心を抉る一言
心を抉る一言
「あれ?アレクサスとライゼンはどこに行った?」
「さあ?俺も知らん。お前らは?」
「俺も知らん。けどどうせあいつらの事だから何かしてるだろ」
「何かって?」
「ベンとアーカイブよ。どうせ“海賊が現れたから襲撃してくる”とかで出てるだろ」
「まさか~」
「そんなわけないじゃん~?」
「けどセルナとネル。考えてもみろよ。あの二人だで?可能性も無きにしも非ずじゃないか?」
「『・・・』」
「否定できないだろ?今までのあいつらなら」
「だったらどうする?仮に本当に海賊だったとして、あいつら2人で撃破出来ると思うか?流石に無理があるだろ?」
「そこは知らん。あいつらの事だからこっそり泳いで海賊船に乗り込んでいるだろ」
「こんな真っ暗闇の中で!?それはないでしょ!?」
「そしてあの二人だけで海賊船を制圧して、翌日の俺達が向かう港にこの辺では見ない船が接岸して、良く見たら海賊船で乗り込んでみたらあいつらが乗っているとか」
「お前想像力が豊かだな~。けどそれもあり得ない話ではないな」
「『あり得ない話じゃないの!?』」
「もう一度言うがあいつらだぞ?それくらいやっても俺は驚かないぞ?」
「逆にそれくらいしないと驚くってか?」
「あいつらならやりかねんだろ?」
「まあな・・・」
「けど普通に考えてもしその話が本当だったとして海賊が出たのかすら怪しくないか?もし本当だとしてもロンボー海運お抱えの護衛艦が守備してくれるだろうしさ」
「勿論俺もそう思っている。だから可能性の話だ」
「可能性って・・・。けどそれもそうだな・・・。それによくよく考えたらこんな真っ暗闇の中でどうやって俺達を見つけるんだという話もなるしな」
「そういうこった」
「ならあの二人はどこに?」
「さあな。どうせひょこっと現れるさ。それより俺達はさっさと身体を洗い流して寝ようぜ。明日も早いしよ」
「それもそうだな」
「「へっくしょん!!」」
「あ“”~~~。夜風に当たりすぎたか?」
「それはないだろ。操縦室だって室内のくせにどうやって夜風に当たりすぎるんだよ」
「ならデッキの居すぎか?確かに船同士を近づけているとはいえ、隙間風で身体が冷えてしまったか?」
「可能性はあるな。それか、噂好きのあいつらが何か俺達に対して言ったか」
「例えば?」
「“アレクサスとライゼンが海賊船を乗っ取ってる”とか」
「・・・あいつらならあり得そうだな・・・。しかしお前もだんだん染まって来たな~」
「あいつらにか?よせやい。俺はそういう柄ではない。それを言うならアレクサスはどうなんだ?」
「俺は、染まりたくなくても染まってしまう感じだな」
「なら完全に染まってるな」
「そう思われたか・・・。どうやら俺は末期の様だな」
「かもな。けど進行具合としては俺もそう一人ではある」
「ほう?どれくらいの割合なんだ?」
「それは俺にも分からん。だが末期ではないのだけは確かだな」
「はは!そうか。なら精々末期にならないように注意しないとな」
「違いない。ところで俺達はどうするんだ?」
「どうって?」
「こいつらの事もそうなんだが、そろそろ就寝しないと明日に響くぞ?」
「あ~・・・。スキルとかでオートパイロットって出来ないか?」
「・・・俺機械に詳しくないんだが・・・。アレクサスの方はどうだ?」
「俺もだな・・・。多分だけど俺とライゼンが乗ってきた船って最新技術を盛大に組み込んだ船だよな?この船とかって・・・」
「ああ。多分そうだな。座標とか進路を算出するタイプではなく、魔法陣などで進路を算出しているタイプだよな。なら・・・」
「一旦試してみるか。あの船に追従出来るかどうか」
・・・・・
「う~~ん~~と。ようやく着いたね~」
「結局アレクサスとライゼンは現れなかったな」
「ったく。どこに行ったんだが・・・」
ザワザワ・・・
「何かざわついてるな」
