本格始動
本格始動
警察庁支部内
「お疲れ様です、支部長」
「お疲れ様、警視監。昨日で異世界研修を終え本日から稼働だが、状況は?」
「はい。各員、緊張感を持っています。空気感的に初任務に近いかと」
「まあ、普通はそうだな。逆に緊張感を持たない奴が心配だ」
「そうですね。まあ他にちょっと気になる点が」
「なんだ?」
「講師として招集した異世界の方がどうも警察官に恋慕を抱いているという噂が」
「ああ。そのこと。それは俺の耳にも入っている。まあ別に良いんじゃないか?」
「?そうなのですか?」
「まあ俺としては、だが。知ってるか?確かに日本は重婚禁止だが、未婚かつお相手が異世界人かつ禁止事項に触れなければ重婚を可能としている法が」
「そんなのがあるのですか?」
「まあな。俺も派遣時に初めて知った。だから今自衛隊の中には複数の奥さんが居るらしい。聞いた中で最多旦那2人の奥さん30人とか」
「なんですか?その人数。しかも一夫多妻ではなく多夫多妻とは・・・。何故に?」
「30人居る奥さんのうち3人がバイセクシャルらしくてな。結婚を申し込まれた際に聞いたそうだ。『バイな奥さんでも良いの?』とな。それでも旦那側はOKを出してこの様な状況になったらしい」
「そんなことが・・・。なら・・・あれ?」
「どうした?」
「ではその禁止事項とは?」
「簡単だ。異世界人を本土に同行不可。それを遵守のみ適用。これが生涯続くとか」
「まあ。それくらい守れると思いますね。さて。私はこれで」
「ああ、そういえばお主も新たに設立した警察署の署長だったな。以前は?」
「同階級で京都府警察本部の署長を務めようと思った矢先に今の辞令が。まあ自分で希望出したので強制ではありませんが」
「その割には訛りが無いな?」
「私自身東京の羽田付近で生まれ育ったので、訛りが無いですね。両親も東京と神奈川だったので。警視に上がった時に家庭の事情により京都へ異動届を出したので、京都自体は数年しか居ませんね」
「そうなのか。なら今回は思う存分発揮できるな?」
「はっはっは。そうですね。偶には現場にも?」
「ほどほどにな」
「はい。では」
「ああ。健闘を祈る」
本部署内
「昨日の最後の座学は怒涛な追い上げだったな・・・」
「何を遠い目をしている?それに追い上げと言っても誰かに追われたとか、競っていたとかでも無いだろ?」
「だがあんな授業スピードだったとか、正気じゃ無いだろ・・・」
「まあな。それに借地に関して一部訂正が入ったし『借地の目的は他にも。例えばそこの国家が他種族国家なら変な軋轢を防ぐため、敢えて借地にして我々に教授とか。そこの土地が元々別の土地で交渉材料にした時に我々が介入し、中立の意味として借地とか』。色々ありすぎだろ・・・」
「まあそこに関係するのは自衛隊というか、防衛省の連中だから俺たちには関係ないだろ」
「だな。おっと、そろそろ朝礼の時間だ」
「朝礼とか何するんだ?」
「多分あれだろ?本格稼働するし、異世界だから今までの常識は通用しないから用心しろとか。その辺りだろ」
「なら早く終わるかな?ならまだ良いや。まあ俺としては初めて自動小銃を持つことに不安を感じるんだが」
「それは俺も同じだ。というか一部除いて全員一緒だろ。ただ確か異世界に派遣された何人かはSAT出身だとか」
「あいつらなら毎日撃ってるだろうからノウハウはあるだろ。けど俺たち一般署員にはそんな経験ないだろ」
「まあこればっかりは嫌でも覚えさせられる。そう思えば多少楽だろ」
「何だその無理矢理な思考は。まあ良いや。おっと始まるぞ」
『長ったらしいのは嫌いなので手短に。今日より異世界での治安維持が本格稼働する。だが俺たちの役割は何処だろうが変わらない。地域住民とのコミュニケーションを忘れずに、そして互いを思いやり、敬意を示せ。今日からここの署は本部として稼働する。以上警視監より。最後に一言。私は元SATで隊長を請け負っていた。それが今のポジションに着任している。何が言いたいかと言うと『俺も現場に出る時がある。それを忘れるな』」
「『・・・』」
「返事!!」
「『はい!!』」
「あの警視監。まさかのSAT出身かよ・・・」
「なら現場主義者だな。それにあのガタイだと今でも鍛錬を積んでいるはずだ。これは今までの本部長とは大違いの署長が着任したな」
「・・・生半可にサボれんな・・・」
「俺は結構好感を持てるぞ?」
「そうか?」
「俺はな。どうしても上の立場になると部下の状況に目が行かないことがある。それがあの署長なら俺たちが言いたいことを分かるんじゃないか?」
「・・・そこは同意するが、全面同意には程遠いぞ」
「そこは良いさ。人それぞれで。さてと。俺たちはこれから警らだな。パトカーは以前聞いた通り、バンタイプと聞いたが、どうだ?」
「お疲れ様です」
