番外編1
番外編1
とある酒屋に、集団にしては規模の大きすぎる人々が集まっていた。
入り口の札には貸切の文字が掲げていた。
どうやら身内での飲み会が行われようとしていた。
「おっしゃお前ら!酒は持ったか!?」
「『おお!!!!!!』」
「なら堅っ苦しい挨拶は抜きにして、乾杯!!」
「『乾杯!!!!』」
「悪いな、こんな大勢で押しかけて」
「構いませんよ先生。俺もいつかは開催されるのを楽しみにしていましたし、それにこれだけ大人数での飲みなんて、周辺探してもここくらいでしょうから」
「けど貸切料も結構高いんじゃないか?」
「確かにそれなりではありますが、そこは気にしないでください。一応ここの店長なので」
「そうか。ならお言葉に甘えて」
「しかしいつもなら来ないお前らが珍しいな。いつもなら二つ返事で断るのに、どういう風の吹き回しだ?アレクサスにライゼンよ?」
「まあ、単なる気まぐれさ。それにまた部署異動があってな。今の部署はかなり楽だからというのもある」
「ライゼンは?」
「俺も似たようなものだ」
「そうなのか。けどお前ら今は所帯もちだろ?奥さんには良いのか?」
「構わん。別に尻敷かれてる訳ではないし、比較的自由にしているさ」
「それに、自由と言えば俺達よりそれこそ嫁さんの方だろうしな」
「・・・それもそうか・・・」
「久しぶり〜元気にしてた?」
「ふふっ。まあね〜」
「今日はどうしたのよ〜?旦那まで連れて?」
「そうだよ〜。いつもなら旦那の方が来ないのに?」
「そうなんだけどね?」
「確かにいつもなら私達だけなんだけど」
「『いい加減来なさい!』って言ったら」
「ちょっと面倒な顔をしてたけど何とか連れてくることに成功したのよ」
「そうなの?けど良いの?無理矢理連れてきて?」
「そうだよ。それで険悪になったら・・・」
「大丈夫だよ。どうせ面倒だけどたまには顔を出してやるかとしか思ってないはずだから」
「そうなの?なら良いけど」
「けど驚きだよね〜」
「何が?」
「紛争地域にいた神族の告白を振ってリアリィ達の告白を受けるなんてね?」
「そうだね。あの時は驚きを隠せなかったわ」
「それに、あの私達が卒業した学園にまで影響を及ぼすなんてね?」
「先後輩からの質問責めには参ったわ」
「それはごめんね?」
「私達もまさかOKが出るなんて思わなかったからさ〜」
「えっと、アレクサスがリアリィで」
「ライゼンがメルカイナだっけ?」
「「そうだよ」」
「まさかあの時のメンバーがこうなるなんてね」
「それは私もよ。なんならあの時のメンバー全員が結局親族関係になってしまったのだからね」
「そういえばそうだったね。ねえ?両家の挨拶の時はどうだった?緊張した?」
「したした。だって私は自衛隊に」
「私なんて外務省だからね。緊張しない方が無理な話よ」
「そっか。ごめんごめん」
「いいよ。もうこうやって左手薬指に結婚指輪だって着けているし」
「それに今私達は妊娠もしてるからね」
「『ぶーーーーーー!!??』」
「ゲホゲホっ・・・。え!?妊娠してるの?メルカイナが?」
「ううん?私もよ?」
「リアリィも!?」
「おい旦那!?良いのか!?奥さんがこんな酒屋に顔を出して」
「知るかよ。俺は元から妊婦さんだから参加すべきではないと言っても」
「その当の本人が参加したがってるなら止めることは出来ないだろ」
「それでも普通妊婦を酒屋に来たりしないだろ?」
「それが通用しないのがこいつらだ」
「『・・・』」
「・・・この際もういいや。リアリィ達に酒を飲すなよ〜薦めるなよ」
「『は〜い』」
「そういえば奥さんって働いているの?」
「一応働いている」
「どこで働いているの?」
