会場までの道のり
会場までの道のり
一同は漸く入国審査を終え、出口に向かう通路を歩いていた。その際、隣国公国との建物のレベルと室内の違いなどに驚愕していた。まずは一同の視点から。
「プ、プロデューサー。日本の技術ってここまで他国と違うのですか?」
「ああ。違う。一つ一つの細部までこだわりがある。例えばこの通路だって間接照明などを使ってこの空間を彩る様にしているし、広場も吹き抜けにしたり天井をとても高くして、そして天井を出来るだけガラスにする事によって太陽の光だけでここまで明るくしてるんだ。勿論照明もそれ相応の物を使用している。日本国のレイアウト技術も凄い物だろ?」
「はい。私たちの国にも欲しい技術ですね。それにこれだけ広大な敷地に階数の多さですと人が多くても窮屈には思いませんね」
「それは俺も同意見だな。けど今は仕事だ。それに俺たちは長時間にわたる入国審査待ちで心身共に疲弊している。まずは宿泊施設に向かおう。プロデューサー」
「いや、その前に会場の下見を先にしたい。その後に宿泊施設に向かおう」
「それもそうだな。それで、待ち合わせ場所はここで良いのか?」
「その筈だけど・・・。ここの筈だがな・・・。あれ?」
「本当にここなの?ここって出口付近の広場みたいな場所だけど、人が多過ぎて分からないわよ?」
「う〜ん」
一同が呆然とする中、数人の男女が近づく。
「プロデューサー」
「誰か近づいてくるわよ?警戒した方が良いんじゃない?」
「分かってる。君らは一旦後ろへ」
「ああ」
「どうもこんにちは」
「えっと?どちら様ですか?私は貴方方を存じ上げないのですが?」
「だろうな。けど我々は貴方方を知ってる」
「どこでですか?」
「勘違いしないでくれ。君たちが我々に依頼したじゃないか」
「『?』」
「い、依頼?なんの?」
「警護依頼ですよ。お忘れですか?」
「・・・あ」
「『あ』」
「ということは貴方方が?」
「はい。我々がこの国の法執行機関である警察、地方警備隊です。これが我々のバッジとIDです」
「『な、なんだ〜・・・』」
「驚かせないでくださいよ・・・」
「それは失礼した。私が責任者を務めます。よろしくお願いします」
「こちらこそ、お願いします」
「『お願いします』」
「ではまずはどちらへ向かいますか?」
「まずは会場の視察したい。その後は宿泊施設へ」
「分かりました。ではこちらへ。バスにご案内します」
「『バス?』」
「バス?バスって何ですか?」
「多人数乗りの荷車と思って頂いて。こちらへ」
「はい」
「これより一同をバスに案内する。各自警戒せよ」
『『了解』』
「ところでそちらの動員数はどれくらいですか?人数が少ないように見えましたので」
「30人から40人に変更されたのです。人員変更はこちらも余儀なくされましたが、どうにか出来ました。一人に付き2人付かせるので、別部署含めて100人動員しました」
「100人も!?」
「但しこれが最大です。これ以上は動員出来ません」
「けどそれだけの人数を頂いて感謝しています」
「感謝?それを言うのは時期尚早。貴方方の行動一つ一つがリスクを背負うのです。それを承知なのですか?」
「『・・・』」
「既にそれを経験している貴方方でしたらそんな行動はしない事を祈っています」
「『・・・』」
警備隊の発言に沈黙する一同。その言葉にとても重みを感じていた。民間警備や冒険者ギルドにはなかった空気感である。
「流石は国家機関、しかもその機関でも日本国の警備隊という、とても強く優秀なあなたの発言はとても他とは違いますね」
「どういう意図でその発言したのかは知りませんが、危機管理能力の無さに我々が呆れているのをご理解ください。では進みますよ」
「あ、はい・・・」
「な、何やってるのよ!!プロデューサー!!」