「お疲れ様。異世界初警らは?セダン?それともバン?」
「中良さそうですね。警部補の2人は」
「まあ、同期だし高校からの付き合いだしな。それで?」
「ああすいません。異世界人の教育が終えるまではセダンタイプでの警らで頼むという命令がありました。ですのでもう暫くは地球と同じ要領でお願いします」
「「分かった」」
「それで?今日のエリアは?」
「そこの2人」
「あ、お疲れ様です」
「お疲れ様です、警部」
「ああお疲れ。今日お前らにはここのエリアを頼む」
「ここですか。勿論いつも通りにやりますが、理由をお伺いしても?」
「この辺りは富裕層をターゲットにした商業が立ち並ぶ。当然それに漬け込んだ輩も存在する。お前らにはそこで俺たちが本格稼働した意味合いも込めて、広報と警戒を頼む。次いでに犯罪傾向も調査を見回りも兼ねて頼む」
「「分かりました」」
「HQ。こちらブラボー2。警らを開始する」
『HQ了解』
「そういえばなんでHQなんだ?」
「忘れたのか?本来なら〇〇本部と付くが、異世界は兎に角土地が広い。だから基本CPで、地域や管轄を超えそうになったらHQというのを忘れたのか?」
「いやそうじゃなくって、その理屈なら俺たちも本来ならCPと呼称すべきだろ。何故HQなんだ?」
「ああそれか。俺たちがHQ、つまり本部所属だからだろ」
「それだけか?」
「それだけだろ。現に無線を聞いていると」
『CP。こちらデルタ33。警ら開始』
『CP。こちらフォックス1。警ら開始』
『CP了解』
「と、まあこんな感じだ。ちゃんとCPはCP。HQはHQで分かれてるんだろうよ」
「まあ、そこは上が決めたことだし、俺たちには関係ないか・・・」
「だな。おっとそこを右。その後は各店舗で見回りだな」
「了解」
ガヤガヤガヤガヤ!!!!
「まあ、富裕層ターゲットとはいえ、物静かというほどでもないな」
「まあこんなものだろ。富裕層ターゲットの店って、本土で言えば?」
「銀座?となるとこんなもんか」
「そう思うとそうかもな。しかし・・・」
「ああ・・・」
ジーーー・・・
「何で視線が集まってるんだ?」
「まあ、車内からでも視線があったのは事実だしな・・・多分見慣れないからじゃないか?」
「そんな俺たちが未確認生物みたいに言うんじゃないわ・・・」
「ねえおにいさん?」
「うん?何だい?」
「あ、コラ・・・」
「いえ構いませんよ。どうしたのお嬢さん?」
「おにいさんってなにしてるひと?」
「え?仕事?」
「うん」
「ああ〜・・・」
「いい。普通に言ったれ」
「お兄さんはね。日本の警備隊だよ」
「『!?』」
「けいびたい?」
「そうだよ」
「そっか。がんばってね!!はいあめ!!」
「ありがとう。気をつけてね」
「は〜い」
「ほら。ママが待ってるよ。すいません娘が」
「いえいえ。大丈夫ですよ。・・・やっぱり見慣れないですか?」
「それもあると思いますが、まずここの国ではありませんが、別国では警備隊と聞くと軽蔑の対象なのです」
「警備隊が?何故?」
「その、汚職が・・・」
「「・・・」」
「それで皆が貴方方を見極めてたと思います」
「それは仕方ないか・・・」
「それだけではありません。2つ目に犯罪を摘む存在である組織が裏と繋がっているのもあるのです。ある意味汚職と似た様なものですが」
「それって、犯罪助長しているってことか?」
「それもありますが、逆に警備隊が犯罪組織に賄賂を贈ってると言うのもありますね」
「何だそれは!」
「怒るな。それはあいつらの国が悪い。すいません同僚が」
「いいえ。そうやって怒ってくれるだけでもありがたいですよ。ですが残念ながら今でも存在しているのも事実ですね」
「そう言う意味でも見極めか」
「はい。そして3つ目。これが最大の理由かと思います」
「それは?」
「貴方方の所属国は?」
「日本ですね」
「異世界で日本国の印象は?」
「?どういうことだ?」
「いや。この場合仲が良い悪いかではなく、異世界最強の軍隊を保有しなおかつ謎の国家。種族関係なく喧嘩を吹っ掛けたら容赦なく殲滅する武力で制圧する国家。こういうことでは?」
「左様です。ですので日本国と聞くと畏怖の対象となってしまうのです。一つの言動が国家消滅を招きかねないですから」
「そんなことでキレたりしないが・・・」
「いや。国民にとってはそれも分からんのだろう。だから今でも遠巻きに俺たちとこの人との会話を固唾を飲んで見ている。そういうことだろう」
「はい。ですので本来はこうやって近づくのも正直怖いのです。何されるか分かりませんので」
「んなもん犯罪を犯さなければ人当たりの良い警備隊だ。少なくとも俺たちは」
「はい。それは私の娘との一部始終を見た皆さんがお分かりかと」
コクコク
「なら重々。まあ急には認識を変えれないのも分かる。けどその認識を変えてくれることを祈る」
