苦悶
苦悶
「それで?この子が例の子なの?」
「そうだ。実際に俺達はその実力を見せてもらったからこの子で間違いない」
「信じられないな。君、学年は?」
「小等部6年」
「小6・・・。流石に偽りでは?」
「さっき言ったぞ。まあ信じられないのも無理はない。すまんがその実力をこの場で開放できるか?」
「破壊しない程度に解放しよう。心の準備は?」
「心の準備?心遣いの出来る子供ね。良いわ。来なさい!」
「では」
・・・
「?何もおき」
ゴォォォォ!!!!
「『!?』」
「な、何この魔力量は!?」
「わ、分からん。やばっ」
「これ」
「濃度が濃すぎて」
「息が出来ない・・・」
「もう・・・いい・・・」
「そうですか。今解放します」
シュ~~~・・・
「はぁ・・・はぁ・・・」
「ふぅ・・・ふぅ・・・」
「やっと息が・・・出来る・・・」
「だから言ったろ?偽りなしだと」
「あ”あ”。悪い。変な声が出た。だがこれで分かったぞ」
「え”え”。失礼。この子で間違いないわね」
「けど何で君は俺に接触してきたんだ?」
「そうだ。俺達に関わると碌なことないぞ?」
「それは分かってます。それに貴方方は上の命令に不満感を出している。国の命令には逆らえないが時間稼ぎは出来ると。そう思ってますよね?こうやって俺の身を案じているのですから」
「『!?』」
「な?この子は文字通り全部把握しているんだ。遠慮は無用だぞ」
「どうやらそうみたいだな。それで?君の事だ。俺達の正体も分かっている筈だ。それでも聞きたい。お前は何故接触してきた?」
「そうですね。別に今どうこうする気は今のところはないですね。なので今後次第です」
「今後次第?」
「と言うと?」
「そうですね。ちょっとした伝言とこの書簡をとある方に渡して欲しいのです。その後は一旦様子を見ます。ああ、伝言はこれをお願いします“どうもお久しぶりです叔父さん。今回の当事者は俺だ。その後の動きはどうするか任せる”」
・・・・・
「それでこの書簡と伝言か」
「はい。その通りです。改めて聞くと正直信じられません。まさかあの子がラーズベルト王と血縁者であるとは」
「まあな。だがこの事は一部を除いて城関係者なら全員知っていることだ。恐らくお前らは別部隊が故、接触することは無かったんだろうな。それはさておき。今回の当事者は我が甥か・・・」
「はい。どうなさいますか?一応伝言でもあった通り、あの子はこちらに一任するそうですが?」
「そうだな・・・。一旦俺達だけで会議するか。それで決めよう。ああ。我が甥に伝えてくれるか?」
「承りますよ」
「“一週間くれ。それで決める”と」
「分かりました」
「さてと。すまんが宰相、皆を集めてくれ。全員だ」
「分かりました。これは一大事ですからね」
「そうだ。だから出来るだけ急ぎでこの問題に取り組むぞ」
「はい」
「どうも。すまんな緊急招集してしまって」
「構いませんよ。それに緊急招集をしたんですから、それ相応の出来事があったという事です。大丈夫です。我々も分かってます」
「つくづく俺は良い部下に恵まれたなと痛感するよ。感謝する。それで見慣れない顔があるのは・・・、あ、いや、別に見憶えないのではなく、この場にいるのが珍しいだけだ」
「それも分かってます。簡単にご説明させていただきますと、各所辺境伯以上の当主のご子息やご令嬢の方々です。教育のため、この場にいることをお許しいただきたいのです」
「そう言う事な。構わないぞ。存分に吸収してくれ。そして未来に向けて託す。その使命を惜しみなく発揮してくれ」
「『はい!』」
「ありがとうございます。さて長話もなんですし、ここは」
「ああ。ではまずは座ってくれ。本題に入る前に今一度確認したい。この子達は今回の件に関して耳に入ってるのか?」
「いえ。まだ何も分かりません」
「そうか。まあ良い。ではまずはそこからだな。他も今回の件は耳に入っていないのもいるだろう。なのでまずは初めから経緯を話す。よく聞いてくれ」
「『はい!』」
「質疑応答は最後に行う。では始める。ことの経緯は・・・」
「というのが今までの経緯で今日は今後の動きに関しての会議だ。分かったか?質問は?」
「『ないです』」
「よし分かった。では正式にここから始めよう。今回の件なんだが、実は当事者が今さっき判明した」
「『!?』」
「王。それ本当ですか!?」
「ああ。本当だ」
「しかし今になってようやく、いや。それは今は良いでしょう。しかしようやく分かりましたね。このまま年越すと思ってましたよ」
「俺もだ。このまま平行線なのかとヒヤヒヤしたさ。だがこれで一歩前進だ」