「リアリィがマルゴルルという中規模国家の行政を司る国家警備隊の隊員で」
「メルカイナは同国家の衛兵だ」
「そうなのか。同じ国で同じ立場とは珍しいな」
「別に友人同士でそういうのも世の中あるから別に珍しくないぞ」
「そうなんだね〜。あれ?素朴な疑問だけど警備隊と衛兵の違いって何?」
「国によって違いはあるが、基本は文民、所謂一般国民や市民が志願して試験を受けて治安維持活動等に従事できるのが警備隊」
「対して衛兵、別名憲兵は、元々軍人が上司や国からの命令によって治安維持活動等に従事する。こういう違いがある」
「そうなんだね。あれ?なら近衛兵とか、貴族当主などからなる警備隊?あと騎士隊は?」
「それも国によるが、王国当主やその周辺などの国家を司る方を警護するのが近衛兵。この場合は護衛が任務だから誰かを逮捕とかは余程のことがない限りはしない。
貴族からなる警備隊もあることにはあるが、その場合はその地域限定での警備隊だから、他方では通用しない。
騎士隊はどちらかというと衛兵に近いが、国によっては近衛兵と同様の扱いをする国もある」
「そういう違いがあるんだな。ちなみに対立とかないのか?よく放送や映像でそういうのを見るからさ。いやフィクションであることも分かってるんだが、一応な?」
「見過ぎだと言いたいが、残念ながら事実としてそういうのもある。容疑者を奪い取る行為もあるそうだ」
「あるんだ・・・。マルゴルルは?」
「私が答えるよ。そういうのは無いかな。少なくとも私は聞いたことは無いかな。メルカイナは?」
「私も無いね。役割分担ができているからかな?」
「役割分担?」
「うん。人口が多い都市部は私が所属する警備隊が治安維持して」
「逆に地方や貴族の目の届かない所を私の衛兵がやると言った形でね」
「へえ〜。そういう役割分担が出来ているのって良いね」
「良いな〜。俺が今住んでいる国とは大違いだ」
「そうなの?」
「俺が住んでいるのはカエラールという王国だけどな?ここが色々厄介でな。行政機関だけでも多岐に渡っている。執行機関なんてさらに多くあるからさ、頻繁に管轄争いが絶えないんだ。挙句には執行機関同士で裁判や暴動も起きている始末さ・・・」
「(なんかまるでこっちでいうところのアメリカみたいだな)」
「(俺も思った)」
「けど国の大きさもその星で5本の指に入る程の広さなんでしょ?しょうがないんじゃない?」
「これが人族だけならまだしも、多種族同士の争いもあるからな」
「『・・・』」
「例えば?」
「喧嘩が人族と亜人でも管轄争いが繰り広げられる。職質も同様。例えば警備隊が人族で相手が獣人の場合でも同様に争いが」
「それ、すごくやりづらくないか?」
「更に言えばそれ程互いが互いを信頼していないってこと?」
「そういうことでもあるな。お陰で犯罪率上昇にも繋がってる始末だからな」
「なんで?」
「逮捕権も管轄争いがあると言えば?」
「『察した』」
「そういうことだ」
「まさかそこまでとはな・・・」
「だから羨ましく思うぜ」
「なら引越しすれば良いんじゃないか?」
「そうしたいのは山々だが、俺の嫁がこの国在住だから、簡単には引っ越せないんだ」
「そうなんだね。大変ね」
「そう言えば別の星でカエラール王国と同等の国ってなかったっけ?」
「ああ。多分私が住んでいる国かな?エルクァル星のユーゴル王国という国なんだけど?」
「ああ。その国だ。その国も行政機関が多いと聞いたことがあるんだが・・・」
「確かに多いけど、対立は無いね」
「何が違うんだ?」
「色々あるけど、一番自衛隊がいるからじゃ無いかな?」
「え?関係あるのか?」