「警備隊の彼らを呆れ果てさせてどうするんだよ!?」
「ごめん・・・」
「けど私達もその危機管理能力が無いから今まで襲われたり裏切られたりしたのかな?」
「分からないね。それは当事者のみぞ知るからね」
「だな。けど彼らなら安心だな」
「ちょっと怖いけどね。ねえお姉ちゃん?」
「ね〜」
暫く歩き、バス専用の駐車場に到着する。我々としてはバスが止まってるのはよく見かけるので何とも思っていないが、日本へ初めて来た一同にとってはその物珍しさに足を止めていた。
「こ、これがバス!?」
「お、大きいな」
「これ、何人乗るの?」
「見た感じ40人全員乗りそうだけど?どうなの?」
「さあ・・・。あの、これって何人乗るのですか?」
「バスですか?グレードといった物によってそれぞれですが、40〜55人まで乗るバスもありますよ。今回乗るバスは50人乗りのバスになります」
「50人ですか?結構高い物では?」
「いや。フラッグシップというか、汎用性の高いバスですので、そこまで珍しく無いですよ。寧ろ街中でよく走ってます」
「街中で?確か車って、軍管理とかでは?」
「間違いではありませんが、まだありますよ。国家機関管理下か関係者でしたら運転可能です。つまり運転しているのは全員国家機関所属の職員という事になります」
「そうなのですね。という事は今回の方も?」
「警察機関、警備隊所属のドライバーです。それと今回皆さんが乗車するバスはこちらです」
「これが・・・」
「『おお〜〜』」
「さ、お乗りください。座る席はお好きにお座りください」
「『はい』」
「CP。こちらシールド1。これより移動開始。GPSやNシステム、カメラなどで監視を頼む」
『了解』
・・・・・・
ところ変わって某所。ここでとある事が始まろうとしていた。
「遂にこの国でも開催される日がやってきた。1ファンとして、このファンクラブの代表として、嬉しく思う」
「俺もです代表。ですが残念ながらこの国の演者はとにかくレベルが高過ぎて他国の演者が門前払いの如く弾かれるのは忍びないし、我々の演者グループも弾かれるのは忍びない。我々の推しのグループもきっとこの国の演者達と引けを取らない筈だ!!」
「はい!それを他に布教するのは私達の仕事!!やってやりましょう!!」
「ああ!けどあくまでも程々に、迷惑をかけない様にな!!」
「代表。現在ファンクラブの在籍数は1万人ですが、目標はどこまで?」
「とりあえずは5万だ。高すぎる壁も弊害でしか無いからな」
「それに今回はあの大きな箱で開催される。演者達を間近で見ることが出来るんだ!!そこで演者に見てもらうんだ!!我々の本気を!!」
「『おおお!!!!』」
「けど今回はサインを求めるのは容易では無いですよ。何しろ情報によれば民間警備や冒険者ギルドで雇った奴らが裏切って情報公開したり金をせびったりしたそうだ。それでこの国ではその二の前になりたくなくて、国家機関の警備隊に依頼を出したそうですよ。知り合いが言ってました」
「まあでも警備隊の方が安心か。撃退できるし逮捕もできるし」
「はい。ですがその分警戒は厳重です。なので接触できるのは握手会やサイン会のみとなりますね。グッズ会に出るとは思いませんし」
「そうだな・・・。けどそれでも我々は変わらない!!行くぞお前ら!!この国にも布教活動をするぞ!!!」
「『おおお!!!』」
「は!程々に、か。だから拡大出来ないし布教も出来ないんだ。偶には過激に行かないとな」
「そこは私も同意見だ。過激に行かないから。私らは私らで行動しようか」
「ああ。まあ俺たちはあっちの派閥とは違ってこっちは少数しかないが、200人もいれば十分だ。まずは何する?」
「流石に日本の警備隊相手にドンパチはマズイ。一瞬でこっちがお陀仏だ。しかも向こうはガチだ。一つの油断が命取りだ。少しの情報も晒すな」
