独り立ちに向けて
独り立ちに向けて
「さて、研修も終盤に突入して暫く経った。俺としてはそろそろ独り立ちしてももう良いだろうと思っているが他はどうだ?」
「私としてはもう良いと思っています」
「俺は・・・そうだな、最後の大詰めとして俺達の立ち合いして見極めしてからというのが良いと思う」
「私もよ。幾ら事務仕事が主な内容だとしても100%現場には出ないなんてことは無いんだから、何かしらの理由で現場に出ることもあるし」
「そうか分かった。なら最後に立ち合いの元各自の見極めを行う!日時は2日後の金曜日の午後開始だ。立会人は俺達小等部の上層部全員、それとアレクサス、ライゼンだ。頼めるか?」
「いつでも」
「良いが採点基準を教えてくれ」
「勿論だ。という事だ。各自見極めに向けて仕上げてくれ。解散前に一つ。
研修初日にあった跳躍力に定評があった容疑者だが、学園を退園することになった。氷属性に強い白狐を悪用したこともそうだが、逮捕後に取り調べを行ったら色々と出てきた。一番の要因は君達も分かるだろ?」
「・・・学園内は特定の場所や授業中を除いて武器と魔法などの使用を禁ずる、という項目ですね?」
「そうだ。この項目は徹底されており、仮に決闘の申し込み時でも武器を出してはいけないし、ましてや当時は他生徒も巻き添えを食らった。当然の結果であろう。では俺達はなぜ武器や魔法の使用を学園内なら場所問わず許可が認められているのか、そこも分かるよな?」
「俺達は風紀委員という学園の風紀を乱す者には取り締まりを、そして生徒の保護をするという事で許可されている、という事ですね?」
「そうだ。俺達は取り締まりと保護の両方を担っている。そのためには最大限のあらゆる手段が許可されている。そこを忘れるな」
「『はい』」
「よし。今日は解散だ」
「『お疲れ様でした!!』」
「アレクサス、ライゼン。ちょっと良いか?」
「採点基準ですか?」
「そうだ。毎年の事なんだが、初めて採点をする奴もいるから今一度な」
「この用紙に記載されていることが基本的な採点基準よ」
「基本的?ここから手を加えるのか?」
「違うよ。一応3~4枚目の最後に空白の欄があるでしょ?ここには採点者が感じたこと、思ったことなどを記す欄になってるの。何でも良いけど『ここが良かった』『ここが改善点』などの加減点が各自違うでしょ?そういった感じ方の違いをここに書けば他の人の採点が分かって対象者により良いアドバイスなどが出来る様になってるの」
「成程。確かに『俺はここが良い』でも他の人が『いや違うな』という事もよくある話ですね。となると」
「恐らく君達が思った通りだろう。その通りでこの採点の最高点は100点ではない。110もあれば基本的の採点は満点だが各自の印象が空白や逆に減点が多いと100未満もあり得るという事だ。今回もその採点方法で行く。主な採点基準はこのような形になっている。採点方法で疑問点は?」
「これは持って帰っても良いのか?」
「出来れば避けて欲しい。答えを見せびらかしているみたいなもんだからな。それでも持って帰りたい人は厳重に保管できる部屋、または場所を考えてくれ。今から用意しようとは思わないことだ。他は?」
「この見極めに先生は来るのでしょうか?」
「いや、来ない。多忙というのもあるが我々は先生方から認められている組織であるから、逆に委任されている。ということで来ない。他は?・・・なさそうだな。次に俺達だが、俺達は基本的に対象者から見えないところから観察する。例えば物陰から観察だな。出来る限り対象者がいつも通りに行動することを目的にしている。なのでこっそりと観察するんだ。けどそうすると弊害もあってな・・・。毎年悩ませているんだ。何故か分かるか?」
「覗きと間違えられる。という事ですね」
「そういう事だ。毎年試行錯誤をしているんだが・・・、毎回毎回どこかでドン詰まるんだ。そして考える間もなく今年も来てしまった。という事で次はこの問題の解決なんだが、何か案はあるか?」
「逆に見せびらかしは・・・」
「やったが対象者が緊張して本来の力を発揮出来なかった」
「〈現在採点中〉の腕章やベストとかは?」
「間接的ではあるがバレてしまった」
「何故ですか?」
「考えても見てよ・・・。私達を見つけました。『黙っておいてね?』と返しても対象者のすれ違い様に急によそよそしくなるのよ?そうなると分かるわよね?」
「あ~~・・・・。それは不味いですね・・・」
「だから無しだ。他は?」
「隠密課に頼むのは?」
「風紀委員のか?実践もしたが何があったと思う?」
「隠密ですよね?バレずに済みそうですが・・・」
「バレるバレないではないんだ・・・」
「?違う?では何ですか?」
