裏側
あけましておめでとうございます。
相変わらずのクオリティですが、今年もよろしくお願いします。
裏側
アイドルグループや演者たちが日本のホテルの設備やサービスなどに困惑しながらも遠慮なく使用し贅沢を味わっているその裏では、警護任務を遂行中である警察官たちが集まって会議を行なっていた。内容は勿論今回の件、つまり不正受注の件である。現在その件で方面警察本部とビデオ会議中である。
「お疲れ様です警視。現段階での報告会となります。初日ですが、特に問題なく遂行できました。不審者や不審物は無く、監視カメラやセンサーも反応なしです。開催初日まで残り数日ですが、恐らく近所の練習場やジム、それとランニングで多少外出するくらいでしょう。ですが気を抜かずに遂行します。現在契約上では、ホテル内は自由行動としていますが故、全員参加となっています。こちらからの報告は以上です」
『ご苦労。まだ初日でもある為、過激集団も動きがないのはありがたい限りであるが、それが長続きする事は絶対にない。そのことを忘れるな。ではこちらからの報告となる。一応現段階の情報となる為精査及び確認は必須であるが、内容に変更があることを承知の上で聴いてもらいたい。先ず、今回の犯人だ』
「判明したのですか?」
『いやまだだ。だがかなり絞り込めたのは事実だ。まず結果から申すと今回の犯人は警察官、はお前らも分かってるとして、階級は警視正以上であることが分かった』
「『警視正以上!?』」
「そうなのですか!?」
『お前らが驚くのも無理はない。俺だって驚いたさ。まあそこまで驚きもしなかったがな』
「証拠は集まったのですか?」
『証拠自体は集まってはいる。だがその誰かというのがまだなんだ』
「そうなのですか。ですがどうやって警視正以上だと判明したのですか?」
『きっかけが1本に寄せられた電話だ。電話と言ってもただの相談窓口なんだがな。お前らも知ってるだろ?今回の任務にあたるまでの経緯を』
「詳しくは聞いていないのですが、大まかに言えば、確か異世界の民間警備の警備体制に疑問を持っている、具体的にはその民間警備の情報漏洩や過剰なストーカーが原因、そしてどういう訳か日本に依頼が来たのは民間ではなく国家機関である我々、でしたっけ?」
『その通りだ警部。その1本の電話が来た。対応した職員は通常通りの仕事をこなした。そこは良いしその職員もその責務を果たしている。しっかりと情報を聞き出した上で最良の選択肢や企業の紹介もしたし、何なら信頼できる民間警備も紹介したしな。これは音声録音にもしっかりと入っている』
「そこまできっちりと説明したのに、何故また来たのですか?」
『いや、ここからが厄介なんだ。実は電話自体はその1回だけなんだ』
「え?どういう事ですか?」
『実は当初。相談者もそれで行こうと思ったそうなんだが、何故か知らんけどその後電話があったそうなんだ。国家機関である日本の司法、つまり警察のお偉いさんからの電話が』
「『え!?』」
一同が驚愕した。まあ当然だな。日本の、しかも警察のお偉いさんから直々の電話だ。驚かない方がおかしな話である。何故そのような暴挙に出たのかはこの後の警視からの説明で分かる。
「ど、どうして警視正以上の階級が?」
『先の聞き込みで分かった事なんだが、さっき1本の電話で対応した職員は責務を果たしたと言っただろ?そして選択肢や企業を紹介したと。その後が問題なんだ。いや対応自体が問題ではない。むしろ正規の手続きをしていた。
話を続けると、相談窓口は問い合わせが来たことを所属している直属の上司に資料や録音などを報告する義務があるんだ。当然その時も上司に報告した。今回の相談内容的に、生活安全課やサイバー犯罪対策課あたりだろう。それを報告して本来は終わる予定だった。だがここで予定外の事が起きたんだ。いや予定外ではないんだがな。
相談窓口の上司というのは、基本的に階級が警部か警視なんだ。そこで終了か翌日の引き継ぎの際に報告する。んでさっき予定外の事なんだが、時々抜き打ち調査があるんだ。頻度はそこそこある。調査内容としては警視正以上の階級が指揮の元、相談窓口職員の言動や素行調査を兼ねて調査するのだそうだ。そしてそれは一部の相談からも抜粋する時がある。恐らく犯人はそこで調査のつもりで引き抜いたのだろう』
「分かってきましたよ。犯人は初めはあくまでも職員の調査のつもりで資料を引き抜き、そこで当該の資料を発見。初めこそは犯人も内容や録音データを聞いて言動に異常がないかどうかを確かめるくらいだったが、資料は事細かく記載されている。そこで企業名も分かってそこでどう思ったのか推しでもいたのか、とにかくその相談をこちらで引き受けたいという衝動に駆られ企業に問い合わせしたと。そういう事ですか?」
『そうなるな』
どこで企業名や情報を知ったのかがここで判明した。だが疑問が残る。それを一人の警察官が質問した。
「警視、待ってください。けど何処で企業名などを知ったのですか?確か相談窓口って匿名ですよね?」
「『あ』」
『疑問は当然だ。俺もそれは思った。だが案外単純なものだったんだ』
「どういう事です?」
『簡単だ。相談者が普通に企業名や情報を対応した職員に言ったそうだ。音声にも残ってた』
「そういう事ですか・・・」
『ああ。至極単純な事だったよ。とまあ、まず情報を知った理由はこのような結果になった。経緯としては以上だが、質問は?』
「『・・・』」
『ないみたいだな。では次に調査で分かったことだ。ぶっちゃけた話最悪な事実が判明した。これには調査をあたった職員や警察官一同は言葉を失ったな。無論指揮した俺もだ』