「それは私たちも同じですね。では」
「はい。あ、娘さんの目を離さないように。あの子の年齢ですと色々と目移りして大変では」
「・・・驚きました。もしかして所帯持ちですか?」
「ええ。人族基準で申し訳ございませんが、私の娘が今10なのです。なので買い物に連れ出されると目移りが」
「はっは!そこは地球でも同じですね。ありがとうございます。では」
「はい」
「なるほどな」
「そういうことだ。まあさっきの始終を見た奴らの視線が変わった感覚があるから恐らく一理あるんだろ」
「だな。さて。この店から聞き込み開始するか?」
「だな」
チャラーン
「こんにちは」
「いらっしゃいませ・・・あれ?日本国警備隊?」
「?あ、ネームプレートだ」
「ああ」
「・・・」
「あの?大丈夫ですか?」
「あ、あ、ああ、はい。大丈夫です?」
「何故そこでハテナマークが出るんですか・・・」
「えっと、いえ、大丈夫です・・・」
「何だこれ?」
「さあ?」
「何か騒がしいね?どうしたの?」
「あ、店長!」
「「店長?」」
「どうしたの?何かあった?何かされた?私の従業員を手を出したやつに鉄槌を」
「い、いえそうではなく」
「あ、そう?じゃあどうしたのよ?何故が知らないけど今この場にいる全員が同じように沈黙してるし・・・」
「えっとですね?」
「うん」
「現在入り口にて」
「はい」
「日本国警備隊が」
「・・・」
「店長?」
「ごめん、もう一回言って?」
「だからその、日本国警備隊が」
「・・・」
「いらっしゃってます・・・」
「・・・」
え!?何で?何したのこの子!?何で日本国の法執行機関である警備隊が!?あ、それより・・・
「何で・・・?」
「いえ。それがまだ来店理由を聞いてなくって」
「・・・」
「聞こうと思ってたら」
「私が来たと?」
「・・・はい」
うわ〜何という最悪なタイミング・・・。けどここは、私しかいないよね・・・はぁ・・・。ごめんダーリン。ちょっと今日の晩御飯には行けないかも・・・
「初めまして。ここの店長ですか?」
「あ、はい」
「どうも。日本国警備隊です。ちょっとお話し宜しいでしょうか?」
「『!!??』」
「・・・何を緊張が走っている空気になっているのかは分かりませんが、別に何かして粗相をして連行とかではないですから、ご安心ください」
「『ホッ・・・』」
取り敢えず誰か逮捕とかではないのね。安心、ってまだ安心出来ないじゃない!!
「でしたら本日はどのような要件でして?」
「いえ。簡単に最近の近況をお教え頂ければと思いまして」
「近況ですか?」
「はい。経営状況とかではなく、不審者とか、不可解な点とか」
「・・・」
「あの?」
「ああ、失礼しました。因みにそれを聞いてどうしますか?」
「どうって?」
「普通に犯罪を止めさせる、発生したらその犯人を捕えるだけだろ。あとは犯罪を未然に防ぐ対策なども含めて、今こうして回っている以外に考えられるか?」
「『・・・』」
「お前はもうちょっと乱暴な言動を控えるべきだな・・・」
「五月蝿い。お前俺が改善できないのを知ってて言ってるだろ」
「知ってるからこそ何とか出来ないか?と今聞いてるんじゃないか・・・」
「『・・・』」
「何だよ?」
「『はっはっはっは!!!』」
「「?」」
「ハァ〜笑わせていただきました〜」
「笑う要素あったか?」
「さあ?」
「そのコントで十分ですよ」
「「コント?」」
「え?違うのですか?」
「俺の言動は本当に昔から乱暴だ。そこは自覚してる。だが変える気はない」
「それだけ変えれば高位にもなれるだろうに・・・」
「残念だがなる気はない」
「はいはい・・・」
「でも仲良しですね?」
「まあこいつとは高校からの付き合いだしな」
「そうなのですね。でも面白かったです」
「?」
「無自覚なのもまた良いですね。ああそれより近況でしたね。こちらの店はお陰様でそういったことはないですね。一応女性のみの店にはなってしまいますが、冒険者ギルドや民間の警備員が巡回していますので、輩というのもないですね」
「そうですか。それは何よりです。ではプライベートではどうです?」
「プ、プライベートですか?それはどういった意味でして・・・」
「『・・・』」
(え?もしかして口説き?)(店長が口説かれるの?)(ヤダヤダ!!店長は私たちの物なのに・・・)(俺、冒険者に所属してるのって店長の顔を見れるのが最高だからやってるのに・・・)(日本国相手では・・・)
(え?何でプライベートなんて・・・。まさか告白!?気持ちの整理が・・・)
「あの?」
「あ、すいません・・・。えっと、プライベートですね・・・。その・・・」
「なんか顔赤いですけど、大丈夫ですか?」
「?」
「あ、はい。大丈夫です」
「ではお答えできる範囲で構いません。お答えを」
これって本当に口説き!?