「そうね。まるで見慣れない物を見たような雰囲気ね」
「何かあったのかな?」
「それかあれかな~。私達が美男子美少女だからかな~」
「それか貴族とか権力者の子供だから寄ってきたりとか~」
「・・・どうやらその類ではないみたいだな・・・」
「「な~んだ~」」
「けどならなんだろうね・・・」
「おいお前ら!!」
「どうしたそんな慌てて」
「何かあったの?」
「隣を見てみろよ!!」
「隣って・・・」
「私達は左から降りてきたから、そのまま左の方?けど何もないけど?」
「違う!右隣の桟橋だ!!」
「?・・・!?」
「な、何この船・・・」
「こんな船、今までにあったか?」
「無いな・・・。けど船の規模が半端なく大きいな。けどこれがどうした?」
「旗を見てみろ!」
「旗?・・・ねえ・・・あれって・・・」
「!?嘘でしょ・・・」
「あれって、海賊の旗!!しかもかなり大きな規模の海賊!!しかも2隻も」
「てことはこのざわつきって・・・」
「そうなんだ。実はあの船の中に海賊が乗ってるんじゃないか?って。それで大騒ぎなんだ」
「だから先頭に協会騎士と冒険者がいるんだな」
「けどそれなら危なくないかな・・・。私達だって襲われる可能性が・・・」
「その心配はないぞ」
「『え?』」
「よう」
「『アレクサス!?』」
「俺もいるぞ」
「『ライゼン!?』」
「待て!!止まれ!!お前らは何者だ!?」
「俺らか?俺は隣の船にいる修学旅行生だ」
「修学旅行生が何故この船に乗ってる!?」
「何故って言われてもな・・・。お隣さんの船同様、夜海賊船の気配を感じて泳いでみたら感が当たっただけなんだが?」
「その言い訳が通用するか!?」
「けど俺は今何を着てる?お隣さん同様」
「・・・学生服?」
「その通り。まあ、信じられないのは無理もないが、こんな子供が海賊討伐なんて無理な話だろ~?俺はあくまでも感が当たっただけだ。戦闘はしていない」
「・・・なら証拠は!!」
「本物の海賊さん達なら縄で縛りつけられているぞ。それが証拠じゃないか?まだ不十分ならあいつらにも聞いてみたらどうだ?先生もいるしな」
「・・・聞いて来い・・・」
「は!!」
「どうも。あの二人ってこちらのお仲間さんだったりしますか?」
「・・・その二人は俺達のクラスメイトです・・・」
「間違いないな?」
「はい」
「間違いないです。私は二人の担任を請け負っています」
「なら貴方が先生ですね?」
「そうです」
「分かりました。今しばらくお待ちください」
「はい。・・・全く・・・」
「隊長。間違いないです。あの二人は学生さんで修学旅行生です」
「・・・。分かった。なら縛られている海賊どもを案内しろ!」
「ならこっちだ。もう一隻も頼む」
「証拠が出ました。あの二人は無関係というのが判明しました」
「という事はただの学生か・・・。あの船に乗っていたのは不審ではあるが・・・これ以上聞いても仕方ないな。分かった。お前ら二人は帰って良い。ただ一つ質問だ。お前らがこの船に乗り込んだときには既に縛られていたか?」
「「ああ。俺達が乗り込んだ時には既に」」
「分かった」
「「戻ったぞ~」」
「アレクサスとライゼン。お前らには山ほど聞きたいことがある。来れるな?」
「構わない。どうせ散策はもうちょい後だろ?ただここではな」
「ライゼンは相変わらずだな。という事で先生。いったん離れましょう。まずはちょっと人気のない場所で6年と随伴全員で」
「?分かった」
「まずはご心配をおかけしました。ですがあれに俺達が乗り込んだことは仕方のないことです」
「仕方ない?どういう事だ?けどその前にあんな危険なことをしたのか!?」
「まあまあ。それにつきましては釈明させてくださいな。それにこの場にはある方もいるんですから」
「ある方?」
「どうぞ。こちらへ」
「?こちらは?」
「!?お父様!?」
「『お父様!?』」
