手合わせ
手合わせ
「どうもこんにちは」
「君があれか?あの敵集団を倒した少年か?」
「恐らくあなた方の思ってる少年で間違いないかと」
「そうか。また大変だな。お国の面倒ごとに付き合わせてしまって。正直俺達も反対したんだが、強硬手段に出られてしまってはこっちも成すすべなくてな。すまんな。だが最大限の安全、安全ではないか。とにかく君に脅威が来ないように尽力する」
「ありがとうございます。一応聞いておきたいのですが、お国の上の命令には逆らえないのは分かってます。その上で今回の作戦に自分みたいな少年が参加するのに反対はどれくらいあったのですか?」
「割合で言えばなんだが、8割反対した。それもそうだ。幾ら返り討ちにしたとは言えまだ少年だ。その未来の卵を潰すことになる。しかも他国の少年を連れてくる、いや、連れ去ることをしたんだ。国際問題になりかねん。他にもあるが、そういった理由の観点から反対したんだ」
「もし自分が青年でしたら?」
「それでも反対多数だろう。青年でも他国の青年だ。それで軍事に参加するなんてことは国の面子にも関わる。そもそも軍とは何か?どういったのが目的なのか?というのを全く分からない状態で参加しているようなもんだ。だから仮に従軍していても俺は反対だ。何も知らなすぎるからな」
「他に反対の意見を持った者は?」
「お国の上層部それもかなり上の幹部クラス以外は全員反対だったな。俺も何度か聞いてきたから信憑性はあるぞ」
「という事は完全に私利私欲のために強硬手段に出たと?」
「私利私欲まではいかないにしろ、そう思われても仕方ないだろ。そう言う事だ」
「分かりました。それを聞いて安心しました。もし反対意見が無かったら人情無いのか?と苦言を呈するところでしたよ」
「そう言われても文句は言えないことを上はやったんだからな。そういったのもあり、国の代わりとして上官として謝罪する。すまなかった」
「良いですよ。誰だって国の命令には逆らえないのですから。その上が茨の道に進んだだけ。貴方達は巻き添えを喰らってしまっただけなんですから」
「そう言って頂けるとありがたい。とにかく君は戦わずに済むように手配しておく。けどどうしても戦わずにはいられない状況もあり得る。なので今一度君の実力を知りたい、良いかな?」
「構いませんよ。それで?相手は誰ですか?実力とはどのようなことを?」
「まずはこの3人を一人ずつ相手にしてもらう。左から近距離または近接、魔法などの中距離、光線銃や弓と言った遠距離、このように分けられている。君はこの攻撃を出来るだけ避けて欲しい」
「倒すのは?」
「出来るのならやってもらいたい」
「方法は?」
「君自身の実力を測りたいから取り敢えず運動神経などの君自身の純粋な能力だけでやってくれ」
「魔法とかは無しという事ですね?」
「そう言う事だ。武器も今回は持たせない。それは次だな」
「分かりました」
「ではまずは近距離や近接からやってもらう」
「はい」
「よろしくな」
「よろしくお願いします」
「制限時間は10分だ。相手が降参したら勝ちとする。また制限時間になったらそこで止め、採決を取る。では始め!」
「君の実力を知りたいから取り敢えず50%で行くぞ」
「どうぞ」
「やるね~。まさかナイフの攻撃を軽々と受け流すとは」
「そちらこそ質が悪いですね。本気で腱を切ろうとしているじゃないですか」
「見えているのか?その年でそれはかなり凄いな。君くらいの年なら腱を切られたら何で立てないのか?何で手を動かせないか混乱するのに」
「ま、見てれば分かりますよ。それに他にもありますよね?」
「・・・気づいていたのか?」
「自分の考えが間違えでは無ければの話ですが、貴方はわざとナイフで戦っている。そうではないですか?」
「・・・」
「身体の使い方がどうも変でしたよ。表現はしにくいですが、実力を絞っている割には動きにくそう?そんな感じがしますよ」
「それも見抜くか・・・。これは凄いな・・・。隊長?90%の他武器の解放の許可を」
「ああ。構わん」
「では坊や。今回の俺は一味違うぞ?」
「お願いします」
「まさかここまでとはな・・・」
「途中本気になってませんでしたか?」
「ああ。俺の悪い癖でな。相手が本物となると途中で火が点くんだ。反対に偽物とかハリボテだと拍子抜けして一気に決着をつけてしまうんだ。けど君は俺を本気にさせて尚且つ多彩な武器を使う俺に勝ったんだからな」
「勝ったとはそんな・・・」