「あるわよ。ユーゴル王国は確かにかなり大きいよ。けどその国って借地なのよ」
「『借地!?』」
「え!?あんなにデカイ国がか!?」
「そうなのよ」
「アレクサスは聞いたことある?」
「俺そういうのは聞かないからな。どこに配属とか異動になった時に初めて国名や地名を聞くからな」
「そうなのか。それで対立しない理由は?」
「管轄自体は入り組んでいるけど、皆協力しているからじゃ無いかな?種族争いもないから」
「行政機関の数は?」
「詳しくは数えてないけど、地方や貴族系の警備隊、国家警備隊、衛兵、近衞兵、森や山の警備隊、山岳警備隊とも言う、それと対象を護衛が近衞兵なら、容疑者をとらえる騎士隊、衛兵でも沿岸警備隊に国境警備隊、更に航空警備隊、都市間道路を警戒する道路警備隊、少なくともこれだけあるね」
「何その行政執行機関の数。よく争わないね」
「まあ、協力し合っているというのもあるし、何より国の行政機関の他に日本の行政機関もあるからかな」
「『え!?日本の行政機関があるの!?』」
「あ、うん。あるよ。けどあんまり関わりないかな〜?」
「どういうこと?」
「これは俺が話した方がいいな。知っての通り異世界最強なのは日本というのは知っているな?けどな?俺達も何でも完璧じゃないんだ。文化や種族の違いとかな。だから借地とかもそうなんだが、異世界における日本の領地に他国の国機関を置いたりしてるんだ。理由はそういう文化の違いや種族の認識違いによって不当拘束や余計な軋轢を生まないよう、少しでもリスクを低減するためにそういうことをしてるんだ」
「けどそれこそ機関同士で争いも・・・」
「いや何故か知らんが起きないんだなこれが。恐らく色々あるんだろうから深掘りはしないから詳細は知らんがな。多分だが、カエラールは日本の機関はないんじゃないか?」
「そう言えばそうだな」
「恐らくそれで争いが絶えないんじゃないか?」
「なら俺の国にも日本の機関があれば無くなるのか?」
「統計上はそうなっているだけだから何とも言えないがな。あと実は俺異動先がそこなんだかな」
「え?そうなの?見たことないけど・・・。もしかして裏方とか?」
「いや?今度は警務隊と言って、憲兵の役割を持つから、ただ単に会ってないからだけだろ」
「そうなんだね。話戻すけどカエラールにも日本の機関を置いたらどうかな?」
「そうだ!そうしたら争いも無くなるだろ」
「残念ながらそう簡単にはいかない。勿論俺が知らない事情もあるだろうが、恐らく日本の機関を置いても争いに終止符を打てないからじゃないか?」
「そうなのか?」
「だから詳細は知らんが、そう言ったのもあるんじゃないかという俺の勝手な思考だ」
「そうか・・・」
「一応打診はしてみるさ」
「頼む」
「それで?こっちに話を振って、何であんまり警務隊?は出ないの?」
「元々警務隊は基地内限定の活動なんだ。それが異世界に来てから憲兵のように外部でも逮捕権、捜査権といっても、外部でやったことがないのがばかりなんだ。単純にノウハウがないのもあるだろ」
「じゃあ、見たことのあるのって」
「どこかでノウハウを身につけたとかだろ。あとは単純に前職の知識があるとか」
「そうなんだね。ならそのうち?」
「多分会うことになるだろうな」
「その時を楽しみにしていろ」
「じゃあ最後に聞いてもいい?行政機関の協力って?」
「例えば盗まれたとかなら、被害者に警備隊が聞き込みをして、追跡に憲兵とか衛兵、もし海に逃げたのなら沿岸警備隊、森や山なら山岳警備隊。そういった形にして協力し合っていると思うぞ」
「そういう流れなんだな」
「あくまでも一例だがな。さ、この辺にして飲もうや」
「『賛成』」
まだまだ夜は長い




