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コンサート前トレーニング

コンサート前トレーニング





翌日の朝。今日このグループは日本国内初公演を開演する。その前の最後の調整を行なっていた。現在そのグループ一行はホテル内のトレーニングルームでフォーメーションやスケジュールなどの確認をし合っていた。



「3番がちょっと動きが速いか?」

「そうね。気持ち遅くしたら良いかも。男子側で調整出来る?」

「やってみる。逆に女子側は最後が決まらないな…」

「それは女子リーダーの私も思ってたし、私のみならず、ここは皆課題として取り組んでいたんだけど…」

「上手くいってない感じか?」

「まあね…。マネージャーはどう思う?女子の最後」

「う〜ん…。悪くは無いんだけど、何かこう『キマッた!!』という感情が生まれないんだよね〜」

「まあ、気持ちは俺も分からんでも無いかな。確かにそう見えると言えば見えるが、見えないとも言えるんだよな」

「…どうしたものかな〜」



一同が試行錯誤するも、先に進んで無いことに焦りを感じていた。もうそこまで時間がないのにどうしたものかという雰囲気になっていた時、一人のメンバーが声を挙げる。



「なあ。外部から意見をもらったらどうか?」

「『外部?』」

「外部って誰よ?言っておくけどダンスとかは本番まで秘匿よ?まさかファン達に『助けてください〜』とも言えないでしょ?」

「外部って言ってもそういう意味での外部じゃ無いって」

「ならどこだ?」

「そこまで外部じゃない。あくまでも関係者扱いだ」

「だから誰なんだ?」

「俺たちの警護をしてくれてる日本の衛兵達だ」

「『衛兵?』」

「衛兵ってあれか?正式名称が国家警察?だっけ?」

「そうそう。日本は憲兵と警察が存在する。その警察の方だ」

「けど警察に聞いて分かるかな?」

「さあな。けどダメ元で聞いてみるのも手なんじゃないか?それに時間も無いしな」

「…仕方ないな。コイツの提案に乗ってみるか?他に案があれば挙げてもいいが…」

「『…』」

「そら無いわよね…。分かったその方法で試してみましょう」

「俺が聞いてみる。言い出しっぺだしな」

「多分目の前のドアじゃなくて、廊下に立ってると思うよ。さっきそこで見かけたから」

「分かった」



駆け足で警察官に向かう。

ガチャン!



「?」

「あ、あの〜…」

「はい?」

「ちょっと手助けが欲しいのですけれど…」

「手助けですか?いかほどに?」

「ダンス関連に得意な方っていらっしゃいますか?」

「ダンスですか?」

「はい。ご存知の通り、本日の夕方から開演なのですが、そこで使用するフォーメーションに課題がありまして。ご意見をいただければと思いまして…」

「あ〜…、そういうことですか。ですが自分たちに意見を聞いてどうするのですか?いえ意地悪とかでは無いのですが、素人に近い自分たちに意見を聞くのかと言うのがどうなのかなと思いまして…」

「分かっています。分かっていますが我々も少々追い詰められていまして。このままではファン達を裏切ってしまう事になってしまうのです。それでは折角来てくれたファンやお客さん、施設を快く貸し出してくれた方々や準備などをしてくれたスタッフ達に申し訳が立たないのです。何よりここまで自分達を守護及び案内してくれた貴方達警察の方々にも裏切ってしまう。ですのでここは恥を忍んでお願いをしています。力を貸していただけませんか?」