「何ですかその最悪な事実というのは?まさか新たな不正が?」
『いや、今までは前夜みたいなもの。ここから先が本題だ。まずはこれだ。金の流れ』
「『金?』」
「金ですか?・・・まさか!?」
『察しが良いな。恐らくその通りだろう。言ってみろ』
「今回の警備に関する費用は、全てその犯人のポケットマネーではなく、税金で賄われている。と?」
『その通りだ』
今度は金の流れが不正に支払われている事が分かり、一同落胆する。
「マジかよ・・・。国民からの信頼を失墜させる知りたくなかった事実ですね・・・」
『全くだ。それで金の流れとしては、このような調査結果が上がった。先ずは警備に関する資金の流れだ。まず俺たちが仕事に関わる事や給料なんかは国民からの資金で賄ってもらっている。良いか?俺たちはあくまでも国民からの信頼を得て今の仕事についているんだ。当然責任も伴う。それは分かっているな?』
「『はい』」
「勿論です。ですがそれを私的に流用している不届者がいる、と」
『そういうことだ』
「ですがどうやってその資金をかき集めたのですか?例えばですがまさか金庫から引き抜いたとか?」
『例えばでも金庫が警察署内にある訳がないだろ。まあそれはそれとして、その方法ではないんだ。申請、所謂経費申請書に記入したのだろう』
「ですがそういったのって経理担当がしっかりと精査するのでは?でないと審査も通らなさそうと思いますが?」
『そこが狡賢くてな。1回で申請したのではなく、十数回に分けて申請したんだ。日付も変えてな』
「え?ですが領収書も必要では?」
『いや。これ苦労してかき集めたんだが、その犯人、人脈が広くてな。色んな伝手から架空請求で資金をかき集めたんだ。無論それに対する報奨金も支払ってることも分かった』
「よく分かりましたね?令状とかも無かったのに?」
『いやな?実は偶々検事が別件で来署しててな。その時に次いでに報告したんだ。そしたらその検事、怒り狂って同伴を言い出してな。宥めようにも更に火に油を注ぐ事実が分かったんだ。それで仕方なく同伴してもらった』
「・・・何か嫌な予感がしますが、続けてください」
『それで業務上横領や有印私文書偽造罪でその人脈全てあたって当該に関わった者全て連行したんだ。お陰で大変だったな。まあ裁判所に申請せずに済んだから良いけどな。それでその領収書や申請書、当然偽造された奴で経理に申請して通した、ということだそうだ。ここまで巧妙だと経費担当も分からないだろうな』
「その得た資金で今回の警備費用に充てたと。そういうことですね?」
『もう答えを言った様なものだがな』
「・・・この時点で国民のお金を私的使用した業務上横領、経費申請書を偽造して提出した有印私文書偽造罪だししかも行使もしているから行使罪、最後にそれに協力し結果をあげた悪党に金を支払った贈賄罪ですか・・・」
「警部。詐欺罪はどうですか?」
「う〜ん・・・。誰かを貶めている訳ではないし、仮にそうだったとしてもそれを受けるのは人脈の誰かだろうから、今回は当てはまらない、のか?」
『まあその辺りは検事と交渉してみるさ』
犯罪のオンパレードがここで判明した。その事実に署内にいる者も任務遂行中の者も、皆犯罪者に対して憎悪を抱いていた。
「それにしても犯罪の得点3点でハットトリックですか」
『いや何故サッカーなんだ?そこは3アウトチェンジで野球だろ。まあとにかく現段階で判明した事は以上だ』
「けどそこまで詳細が分かってるのでしたら犯人も分かってるのでは?」
『いやそれが容疑者を絞れないんだ。何しろ警視正以上だし大体が人脈だらけだしな。まあ絞り込めるとしたら、先ずここ2ヶ月で警視正以上の階級持ち、次に有給申請または直近で欠勤した者、そしてそれを変更または返上していない者をとりあえず絞れば、この時点ではまだ50人以上はいるが、ここからどうやって絞るかはこっちの仕事だ』
「因みにその絞り込んだ意味は?」
『まず昇格は常にあるものじゃない。それに直近で昇格したのが2ヶ月であること。次に有給申請できる1ヶ月前までに申請した者と風邪等含め当日欠勤した者。そしてそれを変更または返上していない人物で絞り込んだ結果だ』
「ですがどうして有給申請した人物や欠勤者に絞り込んだのですか?」
『根拠は弱いが、企業名やその内容を知ってから伝手を頼ったり申請書作成などにどうしてもラグが生じる。それに闇雲に休んだり不可解な行動をとると怪しまれる可能性がある。当日欠勤も似た様な理由だ』
「なるほど。でしたらもう少し絞り込めるのでは?」
『というと?』
「先ほどの抜き打ち調査です。いくらランダムとはいえ記録には必ず残さなければなりません。ここは他も見ているし記入もしているので改竄はできないはずです。つまり?」
『なるほどな。抜き打ち調査した日付を遡れば良いのだな?となると大体3ヶ月は見といた方がいいな。絞り込むと、こうなったな。15人まで絞り込めたな。あとはこっちで絞り込んでみる。ありがとう。探しやすくなったぞ』
「いえいえ。それくらいは。では以上ですかね?」
『そうだな。何か質問は?』
「ああ、それでしたら私から。今回国家警備隊はこの警護に参加しないのですか?」
『今回はしていない、が、今回の警護に疑問を持っているのは向こうも同じだ。現段階で後程報告しに行く』
「そうですか。分かりました。では以上で通信を終わりましょう」
『そうだな。お疲れ様』
「『お疲れ様でした』」
こうして着実に犯罪者を追い詰める手筈が整ってきていた。何が何でも犯罪者を追い詰めるその感情を一旦抑えながら、現地にいる警察官たちは明日に備え休養に入った。