「おーい、話聞いてるか?」
「あ、すいません・・・。プライベートでしたら・・・」
なんて答えたら・・・あ!
「問題ないです!!プライベートは問題ないです!空いてます!!」
どうだ!?
「空いてます?」
「多分あれだろ。問題なさすぎて空いてるんだろ」
「そういうことか。それに問題ないと言ってたしな。分かりました。ということは従業員の皆さんも同じですか?問題は・・・」
「『はい!!ありません!!』」
「分かりました。ありがとうございました。突然の聞き込み、ありがとうございます。では失礼します」
「あ、俺ちょっと店内回るわ」
「そうか?遅くなるなよ」
「10分で帰る」
あ、あれ?何かおかしい?
「・・・」
「『・・・』」
「どういうこと!?」
「い、いや。私にはちょっと・・・」
「私も・・・」
「こういうのが売ってるのか・・・」
「あ、あの?」
「あれ?ここにいる従業員と客が皆揃ってどうした?」
「その・・・」
「?」
「さっきのプライベートってどういう意味ですか?」
「はあ?どういう意味も何も、そのままの意味だろ?」
「だ、だから、空いているって・・・」
「?空いているんだろ?暇だから」
「『?』」
「だから、暇になる程空いているんだろ?」
「『・・・』」
「?」
「『いや違う!!!』」
「は?何が?」
「だから!!違うの!!!」
「だから何が?」
「だから店長は・・・、はぁ・・・」
「『・・・』」
「何?何故皆してため息を吐く?」
「あのね警備隊さん?店長はね?”プライベートも空いています。ご一緒にどうですか?”そういう意味で『空いています』と返答したのですよ?」
「・・・」
「(コクコク)」
「はぁ!?そういう意味で答えたのか!?」
「・・・はい・・・」
「なんてこった・・・。何故異世界人はこうも勘違いをしやすいんだ・・・」
「『それは貴方方の質問の仕方が悪い!!』」
「・・・」
「『?』」
あ、あれ?警備隊なのに驚いた?
「あれ〜?警備隊なのに驚いたのですか〜?」
「それだけの人数に詰め寄られたらな」
「日本国警備隊なのに?」
「生憎俺は警備隊以前にただの人間だ。それに俺は武官ではない。文官、いやこの場合は文民というべきか?」
「ふっ、まあ良いです。どうですか?商品は」
「公務中につき購入は出来んが、候補に入れておこう」
「光栄です」
「さてと、戻るか。ああ最後に」
「はい?」
「お詫びに一つだけ教えよう」
「何をですか?」
「君らが期待していた返答を」
「『?』」
「ま・・・」
「『!?』」
「まさか!?」
「そのまさかだ。返答は
すまんが応えられない相談だ」
「『えええええぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜!?』」
ふ、フラれた!?この私が!?何故!?
「何故!?という顔をしてるな?その答えは簡単で、理由は、俺も奴も既婚、つまり家族がいる」
「で、でも重婚も!」
「残念ながら日本国の法律上、重婚禁止だ。残念だったな」
「『な、何だそれ!!!!!!』」
パトカー車内
「おう。ちょっと遅かったな?どうした?」
「いや?ちょっと物色に時間が掛かっただけだ」
「そうか?まあ何かいい物でもあったんだろ」
「まあな。さて続けるか?」
「いや。ちょっと事案が発生したからそっちに行くぞ」
「分かった」
「あと店内が何か騒がしかったな?どうした?」
「俺には分からんが、何かイベントで当てたとか」
「こっちの世界にもあるんだな・・・」
「それより向かうぞ」
「ああ。場所は?」
「スタジアムだ。それも複数」
「複数?同じ敷地内か」
「その通りだ。ただし内容はまだ不明だ。人員不足のため自衛隊も来るそうだ」
「大騒動だな。これは骨が折れるかもな。HQこちらブラボー2。只今より俺たちも事案対応する」
『HQ了解』