「…」

「…」

「…」

「…ダメですか?」

「…自分はダンスには詳しくありません。仲間に聞いてみましょう」

「!ありがとうございます!」



「20から一斉。20から一斉」

『どうした?トラブルか?』

「いや違う。要警護対象から依頼だ」

『『依頼〜?』』

『はあ?依頼?何の依頼だ?』

「誰でも良いからダンスや舞踊関連に詳しいのはいるか?男女問わず」

『いるが、何故だ?』

「その警護対象からの依頼だ。『フォーメーションやダンスのポーズに課題があるから力を貸して欲しい』だと」

『『…』』

『そう言うことか。誰かいるか?俺は心当たりがあるが?』

『俺もだ』

『私もあるよ』

『あたしもだよ。多分』

『『101が詳しい』』

『だろうな。101、取れるか?』

『聞いた聞いた。力になれるかどうかは分からんが、試してみよう。10分で行くと伝えてくれ』

「了解。伝えておく」



「どうでしたか?」

「力になれるかどうかは分かりませんが、ダンス関連に詳しい方なら来ますよ。10分で来ます」

「!そうですか!ありがとうございます!感謝します!」

「感謝される覚えはありませんよ。それに問題が解決したわけではございません。時期尚早というやつです」

「そ、そうですか…」



警察官のドライ発言に少々たじろぐ。

10分後に一人男性がやってくる。



「お疲れ様。巡査部長」

「おう。お疲れ様。依頼者か?」

「そうだ。詳しい話は室内でだが、話を聞くと課題点が少々あり、特に女子陣で曲の最後のフォーメーションやポーズが特に不味い感じだそうだ」

「けどその様子だと他もだろ?」

「らしい。出来そうか?」

「やってみよう。どうも。一応やってみますが、過度な期待はやめてください」

「分かっています。まずはこちらへ」

「分かりました」



これまた駆け足でトレーニングルームへ戻る。その焦燥感を汲み取った警察官は「それほどなのか…」と溜息を吐いた。



「悪い。待たせた」

「遅いよ〜。そちらの方が?」

「そうだ。日本の警察官、衛兵の方でダンス関連に精通している方だ」

「よろしくお願いします。力になれるかどうかは分かりませんが、出来る限りの事はします」

「『よろしくお願いします』」

「ではまずはどこから?」

「そうですね。まずは我々のダンスや振り付けを見てください。その際改善点があれば申し出てください」

「それはあれですか?曲の途中でも?」

「出来る事なら1曲が終えた後が良いですね」

「分かりました。ではお願いします」



曲終了



「どうでしたか?」

「あ〜、そういう感じですか〜。なるほど。大体ですが分かりました」

「本当ですか!?どこを改善すればよろしいのでしょうか?」

「そうですね。取り敢えずは今回は本番に合わせた動きでお願いします。それはこの後レクチャーします。大事なのはこれからで、皆さん共通している事ですが、かなり動きにぎこちなさがありますね。具体的に言えば節々の動きが悪い。平たく言えば身体が硬いですね。それが全体では良くても個々では動きが悪いように見えます」

「そうなのですか?」

「はい。数回見ただけですが、何となくそのような気がします。今からその根拠を出そうと思います。これは見た方が早いですね。俺の動きを見てください」



一同は1人に注目する。すると一同が驚愕する。



「『え!?』」

「な、何ですかその動き!?」

「な、滑らかすぎて違和感がないです!」

「しかも次の動作に移る速度も速い!」

「はい。柔軟さがあればこのような動きも出来ます。そしてそれを応用すると?音楽を流してください。先ほどの曲を」



一同は1人の警察官のダンスに注目する。その動きの良さや違いを比べながら。



「どうですか?」

「『す、凄い…』」

「この動きがあなた達の求める動きやポーズでは?フォーメーションは俺一人なので出来ませんが、参考にはなりましたか?」

「はい!とても!なるほど。柔軟ですか…。盲点でした」

「まずはこの柔軟を徹底的に仕上げればまずは良い動きになるでしょう。ただし今回は時間がありません。ですので今回1回限りの方法を取ります。大丈夫です。振り付けを多少変えるだけです」

「え!?今からですか?」

「大丈夫ですよ。次の動作やフォーメーション変更に役立つ方法です。変えるのは1、2箇所くらいなので直ぐに覚えれますよ。この方法です。ゆっくりやるのでマスターしてください」



