
「飯は何回か。酒は俺自身が飲めない」
「食事はどの様なところで?気に入った店とかは?」
「街中にある店だな。気に入った店は今のところ無いか?もしかしたら俺が思い出せないだけかもしれん」
「そうですか。では最後になのですが、ちょくちょく思ってたのですが当時あった時は初対面ですよね?」
「そうだが?」
「普通は呆然としたり興奮したりすると思いますが?」
その質問に当事者一同も耳を傾けた。
「すいません記者さん。実はそれ私たちも同じ事を思ってまして。普通はサインを求められたり声援を贈られるものかと思ったのですが、こちらの方はそれがどうも希薄で」
「そうですよね?どうも普通に知り合いと話す距離感というのが感想でして」
「それで?どうなの?」
「どうも何も。普通に知ってるが?」
「何だ。知ってるじゃない?」
「いやちょっと待て?質問を変えるわ。私達と会う前に私たちを見たことは?」
「どういうことだ?」
「私たちは本来放送や演者などで放送に映る存在なの。つまり?」
「演劇や出演者として知ってるかってか?そういう意味なら知らん」
「『え』」
「ほらやっぱり…。おかしいと思ったのよ。初対面の時もそうだったけど、どうも本当に私たちの事を見たこともない目で来たからもしやと思ったけど、予想通りね」
「ということはテレビで俺たちを見た事ない?」
「私たち、アイドルだけど?」
「俺も有名な演者かと思ったが?」
「私は結構多方面で出演してるはずだけど?」
「そんなもん聞かれても知らんものは知らん」
「『………』」
ここでこの場にいた全員。そう、宿屋の従業員も含めて彼の発言で一時静粛した。別の意味でショックを受けたのだ。それは中継元である放送局のみならず、視聴者全員そうだ。「あの有名人たちを全員知らないとは」という心境に陥っている。
「つ、つまりそれを知らないでこの場にいると?」
「それ以外あるか?」
「い、いいえ。質問は以上です。えっと、演者の皆さんも大変ですね。何も知らないというのは」
「心遣い、感謝します」
「では報道陣は失礼します」
「お疲れ様」
報道陣、退散。現在この場にいるのは当事者ともう一人である。
「んで?お前らの質問は?」
「さっきの発言で忘れてしまいました」
「は?さっきのって、お前ら知らない発言か?」
「はい」
「そこまでの事じゃないだろ。知らないものは知らんし、俺以外に知らない奴もいるだろ」
「まあ、確かに世の中広いですからそういうのは覚悟してましたが、意外と心に来ますね?」
「ええ」
「そうか?それはすまんかったな。まあ取り敢えずはこの後どうするんだ?」
「この後?」
「お前ら飯は?」
「飯…。あ」
「思い出したか?もう既に昼をちょっと過ぎたところだ。お前ら朝食ってないだろ?飯くらい付き合ってやる」
「い、良いのですか?」
「俺を何だと思ってるんだ?それくらい付き合ってやる。それとお前らはもっと気楽にしろ」
「気楽ですか?」
「ああ。俺は特段偉人ではない。ただの憲兵だ。そこまで固くなる必要は無いって事だ」
「え、でも…」
「二度は言わん」
「…そういう事なら」
こうして多少冗談交えつつ、食事を続けた彼ら。いつの間にか気楽に話す仲になっていた。