「いや。そこは誇れ。俺が言うのも何だが、俺はこの連合軍の中で一番の近接系を得意としてるんだ。理由は幾つかあるんだが、一番は短距離武器を色々使うところなんだ。剣とかナイフとか槍とか。気づいているんだろ?」
「はい。その多彩な武器を戦場に役立てている。そう言う事ですね?」
「そうだ。相手は俺がナイフだけだと思って錯覚させて近づいてきた途端に槍に持ち替えて刺す。または槍しか使えないと錯覚させて槍の行動範囲外から攻撃されたら剣に持ち替えてそれを補う。これは世界に何人もいないことなんだ。その俺がまさか多彩な武器を使っているのも関わらず、武器を奪われて挙句には喉元に突かれるとはな。参ったぜ」
「いえいえ。貴方の実力は本物ですよ?」
「謙遜するな。とにかく、君の勝ちだ。今度また手合わせして欲しい」
「それでしたらいつでも歓迎します」
「隊長。敗北しました」
「まさかお前が負けるとはな・・・。お前の腕はこの星でも随一の近接武器使いじゃないか。そのお前が・・・」
「ええ。幾ら俺が他国軍とはいえ、良い気になっていたのかもしれませんね。世界は広いですね」
「何かお前妙に清々しい顔をしてるな?」
「分かりますか?清々しいですよ。・・・これは他国軍の兵士として言います“あの子の腕は確かだ。その気になれば下手するとこっちが手玉に取られる可能性があるぞ”」
「そこまでか?」
「“正直そこまでの腕があると見込んでいる。多分あいつの実力はこんなものじゃない筈だ”」
「それは俺も思ったが、次は中距離だぞ?流石に無理・・・無理か?なんかあの子から秘めている力が」
「“気づいたか。俺もそう思っている”」
「分かった。今度から指示を変えてみよう」
「お願いします」
「さて。取り敢えず初戦お疲れ様。このまま次に移ろうと思うんだが、良いか?」
「勿論ですよ」
「次はこの方だ。中距離担当の方だ」
「よろしくな」
「お願いします」
「それとアレクサスは引き続きそのままで良いとして、今回から本気でやれ」
「!?この子は!?」
「俺の予想だと平気なはずだ。こいつを信じてみろ」
「・・・分かった。但し責任は持てないぞ」
「大丈夫だ。確証はないが、この子ならやる筈だ。では始め!」
「おいおい・・・。あの近接を見ていて驚いたが、まさか俺にまで対抗できるのかお前!?」
「対抗かどうかは知りませんが自分は普通に流しているだけですよ」
「それが普通じゃないから!クソ、隊長が言いたかったのってこれか。これでも本気でやっているんだが、それでもこの子にとっては造作もないことなのか?」
「因みになんですけど、もしかして盾とか使えますか?」
「盾?魔法や結解のシールドか?」
「それもそうですが、物のシールドは?」
「タンクとしてか?魔法の盾なら形成は可能だしその盾を発動したまま移動も可能だぞ。物の盾は正直重くて取り回しがしずらい。だからタンクとしては無理だ。俺が出来るのは精々味方の前。または四方に魔法盾を形成することくらいだ」
「そうですか。分かりました」
「それがどうした?」
「隊長さん?」
「?何だ?」
「やってみたいことがあるのですが、良いですか?魔法になってしまうのですが・・・」
「用途は?」
「盾です」
「盾魔法か。良いだろう」
「ありがとうございます。では〈シールド形成〉」
「!?」
「こ、これは!?」
「魔法でシールドを形成しただけですよ」
「いや、それは見ればわかる。けど魔法盾だと透明な感じだぞ?」
「ああ。これは物理の魔法の盾ですよ。持ってみれば分かります」
「・・・」
ズシーン!!
「重!!しかもこの盾横にも縦にも大きくないか!?」
「確かに大きい。しかも丸みを帯びてるから斜めからの盾も効果があるな」
「ああ。それに真ん中と端は高さを付けてるから横に顔を出しても避けることが出来るな。横に人を数人並べても入りきるくらい大きいな。効力は?」
「魔法、光線銃両方とも可能です。耐久性も申し分なしですが、難点は普通の盾より大型かつ重厚なので重いことです」
「取り回しは?」
「重いですが、このように横に伸びている盾が伸縮可能なので取り回しも可能です」
「それでも凄いな。効力を試したくなってきた・・・。ここに打ち込んでも?」
「構いませんよ。自分は盾の中にいますので」
「!?それは」
「止めないですよ?何しろまだ決着ついていないので」
「・・・分かった。だが不味いと思ったら直ぐに避けろ。良いな?」
「はい」
「では行くぞ!!〈炎よ。その炎で敵を焼き尽くせ。フレアロード!!〉」
ゴォォォ!!!