「アレクサス、ライゼンは分かるか?」
「・・・まさかとは思いますが、隠密課が取り調べ相手に何かしたのでは?例えば聞く間もなく捕らえたとか?」
「または見失ったとか」
「まだあるが大まかその通りだ。あと隠密とはいえ脅しも掛けたこともあるんだ。『わざと捕まれ』とかな。という事で即座に却下された」
「『・・・』」
「黙るのも無理はない。他には?」
「俺達が姿を消すのは?」
「物や魔法で姿を消す方法よね?それも試したけどダメだったわ・・・」
「何でだ?」
「そこまで長時間保持出来ないからよ。物はわざわざ王直属の隠密に問い合わせして多少ながら貰えたけど長時間持たないんだ。見極めは数時間にも及ぶから効果も切れるのよ。数だけど希少価値が高いが故扱っているところが非常に少ないし高価なのも相まって手が出しにくいのよ。魔法も同様ね。以前も姿を隠せる魔法・・・なんだっけ魔法名?」
「何だっけな・・・俺も忘れた」
「まあ良いでしょう。とにかくその魔法で使用して効果範囲を採点者にしようとしたけど制限がありかつ範囲を広げるとその分消耗するもんで、命の危険があるので止めたんだ」
「変換は?」
「術者にだろ?それでもダメだった。消費量が多すぎるんだ」
「『・・・』」
「毎年どうやって乗り切ったんだ?」
「毎年覗きと間違えられる前提で採点していた」
「・・・投げやりだな・・・」
「しょうがない。という事で他は?」
「『・・・』」
「ま、ある訳ないわね。はぁ・・・今年もかな~~・・・」
「「・・・しょうがないな・・・」」
「?何か妙案が?」
「その姿隠し魔法。俺達が使用しよう」
「俺達って?」
「俺とアレクサス」
「き、危険だ!!さっきも言ったが・・・」
「俺達は平気だ」
「『・・・』」
「けどな・・・」
「別に良いですよ?今年も覗き魔と間違われても」
「『・・・』」
・・・・・・
「アレクサス達、何で呼ばれたんだろう・・・」
「普通に考えれば採点に関することだろう。あいつらが試験官だしな」
「どんな採点をされるんだろうな・・・」
「そんな難しくはないんじゃないかな?いつも通りに習ったこと、実践でしたことをそのままやれば良いと思うよ?」
「あ~あ~試験内容を教えてくれないかな~?」
「はっはっは!無理無理」
「けどそれまで出来ることをしようよ」
「例えば?制圧とか?」
「それもそうだけど、それだけじゃないと思うけど?応援とか不慮な事態とか」
「不慮な事態?確保直前に逃亡とか?」
「そうそう。または敵が振り返ったときに偶々防御できずに受けてしまって動けない時にどうするか」
「あ~それは分かれそうだな。俺は助けるけど私は敵制圧を優先とかな」
「そういう事よ。私なら一人が倒れたら2人が介抱に向かって残りは応援を呼ぶなり敵を制圧するなり、そう指示を出すと思うよ。何しろ1班だけでもかなりの人数だもの」
「確かにな。逆に言えばそれだけの人数じゃないと対応できない程この学園は規模が大きい、という事にもなるしな。しかも班によっては中等部や高等部と混ざっている班もあるしな」
「けどそう思うとアレクサス達の班はちょっと厄介かもね」
「というと?」
「あいつらの班の隊長と副隊長はアレクサスとライゼンだ。あの二人が不参加だと・・・」
「ああ・・・統率が取りにくくなるだろうな。どうするんだろうな・・・」
・・・・・
「どうしよう・・・恐らくはあの二人不参加だぞ?」
「まさか隊長副隊長両名欠席とはな・・・。当日限定で臨時の隊長だけでも決めないと統率取れなくなるから、ここだけでも決めるか。立候補は?」
「『・・・』」
「ま、いないだろうな・・・」
「悩んでも仕方ないから、レラカイナ、ジャリーグ、エザゾブロ、ユーネ、この4人の中で隊長を決めるしかないだろ」
「「「「え!?」」」」
「え!?じゃないだろ・・・。普通に考えたらそうだろ。1、2班の中から適任者を探すとなると必然的に班長のレラカイナとエザゾブロさん、副班の俺とユーネさんの中で決めるしかないだろ・・・」
「「「・・・」」」
「んで?やりたい奴は?因みに俺はパスだ」
「私もよ」
「「・・・」」
「その様子だと二人もパスだな。けどなもっと考えてみ?さっき言ったことを続けると更に言えばその中の班長に絞られるだろ。となると?」
「俺かレラカイナしかないと?」
「そういう事だ。んで?どうする?」
「「・・・」」
「・・・はぁ~~~。しょうがない・・・俺が臨時隊長をやる」
「!?良いんですか?エザゾブロ先輩?」
「下級生を信用していない訳ではないが、上の者がやるのは必然だろ。だがこの貸しはあの二人にいつか支払わせる!」
「分かりました!!私も協力します!!」
「おう!頼む!!!」