「そうですね。それで?判明したのでここに連れてくるのは?」
「そうですよ。判明したんです。直ぐに出頭命令を下すのが一番でしょう」
「それがそうもいかないんだ」
「え?」
「王?」
「そうもいかないとは?」
「実はこの俺が正直予想もしていない事態になったんだ」
「はい?どういう事ですか?」
「今回の当事者、誰だと思う?」
「当事者ですか?誰と言われても・・・」
「ちょっと分からないですね」
「我が息子たちは?」
「お父様。僕には何も」
「すいません。私もです」
「お父様。ヒントは無いのですか?」
「ヒントか・・・。挙げるとすると、当事者が俺達王族の血縁者という事だ」
「『!?』」
「は、はぁ!?」
「我が息子。そこまで口をあんぐりするではない。みっともないぞ?」
「で、ですが・・・」
「ヒントはこれさ」
「俺達の血縁者・・・。降嫁した分家とか?」
「または直接ではなく、はとこ、とか?」
「・・・謎は深まるばかりだな・・・」
「ならこれはどうだ?これでほぼ答えを言ったようなものだがな」
「教えてください」
「この国に爵位は公爵ながら、大公権限を保有しているのは?」
「『え』」
「そ、それって・・・」
「ローズマリー公爵ですか?」
「そうだ。あの公爵だ」
「あの公爵の血縁者と言えば?」
「あ」
「『まさか!!』」
「そうそのまさかだ。もう答えを言おう。今回の当事者はアレクサス。あの子だ」
「『・・・』」
「まさか従兄さんが当事者・・・」
「また何をやってるのよ・・・」
「俺もそう思ったが、今回は正直仕方ないだろ」
「まあ、そうですね。普通侵入者となると誰だって排除しますよね。そして従兄さんはあくまでも風紀委員として排除しただけ。そう言う事ですね?」
「流石は我が娘。思考が速くて助かる」
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
「あ、あの~・・・」
「どうした侯爵ご令嬢?何か質問かい?」
「はい。お父様、宜しいですか?」
「質問なんだろ?遠慮なく王に質問して良いぞ」
「は、はい。では失礼します。国王?先程から気になっていましたが、王の血縁者に何かあったのですか?なにかこう、頭を抱えている様子が伺えたので」
「あ、もしかして何も知らない?」
「恐れ入りますが、私、いや、横におられます、他当主のご家族も同様かと」
「『(コクコク)』」
「それは」
「お父様。ここは私が。年齢が近いのもあるので話しやすいかと」
「すまんが頼む」
「はい。改めて久しぶりね」
「はい。王女様もお元気で何よりです」
「それで当事者のアレクサス従兄さんの事ね。因みに君達はこの名前に心当たりは?」
「いえ。ありません」
「自分達もないですね」
「そうですか。ではローズマリー公爵が婚姻成されたことは?」
「それは存じ上げています」
「婚姻先は?」
「それは分かりかねます」
「そこからね。実はローズマリー公爵の嫁ぎ先はね。日本国自衛隊所属の方なのよ」
「『え!?』」
「それも今その方はかなりの階級をお持ちでね。今は二等空佐だから、空軍中佐かな?」
「ち、中佐ですか!?」
「確かそのはずよ。勿論変動してるかもしれないけど、最後聞いたときには既に中佐だったからね。話は戻すけど、その中佐なんだけど、妻が2人いるのよ。その内の一人がローズマリー公爵よ」
「で、ではそのローズマリー公爵のお子様が」
「いえ。ローズマリー公爵にお子様はいるけど、アレクサス従兄さんではないわ。アレクサス従兄さんはもう一人の方のお子様よ」
「だから従兄と?」
「そう言う事よ」
「ですがそれだけだと特に恐れることは無いのでは?」
「そこまでならね。けどそうはいかないのよ」
「と言いますと?」
「アレクサス従兄さんは、実は当の本人もその自衛隊に所属しているのよ」
「『!?』」
「え!?それってかなり不味いのでは・・・」
「そう言う事よ。だから今こうして主要人物を集めているのよ。今後どうするのかをね」
「そうだったのですね。分かりました。ありがとうございます」
「良いのよ。私も予想外、いえ、貴女達のお父様やお母様ご当主も驚かれたことでしょう」
「ええ。はい」
「とまあ。そう言う事よ。お父様。お待たせしました」
「ああ。分かりやすい説明をありがとう。以上の事を踏まえて今後どうするか決めたい。何か案はあるか?」
「『・・・』」
「まあ、ある訳ないわな」
「では逆にお聞きしたいのですが、王は現時点でどのような考えを?」
「幸い俺達の国から退役軍人があの都市にいるというのは無い。だが場所が俺達の領土にあるというのが問題なんだ。だが当事者が分かった以上隠蔽しても逆に疑われてしまう。なので今のところは当事者は分かったが本人が拒否している旨を話す。俺はこう考えている」