「どうだこれで。流石に燃えただろう」
シュ~~~・・・
「な、何!?」
「燃えてないだと?」
「そうですね。燃えてないですね。当たったところが赤くはなってはいますけど」
「そういう問題ではない!これは革命だぞ・・・」
「革命ってそんなことは」
「ある!隊長。これは俺勝てないわ。降参だ」
「降参か。分かった。まさかここまでとは・・・」
「ああ。それに体力も消耗してなさそうだし、これは発掘物か?」
「それは最後で決まるさ。今度ばかりは遠距離、しかも?」
「どうもこんにちは・・・?2人?」
「ああ。今度は遠距離だが行けるか?」
「それ自体は可能ですけど?何故二人?」
「実はこの二人は双子でな。2人で一人なんだ」
「2倍ではなく?」
「どっちも行けるという事だ」
「そうなんですね。それにこの容姿は?」
「流石に察したか。まあ今は具現化してるから見やすいだけかもな。片方は長命のエルフ族と同じく長命のエンジェルだ。遠距離にはうってつけの兵士さ」
「えっと、一応お聞きしますが、2人とも正規軍ですよね?」
「そうだ。と言っても2人は双子でありながらそれぞれ別の国軍に所属しているがな」
「?何故ですか?」
「いや。特に理由はない。ただ単に定員オーバーになってしまっただけさ。けどそこは大丈夫さ。二人が所属している国は両国とも関係は最高さ。なぜなら」
「「国同士が親戚だからね」」
「そう言う事なんですね。なら国も2国で1国ですね?」
「「そう言う事で~す」」
「ちょっとばかし気は抜けているけど、彼女たちは名狙撃手だから油断せずにな」
「はい。それで場所は流石にここでは?」
「ああ。狭すぎるからすぐそこの森に移動するか」
「ここさ。ここから先が森だ。勿論道も整備されているから問題ないぞ」
「分かりました。範囲は?」
「3人にこの行動範囲の効力をつけたアーティファクトを貸す。これで判断してくれ」
「分かりました。制限時間とルールはいつも通りですか?」
「いや制限時間は1時間とし、ルールはちょっと改定する。攻撃可とする。但し盾とかは使用しないでくれ」
「そうですか。分かりました」
「では始めてくれ。始めの5分だけ移動時間をあげる。その間は仮に接触しても攻撃しないでくれ」
「計測はどうしますか?ここは今開始して終了を1時間と5分にしませんか?その方が平等ですよ」
「それで行こう。2人もそれで良いな?」
「「は~い」」
「では始め!」
・・・・・
「ねえ?あの子どう思う?」
「短中は行けても長は無理だと思うよ?だって明らかに長距離に向きそうな体格じゃないじゃん」
「それもそうだね。けどあの子は中々の逸材だね」
「そうだね。まさか他の方が負けるとは思わなかったわ」
「これはもしかして私達も本気を出さないと逆に足を取られてしまう感じかな?」
「かもしれないね。気を付けないと」
「ここはどうする?私達が本気となると適度にフォーメーションを変えるよね?それで行く?」
「それで行こうか。初めはどうする?」
「初めはバラバラで良いんじゃないかな?だって森も深いし」
「そうだね。それで行こう。それよりあと3分で開始よ。私はこっちに行くわ」
「なら私はこっちね」
・・・・・
「さて、そろそろ5分だな。あいつらは何を使用するんだろうな。ま、その都度対応すれば良いさ。しかし確かに森が深いな。これだとあいつらにとっては狙撃には好都合という事だな。となると俺は匍匐移動か?いや、それだと移動に時間が掛かるな。まあ幸い草も生い茂ているからある程度隠れるのも可能だろうさ」
・・・・・
「ねえ。あの子見つかった?」
「何処にもいないわ。私も適度に移動しているけど、全く分からないの」
「痕跡はどう?私のところは全く駄目よ」
「こっちもよ・・・。どこに行ったの?」
「もうちょっと探してみましょう?もしかしたら見つかるかも」
「そうね。根気強く探してみましょう」
「ダメ。全く見つからないわ・・・」
「こっちもよ。索敵スキルを発動させているけど、全く引っかからないのよ」
「適用距離ってどれくらいだっけ?」
「10~20ノウくらいよ。だけど」
「それでも引っかからない。範囲外という事かしら?」
「けどかなり移動をしてるのに反応しないなんておかしいわよ!?」
「流石にちょっとまずいかもしれないわね・・・」
「うん。範囲内に入っていないとなるとまだ近づけていないという事になるけど」
「それは必然的に私達に不利な状況を与えているのと同じよ。だから早く見つけないと・・・」
「そうだけど、どこ」
ボワ!!ズドーン!!