「そ。ナタリアの父親でロンボー海運の代表取締役会長です。それと役員の方々とその護衛の方たちです。実は桟橋に着いたときに周りにバレないように先に下船して即座にロンボー海運の支社に飛び込んだのです。『あなたの娘が危機に瀕している』と告げたら真っ先に駆けつけてくれましたよ?」
「けどデマだったみたいだな」
「いいえ?今回はあながち間違っていないのですよこれが」
「?どういう事だ?発言によっては・・・」
「まず俺達にお怒りを向ける前にこれから言う事をお聞きください。お怒りはその後で、というのは?」
「・・・良いだろう・・・」
「ありがとうございます。正直今回は他の役員と護衛の方々がいて好都合でした」
「というと?」
「実は、いつもでしたらロンボー海運、しかもお国の子供やロンボー海運の娘が乗船している船でしたら尚更必要である“護衛”。しかも今年の6年生は中々の人物の塊です。ロンボー海運の娘さんもいれば、国家樹立の立役者の子供、どこかのお国の令嬢や子息もいる学年です。それ自体に問題はないのですが、今回は問題が起きてしまいました」
「その問題とは?」
「単刀直入に言います。今回の海賊の目標は俺達、6年生なのです」
「『!?』」
「俺達って・・・。俺達だよな?」
「その俺達だ。貴族や権力者の子供ってどこからどう見ても格好の的だろ?」
「まあ、分かってはいたが・・・」
「実際には初めてか?まあ無理もない。今まで襲撃されたのもいれば今まで何もなく過ごしてのもいるんだ。無理もないさ。話を戻すとそう言う事だ」
「けどそれなら護衛はどうした?」
「今回はそれに問題があるんだ」
「護衛に問題?どういう事だ?」
「・・・まさか!?」
「お?流石会長。鋭いですね」
「・・・お主の先程から言う単語に引っ掛かりを覚えたんだ。何故護衛という単語を出したのかを」
「では、分かりますね?これから俺が言うセリフを」
「ああ『護衛が裏切った』という事だな?」
「『!?』」
「残念だがそう言う事だ」
「・・・」
「お父様・・・。けどでしたら何故海賊が・・・。関係は!?」
「ナタリア。否定したいのも分かる。分かるが真実は時に残酷だ。お前にもその現実を受け止める時だ」
「・・・」
「その現実を受け止める覚悟は良いか?」
「ああ」
「ナタリア。君も聞いてくれ。今回の護衛なんだが、この護衛は買収されたんだ」
「『!?』」
「・・・」
「嘘だろ・・・」
「そんなことって、あり得るのか?」
「俺達は当事者ではないが、実際に目の前で起きたんだ。あり得る話だろ」
「けど、なんで・・・」
「・・・大方金だろうな・・・」
「または妬み嫉みだろ」
「先生まで・・・」
「実際問題そうだろ。一般生徒ならまだしも権力者の子供とかなら必然だろ。だからこそ俺達先生が学園にいる間は最後の砦なんだ」
「『先生・・・』」
「そう言う事だ。ロンボー海運の護衛がどんなやつかは知らんが、少なくとも俺達は売られたんだ。それを今一度心に刻め」
「売られたってそんな・・・」
「事実だろ。しかもライゼンなんて更に心を抉る内容を知っているぞ」
「ライゼン?」
「ああ。それも聞くか?」
「・・・ああ・・・」
「俺が乗り込んだ海賊船の船長、あれは代表か?が言ってた『護衛部の幹部を高額買収して今回の乗船リストを手に入れたぜ。これで資金獲得だな』とな」
「『・・・』」
「つまり、情報が漏れていた、という事だ。学園では多くの学生が通うから情報が洩れても仕方ないんだが、今回は6年というのを限定して情報が漏れた。しかも俺達を誘拐してゆすりまで企てている。これでは信頼はガタ落ちだな」
「『・・・』」
「なあ・・・。この修学旅行中もあり得るのか?襲撃が」
「あり得ない話ではないだろ。実際に目の前で起きたんだ。証拠も海賊船の乗組員が語り、証拠のリストもでるだろうな」
「『・・・』」
「この修学旅行、中止か?」