「でしたら都市侵攻は許可するので他国に任せるというのは?」
「それは王のみならず、宰相の私も考えましたが、結果は同じと考えています。結局は何か不味い情報があるから私達は撤退すると言ってるようなものですから」
「情報開示の上、他国に全て委ねるというのは?」
「指揮権、または主導権を破棄しろ。そう言う事だな。だがそれだと仮に何も罪のない国民を殺めてしまった時、まず真っ先に他国は知らんぷりしてこっちになすりつけるだろう。そうなるとこっちは手詰まりで国民から反感を買うぞ」
「差出しはどうでしょう?」
「当事者にあの場所に召集する方法だな。それが一番だろうが、あいつらの発言を忘れたか?あいつらは当事者を戦闘の道具としか思ってないぞ。そんなところに送り出してみろ。日本国からの批判の嵐だ。下手すれば日本国と戦争になりかねん。発言の言質は取ってるから他国もタダでは済まないだろうが、どっちにしろだろ」
「『・・・』」
「打開案は無しですね・・・」
「まあ、分かってたことだ。だからこそ甥も任せると言ってくれたのだろう。こうなると分かっていて」
「けど真面目にどうなさいますか?このままでは時間が過ぎるだけですよ?」
「やはり先程の王の案が一番最適なのでしょうか?」
「だがそれでも時間稼ぎしかならないぞ。俺の国がダメなら」
「俺の国が代わりに。それでもダメなら誘拐も?」
「あいつらならあり得そうだ。まあ、甥が捕まるとは思えないが」
「その不安は拭えないですね」
「恐らくは早いところは既に動き始めている筈だ。何しろ俺のところに来ているんだ。他も同様だろう」
「そうですね。既にそうなってもおかしくないですね」
「だからそこまで悠長には出来ん。出来れば今日中にでも案を決定したい」
「そうは言いますが、これほど難しいのはなかなか・・・」
「なら逆にあいつらを利用するのはどうだ?」
「『!!』」
「だ、誰だ!?」
「俺だ叔父さん」
「『!?』」
「アレクサス!?」
「『従兄さん!?』」
「『アレクサス様!!』」
「やあ。久しぶり」
「あ、ああ久方だな。元気だったか?」
「まあな。従弟妹も元気そうだな」
「ああ。相変わらず問題だらけの国家さ」
「しかし私達も元気にやっているわ」
「それは何より。それで君達は初めましてか。よろしく。日本国自衛隊青少年課所属のアレクサスだ。階級は一等海士。一等兵だ」
「『はい。よろしくお願いします』」
「それで?利用とはどういう事だ?」
「簡単な話だ。あいつらの国にわざと捕まる。それで初めのうちはあいつらの駒に成りきり、最後の最後であいつらの目の前に現れて今までの出来事を俺の上にばらすと脅す。それで形勢逆転を図る。俺の案はこういう案だ」
「そ、それって、アレクサスに多大な負担を背負わせてしまわないか!?」
「平気だ。そんなの日常茶飯事だしな。それと後々お前らも楽になるぞ。忠告はしたのにそれを無視したあいつらに責任があると擦り付けれるからな」
「それはそうだが、お前どこから聞いていた?」
「息子たちの自己紹介からだな」
「という事はほぼ始めから聞いていたという事か?」
「そう言う事だ。だから説明は不要だ」
「そう言う事なら・・・。だが本当に良いのか?」
「構わんさ。ただの一国民を戦場に参戦しようとしているんだ。軍人や犯罪者等ならまだしも、何もないただの国民をだ。それだけでも糾弾出来るだろう」
「なら不甲斐なく申し訳ないが、頼めるか?」
「ああ。勿論だとも。お前らもそれで良いか?」
「『はい。それでお願いします』」
「王の側近という立場ながら、良い案が出なくて申し訳ございません」
「いいさ。手詰まりならしょうがない。まあ、強いて言えば自国や他国の諜報及び隠密の処罰は無しにしてくれるとありがたい」
「それは?」
「あいつらは上の魂胆に気づいて、俺に近づかないように警告をしてくれたんだ。あいつらの方がよっぽど人道を正しく示しているという事だ」
「分かった。それなら逆に賞讃しておこう」
「なら頼んだ」
「従兄さん!」
「どうした?」
「あくまでも個人的なのですが、従兄さんは卒業後は進級ですか?」
「いや。国の命令で異動だろう」
「『・・・』」
「そうですか。なら卒業後はちょっとで良いので私達と過ごしませんか?」
「プライベートとしてか?」
「はい。ダメですか?」
「・・・いや。息抜きとして立ち寄ろう」
「!でしたら誠心誠意をもって迎えさせてもらいます!」
「張り切りすぎるなよ?」
「分かってます」
「では行って参る」