「姉さん!!」
「ま、不味い!避けれない!!」
ドーー-ン!!!
「な、何よこれ・・・」
「魔法?いったいどこから?」
「分からない、!?」
「どうしたの?」
「引っかかったわ。距離20ノウ!」
「丁度引っかかる範囲てか・・・。どこよ!!」
「お姉さん方。ここですよ?」
「!?」
「う、後ろ・・・」
「はい。捕まえた」
「え!?」
「い、妹を離せ!!」
「嫌ですよ?だってこれまだ手合わせの途中ですよね?そんな中離したら何されるか分からないじゃないですか?」
「・・・」
「まあ、攻撃可にしたあの隊長さんに言って下さい。それに貴方達をどうにかしようとは思ってませんから。はい」
「あ」
「妹さんを解放しました。あとはお姉さんの方だけですけど、どうしますか?」
「・・・それなら!!」
「お?離れましたね?どこから打つつもりですか?」
「ここからよ!!丁度10ノウから打つわ!!食らいなさい?私の弓を!!」
ピュンピュンピュンピュン!!!
「これ、貴女の得意技の様ですね?」
「そうよ!連射は得意なの!さあ、避けれるかしら!?」
「避ける?その必要は無いですよ?」
「「え?」」
「妹さんも見ててください。恐らくお姉さんの弓は魔法で速度を上げている筈。ですが俺には」
ガシガシガシガシ!!!
「「え!?」」
「この通り貴女が放った弓矢を掴むことが出来ますから。それにこのように」
ビュンビュン!!!
「「え!?」」
「素手で打ち返すことが可能でしかも」
ドスンドスン!!!
「な、なにこれ!!!」
「姉さんの弓矢より、音が重い」
「安心してください。貴女に命中する気はありません。ですが避けないと」
・・・バキバキバキバキ!!!
「この通り木が倒れますよ」
「に、逃げて!!!」
「うわぁぁぁ!!??」
ズドーーーン!!!
「ね?この通りです」
「・・・君何者?」
「何者も何も、自分はただの学生ですよ」
「「学生がこんな実力を秘めてたまるか!!」」
「?まだ時間は経ってないぞ?」
「「降参します。実力差を思い知らされました~」」
「お前らが降参!?どうした!?」
「あの子、とんでもない子ですよ~」
「私達の狙撃を打ち返してましたから」
「打ち返す!?どうやって!?」
「弓矢を打ち返されたのです」
「弓矢?あいつ弓なんて持ってたか?」
「いえ。信じられないかもしれませんが、あの子は腕力だけで弓の様に打ったのです」
「信じられないな・・・」
「無理もありませんが、証拠もありますよ」
「証拠?」
「ええ。そこから聞こえませんでしたか?木が倒れる音」
「?ああ。そう言えばなんか轟音がしていたな。木が倒れる音だったか。それが?」
「あの子の腕力だけで放った弓矢が木の幹に刺さったのですが、とても重くのしかかったような音でして、その勢いのまま木の幹に刺さり、耐えられなくなった木が倒れたのです」
「そんなことが」
「あり得るのです。この子はそれくらいの実力を持っています」
「・・・」
「この子は飛んでもない化け物ですよ~?気を抜くと私達にも余波が来そうです」
「そこまでか・・・。分かった。この子の腕は確かな様だ。とにかくお疲れ様」
「「ありがとうございます」」
「お疲れ様。君の実力は把握した。正直言って驚きを隠せない。そこまでの腕なら文句ないだろ。寧ろ我々が支援して欲しいくらいだ」
「それくらいでしたらいつでも構いませんよ」
「そう言ってくれるとありがたい。この後色々と試そうかと思ったがそれは止めにすることにした」
「因みにどんな内容だったのですか?」
「すまん。それは言えない。すまんな。だが君の実力が本物だというのは我々全員分かってるからさ。安心してくれ」
「そうですか。分かりました。それで、今後はどのように?」
「取り敢えずは現状報告が先だな。その後は上の仕事だ。取り敢えず君の宿に案内しよう。色々疲れただろうしな」
「お願いします」
「ここの部屋が暫く君の部屋になる。質素で申し訳ないが、我慢してくれ」
「それくらいは大丈夫ですよ。こう見えて冒険者してますから」
「その年でか!?たまげたな・・・。ああすまん。ゆっくりしてくれ」
「ありがとうございます」