見本終了



「あ、あれ?何故か知らないけどゆっくりなのに動作が早く感じる?何故だろう?」

「多分、意外と基本的な事でしょう。基本が出来てないから動きも遅く見える。そうでしょうか?」

「ハズレではないですね。曖昧な表現したのは、この動きは基本が出来ていても出来ない、という事です」

「つまり?」

「頭で考えるより身体を動かす事、です。よくありません?身体が勝手に動いていたとか」

「ああはい。それならありますよ?それと似たような事ってでしょうか?」

「そういう事です。振り付けも覚えて仕舞えば身体が勝手に反応します。それを応用するのです」

「そうですか。では一番の課題である女子陣の最後のフォーメーションや個々の振り付けはどうしましょうか?」

「そうですね。ここは敢えてバラバラなのはどうでしょうか?」

「え?バラバラですか?」

「と言っても全部ではありません。例えば個別シーンになった時に思い思いの振り付けをする。例えばこちらの方ならこの振り付けで。こちらならまた別で、と言った感じにすれば個性が現れると思います。それでフォーメーションは集合や散開時に動きや振り付けを合わせ、最後のポーズも個々の自由、というのは?」

「えっと、それでうまく行くのでしょうか?」

「勿論上手くいかなければ別案を出しますよ。まずはやってみてください」

「はい…」



一通りを終えた一同は少々固まっていた。



「どうやら上手くいきましたね」

「え、でもなんで…」

「確かに振り付けもフォーメーションも息を揃えるのに重要だったりしますが、時にはそれが足枷になったりもします。そこで敢えてバラけさせる事によって気持ちをリセットしたりこの後の振り付けも容易に入る事だって出来ます。勿論これも万能ではありません。貴方方チームだからこそ出来る事ですし、各々の個性が強くけれど協調もできる貴方方だからこそ出来る事なのです。これが個性が強すぎて強調すぎると輪に入れませんし、弱いと逆に押し返されてしまいます。けれど貴方方は良いバランスを取っているのです。それが出来る技というのを覚えるのも良いでしょう」

「『…』」

「取り敢えずこれを繰り返しては如何でしょう?」

「わ、分かりました」

「廊下にいますので、何かあれば呼んでください。では」



警察官が去った室内では少々困惑した雰囲気が漂っていた。



「まさかバラけさせるのが策だとは思わなかったわ…」

「あたしもさ。各々の個性が強い。それで敢えてバラけさせる。けど協調もあるから変にならない。だから再度輪に入れる。意識した事もなかったね」

「これが女のみならず男もか…。色々考えさせられるレクチャーだったな」

「というか男子はまだ分かるが、女子も身体が硬いとは思わなかったな。そんなに硬かったか?」

「そういう訳じゃないんだけど、けど実際にあの人の柔軟さには驚いたわ。あそこまで身体が柔らかいとはね。あれなら動作も速い訳ね」

「そこまで違うのか?」

「ええ。恐らく雲泥の差だろうね。身体が柔らかいという事は可動域も広いつまり?」

「硬いと動きも悪いし怪我する確率も上がる」

「そういうことね。これは今日明日の公演を終えたらひたすら柔軟ね」

「だな。これはキツイトレーニングになるかも…」



出演者が心新たにトレーニングをしていた頃、アドバイスを終えた巡査部長は廊下に立っていた。



「その様子だと上手く行ったみたいだな」

「ああ。だがこれは素人には分からないだろうな。アマチュアくらいなら良いかもしれんが、ビギナーにはダメだな」

「そうかい。んで?課題点はなんだったんだ?」

「なに。見つけるのは正直容易かった。互いが互いに個性という意味で牽制し合ってたんだ」

「は?そうなのか?そうは見えなかったんだが…?」

「いや、この場合は無意識なものだ。日常生活では何て事ないんだ。ダンスでも。けどダンスだと多少それが出ていてな。それを敢えて曝け出すやり方にしたんだ」

「けどそれだと歪み合う事にならんか?」

「いや。それがそうはならん。確かに個性は強いんだがかと言って協調が出来ない訳でもない。そこで牽制させつつ協調し合うことをレクチャーしたんだ。そしたら思いの外上手く行った」

「そうなのか。だがそういうものなのか?」

「案外そういうものだったみたいだ」

「因みに他には?」

「もう一つあったんだが、これは単純だった」

「それは?」

「意外とアイツらは身体が硬かった」

「ほう?柔軟性がなかったのか。そこは俺でも分かるな」

「ああ。そこを鍛えるように教えた。あとはアイツら次第だな」

「そうかい。ご苦労。そろそろ交代の時間だから、一緒にお茶でもするか?」

「…良いだろう。何飲むか?」

「俺は普通に麦茶で良い」

「俺も一緒だな」

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