とある動き
とある動き
「もう直ぐで年末か・・・早いものだな・・・」
「そうだな。一年というのは早いもの。まあ、長寿族からしてみればまだ瞬き程度だろうが・・・」
「いえ。人族の方々の気持ちも分かりますよ。逆に言えば長寿族が故の弊害もあるのですから」
「それは一体何だい?」
「人族や獣族、妖怪族、短身族等の知り合いがいても暫くしたら亡くなってしまう事です」
「それは・・・、確かに悲しいな・・・。仲間が出来ても暫くしたら天に召されてしまうのだからな」
「なので時々貴方方が羨ましくもあるのですよ。共に苦楽を永らえた友情と共に亡くなるというのも、残されたパートナーは悲しいものです」
「そうかい・・・。まあ、悲しい話はこれくらいにして、今回招集に応じてくれて感謝する」
「それ自体は構わん。けど一国対一国ならまだしも、何故連合同盟のやつ全員を招集したんだ?こういうのって有事以外は招集をしないという取り決めだったが?」
「まさか。その有事が発生したのかい?」
「有事、てほどでも無いが、恐らくは有事になるだろう」
「今は違くても今後はその可能性があるってか?それはどういう事だ?」
「去年くらいだったか?ラーズベルト王国のラローツ魔法学園の闘技祭って」
「確かそのくらいだったな。それがどうした?何かあったか?」
「いや?特になにもなかった気がするが・・・。実際に少なくとも我々トップはこの通り健在だしな」
「大まかにはな。けど秘密裏ではあったそうなんだ」
「ほう?けどあの学園のみならず、他国の学校でも学園内の風紀は風紀委員が主に担っているのでは?」
「確かにそうだ。実際にことが大きくなっていないのは風紀委員がしっかりしているし、風紀委員のみ与えられる権利、学校内の逮捕権を与えているからこそ秩序も守られている。だがな去年はそれを脅かす出来事があったのだ」
「それは?風紀委員が蜂起したとか?」
「いや。そっちではない。風紀委員がとある勢力に押されていたのだ」
「押されていた?どういう事だ?」
「実力に負けていたとか?」
「それもあるが、その勢力が問題だったのだ」
「勢力という事は、どっかの組織ってか?」
「そうだ。その組織が問題なのだ」
「その組織ってなんだ?」
「順を追って説明すると、まずその勢力を抑えるために風紀委員が出動したんだ。当然だよな。無許可で侵入してきたんだからな」
「なるほど。侵入者集団だったか。それで?」
「その集団を捕えるために何人か集合したそうなんだ。だが今回の集団はレベルが違ったんだ」
「どう違うんだ?」
「まずその集団は生徒や研究の重要書類の強奪のために魔法学園の教員棟に接近したんだ。勿論その入り口の前には風紀委員が配備していたんだが、いつものただの侵入者なら簡単に捕えることが出来たんだが、今回は集団で来たのもあるが、どう見ても立ち回りが素人では無かったんだ」
「素人ではない・・・」
「後程戦闘に加わった生徒に聞いたら、立ち回りがどうも軍人くさいと言っていたんだ」
「軍人が相手か・・・」
「退役軍人か?」
「いや。そこまでは当時は分からなかった。話を戻すとその軍人相手では一生徒だけでは歯が立たないだろう。だから応援を呼んだんだ。ところが応援を呼んでも歯が立たず、絶体絶命だったんだ」
「その集団の構成は?」
「全部で10人。大して風紀委員は30人だったが、全滅したそうだ」
「『・・・』」
「普通に考えれば数の暴力でどうにかなるところが全滅か・・・」
「なら何で今になってその話が出てくるんだ?」
「そうだ!それだけの被害が出てたら完全に有事じゃないか!」
「しかも相手は軍人ときたもんだ。なら尚更・・・」
「まあ待て。この話には続きがあるんだ」
「続き?」
「ああ。全滅した後、その集団は女子生徒に対して凌辱を働こうとしたんだ」
「・・・全滅に飽き足らず、凌辱か・・・」
「それだけ聞けば胸糞悪いかもしれんが、事態を奪還する出来事が起きたんだ」
「それは?」
「とある生徒一人がその集団を相手取り、勝ったそうだ」
「『!!』」
「それ本当か!?」
「ああ」
