決時
勝との遠距離恋愛が始まった。
菜穂はアルバイト生活から何か職をつけなければ自分は壊れてしまうと焦っていた。
勝の先輩のアパレル会社で1人欠員が出た事をしり、勝に働いてみたい事を告げたらすぐに先輩に話を通してくれた。
人気の職場で応募を出せばすぐ様他の人材に決まっていたであろう。
後で知った事だが勝は先輩に頭を下げたらしい。自分が転勤になってしまい心配な菜穂を先輩の元で面倒みてもらう事は勝も安心だったのであろう。
採用の後は菓子折りを持ってお礼に来たと入社してから聞かされたのであった。
菜穂には勝は仕事人間でついでに菜穂が勝の中にいるように思っていた。菜穂の存在価値すら解らなくなっていた時期に嬉しい報せだったに違いない。
勝の顔をたてて先輩も菜穂を採用してくれた。
勿論将来勝の結婚相手になるであろう菜穂を勝の先輩は可愛いがらずにはいられなかったのだ。
入社してからも手をかけて勝の先輩は指導してくれた。
仕事に没頭するしかない菜穂は一生懸命に仕事を必死に覚えていった。これで自分も結婚から解放される。仕事が生き甲斐になれば何かが変わると。遠距離恋愛なんて全然悲しくないと思わせるほどに没頭すればいい。
他にヨガ教室や、料理教室やジムなどに行って結婚から逃げる事も出来たのに、勝への対抗心なのか仕事を選んだ菜穂の人生はここで狂ったのであった。
新人研修の話があり、是非とも参加したいという菜穂に若干名の研修だったが、勝の先輩は口利きをしてくれ菜穂が選ばれた。
全国から仕事に前向きなメンバーが集まる研修に久しぶりに好奇心と向上心と不安でいっぱいになった。
そして、菜穂が向かった研修先に、一際目立つ逸材がいたのであった。
最初の挨拶から違っていた。
ありふれた挨拶ではなく自分がこれからやるべき事、自分が会社を変えていくような志を持っている。
今までの会社のやり方を否定でもしているようかの口ぶり。
誰が聞いても引いてしまう一歩手前の挨拶だった。
そしてとても綺麗な顔立ちをしていた。
それが高木謙介だった。