「『おう』」
二つの派閥が行動を開始した。一つは穏便かつ誠実な派閥。もう一つは過激かつ荒手な派閥。但しこちらは非公式の為厳密に言えば派閥ではない。自称ではあるが、それを知る者は少ない。
・・・・・
バスは会場に向けて走行中。その車内では会話が繰り広げているが、演者同士はまだし、警護人と演者達の会話は皆無であった。実際、プロデューサーが何かしら声を掛けようとするが
「あ、あの・・・」
「何か?」
と、このように『仕事なので声掛けないで?それとも邪魔したいのか?』と言わんばかりな眼光に思わず慄いてしまう。
「き、気まずい・・・」
「プロデューサーが変なこと言うから」
「すいませんでした・・・」
「まあそれはそれとして、一体どんな所だろう?」
「さあね〜。けど箱自体は大きいと言ってたから、案外郊外かな?」
「けど日本国の領土って地方でも郊外でも何処もいっぱいだよね?まあ山間部は除くけどそんな土地ってあるのかな?」
「う〜ん、どうだろうな?案外あるんじゃないか?例えば再開発とかで設立とか」
「そうなのかな〜?けど楽しみだね〜」
「まもなく到着します。左手に見えるスタジアムが貴方方の使用する会場です」
「結構時間掛かりましたね」
「まあ、会場自体が広範囲というのもあり、都市部には建設出来ませんでしたから。ですがここの領土内では最大の収容人数を誇っています」
「因みに収容人数はいかほどに?」
「公式ホームページによれば収容人数は20万人を超えるそうです。22万と書いてあります」
「『22万人!?』」
「そこで歌うの!?私達!?」
「そうなるね・・・。ヤバいかも。緊張してきたわ・・・」
「俺もだ。けど22万人って。ここの箱全部埋まるか?俺たちのステージで?」
「分からないな。それは当日の結果次第だな」
「因みにここって結構地方にあると思うのですが、移動手段は?」
「駅直結の鉄道、都市間バス、それと大きな湖があるので、対岸から船が出ていますね」
「あの、バスと船は分かるのですが、鉄道とは?」
「でしたらこちらへ。すぐ見えますよ。あの連絡通路に繋がっている建物が見えるのは分かりますか?」
「はい」
「よく見てください。まもなく通過しますよ」
「え?何がです?」
ゴオオオオ!!!!
「え!?何か来るよ!?」
「な、何だ!?」
「あれですよ。上を見てください」
「え?上って・・・あれ何!?」
「あれ何!?凄い早いわよ!?」
ヒュンヒュンヒュンヒュン!!!!!
「しかも物凄い勢いで通り過ぎていった・・・」
「あれが鉄道ですか?」
「はい。但しあれは鉄道と言いましても違う鉄道です。高速鉄道と言いまして、我々では新幹線と言います」
「『新幹線』」
「はい。主に中長距離の都市間を結ぶのに使われます。短距離や中距離だけど、中距離の中で短距離でしたらあれとは違う鉄道を使用します。主に高架で走る鉄道と地下を走る地下鉄があります」
「『地下も走るの!?』」
「はい。高架を走る鉄道は短中距離向けに、地下鉄は都市部に使われます」
「では当日はあの新幹線が止まるのですか?」
「はい」
「けど止まれなくないですか?」
「いえ。今通過した新幹線は速達タイプの新幹線。ここを止まるのは種別が違う新幹線です」
「『新幹線で種別が違うのですか!?』」
「はい。それは他の鉄道もそうですし、船や飛行機もバスも同じです」
「『ほぇ〜〜・・・』」
「因みに船は?」
「船着場は少々離れてますが、徒歩10分以内に到着します」
「そうなのですか・・・。しかし駐車場も広いしバス枠も多い。ここが埋まるとどうなる事やら・・・」
「想像つかないね・・・」
「ね〜」
一同は会場の規模の大きさに駐車場の広さ、それと日本国の技術を使った移動手段に興味津々に見ていた。