「軍人であろう集団に一人で入って勝ったのか!?」
「ああ」
「・・・誠みたいだな・・・」
「そうだ。嘘偽りはないぞ。因みに隠蔽も無かったぞ」
「いやいい。そこは疑っていない。だが容疑者を捕えたのなら好都合だな」
「だな。?けどそれならこの話はもうお終いでは?」
「そうだな。わざわざ議題にあげる程ではないぞ?」
「まあまあ。実はここからが本番でして」
「ほう?」
「集団の軍人は殆どが冥途にされましたが、一人は捕らえて今はこの世にはいません。これでこの事件がこれで終われば良かったのですが・・・」
「そうは問屋を下ろさなかった。そうだな?」
「ああ。実は取り調べを行っていたんだが、容疑者が不可解なことを言い始めたんだ」
「不可解な事?」
「ああ。それがどういうのかが分からなかったんだが、つい先日判明したんだ。それが今回の招集した出来事に繋がるんだ」
「なるほどな。だから本来なら既に処理済みでこのまま埃が被るんだが、一年前の出来事がここに来て掘り返されたと。そういうことだな」
「ああ。という事でこれがその資料だ。各自分ある」
「ありがとう・・・これは!!」
「!!これ本当か!!!」
「ああ。俺も調べて驚いたぜ。まさかこうなるとはな・・・。という事で議題名を言おう。議題:退役軍人や傭兵が一つの国家を形成するために犯罪行為を重ねていた事案について」
「議題名は長いが・・・」
「事実だからしょうがないな・・・」
「それで?今の段階で良いからお主の国で調べ上げたことを言ってくれ」
「ああ。まずは地図を出すか・・・。この地図は分かるな?」
「ああ。この星の地図だろ?」
「そうだ。そこから俺達の居る大陸まで縮小する。ここまでは良いな?」
「ああ」
「そこから更に縮小して、これ以上は縮小できないが、大体わかるよな?」
「ああ。そのあたりは内陸部で山と一部の湖に囲まれている盆地だな」
「そうだ。これ最近になって判明したんだが、ここにさっきの退役軍人と傭兵が集まっているんだ」
「『!!』」
「ここにか・・・」
「そうだ。それと実はここにはある者も集っているんだ」
「?何だ?」
「ここに犯罪者などもここにいるんだ」
「『!!』」
「・・・ここにいるのか・・・」
「例えばどんな犯罪者なんだ?」
「犯罪者は勿論の事、盗賊や賞金首、挙句には国際指名手配犯のやつまでいる」
「『・・・』」
「それがここに集っているのか・・・」
「因みにここはどこの国なんだ?」
「この地図を広角にすると分かるぞ。この国だ」
「・・・俺の国、マダレン帝国の領土か・・・」
「そうだ。しかもかなりの端にあるから分からないのも無理はない」
「そうか・・・。大体場所は分かった。そこの土地を利用するなど並大抵の相手ではないな?」
「ああ。バカをかます奴はそんなにいないだろう・・・。恐らくだがここに土地を作ったんだ。退役軍人は退役軍人でもかなりの階級にいた奴だろうな。恐らくは参謀や指揮官クラスだろうな」
「現時点での人数は?」
「まず総人口は10万ちょっと。その内戦闘可能人口は8万。残りはまだ子供だ」
「『!!』」
「兵力8万か・・・。これは・・・」
「ああ。かなりの規模だ。これは恐らくそこまで最近な話ではないな?」
「ああ。諜報が潜入したんだが、創立は30年だそうだ」
「30年。よく今まで表沙汰にならなかったな」
「どうやら外部との接触を断っているそうだ。だから今まで耳に入っていなかったんだ」
「外部との接触を断っているなら、どうやって資金や物資を調達してるんだ?」
「丁度話そうと思ってたんだ。まずは物資だが、食料は近くにある河川と家畜。そして農業。どうやらあの場所で自給自足の生活を送ってるみたいだ」
「10万ちょっとの人口で自給自足?かなり大きい畑やら家畜がありそうだな・・・」
「ああ。次に資金だが、都市内で回してるから貨幣とかの金銭交換ではなく、物々交換で養ってきた。だからお金の概念はない。ただ外部からは闇商人と盗賊が調達しているそうだ」
「つまり鉄とかは外部から、生活はあの都市内で完結している訳か」
「そう言う事だな。これは俺も驚いた」
「戦闘能力は?」
「実はそれなんだが、学習をしない代わりに戦闘を義務としているんだ。だから戦闘力は一戦闘員より上だ。下手すれば下手な現役軍人より、大人なりたての子供の方が上かもしれん」
「『・・・』」
「かなり戦闘力は上みたいだな・・・。その様子だと色々道具も備わってそうだな」
「ああ。剣は勿論の事、騎馬、大砲、魔導士、竜、機械兵、アーティファクト、何でもありだ」
「『・・・』」
「あの都市と交戦を交えたらかなりの苦戦を強いられそうだな・・・」
「みたいだな・・・さっきの容疑者も?」
「ああ。あの都市出身だ。口を割らすのはかなり骨が折れたが・・・」
「そうか。それで?今回の犯行目的はやはり?」
「ああ“研究成果を盗みだしてそれを自国に役立てようとした。そして我々の国に対抗する策を見出したかった”それが理由だ」
「対抗という事は、攻め込む気もあったのか?」
「今のところは考えていないが、時間が経てばそれも可能だろうな」
「『・・・』」
「これはかなりしんどいな・・・」
「ああ。本当なら関係者も含めて捕らえたいが・・・」
「相手は一国の軍並の実力を持ってるからな・・・」
「だが罪から逃れられることは出来ない」
「まあ。どうするかは取り敢えず後々考えるとして、一体どれくらいの退役軍人がいるんだ?」
「正直正確な人数は分からん。だが8万分の5万までは分かった」
「5万人が退役軍人・・・」
「所属していた国の数は?」
「まず連合同盟の10国、それと紛争地域に派兵していた15国の合計25国。この場に集まったトップの全員だ」
「つまり呼ばれていないのはこの場にはいないそう言う事か?」
「ああ」
「『・・・』」
「まさかこれだけの数の国が関わっていたなんてな・・・」
「私らも予想外よ・・・」
「さっきまで傍観してたのにな?」
「まあね・・・。けどこれだけの国が関わってたら正直黙る方が無理があるわよ」
「ええ。今はっきりと分かりましたね。私達の元部下が犯罪行為をしていた。または助長していた。その事実を」
「ああ。だがまさかあの場所で多種族国家を形成するとは思わなかったな」
「皮肉なもんだな。他種族を受け入れない国家が、元部下によって他種族も受け入れる国家になっているその事実も」
「それで?今のところ種族数はどれくらいなの?」
「ハーフ系も含めたら50はあるな」
「50か・・・」
「まあ、無理もない。多分近親婚も許可してるのだろうな」
「まあ、それは一旦置いておいて、俺達の部下がやらかしたんだ。その尻拭いをしてやろうぜ?」
「『ああ』」
「しかしつくづくその集団を捕えた者に感謝しないとな」
「ええ。本当に。どこの誰ですか?」
「・・・」
「どうした?」
「実はな。本人から申し出があったんだ」
「申し出?」
「それは一体?」
「“自分個人の情報の秘匿、それと今回の事件に対して一切の関わりを拒否する”」
「『は!?』」
「それ逆に怪しくないか?」
「どこのどいつなんだ?」
「ラローツ魔法学園の風紀委員としか」
「『・・・』」
「あの都市の出身者かと思ったが」
「違うみたいだな」
「けどどうして嫌なのですか?」
「一応言伝だが聞いたぞ。“俺はそういう確保に尽力したから褒美を与えるというのが嫌いだ。結局は建前だし自分の懐に入れたいという野望が見え見えで腹が立つ。そして同じことを警備隊、衛兵。騎士隊、憲兵が行ったとして同じように褒美を与えるのか?”と言われてしまってな。ぐうの音も出なかったな」
「中々肝の座った学生さんね」
「しかもこっちの考えを見え透いているのがまた良いな」
「ですが確かにぐうの音も出ないのは分かりますね。ま、ですがこのままではこちらも嫌なので、私達が極秘でその学生さんを調査するのはどうでしょう?」
「『賛成』」
「取り敢えずはどうする?このまま突入しても命を散らすようなもんだぞ?」
「でしたらまずはもう少し調査して、相手の弱点などを掴んではどうでしょう?その後は今後次第という事で、というのは?」
「『それで行こう』」




