決日
勝との交際は順調だった。
共通の友人カップルもいていつも6人で集まって騒いでいた。休みが合えばレンタカーを借りて旅行に行ったり、学生が1人もいなかった為に歳の割に有意義な遊びをしていたと思う。
6人の中の1人に実家で使っていない小さなプレハブがあり、そこをアトリエと名付けていた。6人の中の1人が仕事でトラブルがあればすぐにアトリエに集合し馬鹿騒ぎをしていた。誕生日の人がいればアトリエで必ずお祝いパーティーをしていた。
あらゆるイベントに便乗して集まっていた。
このまま6人とも結婚しても続くんだと誰もが思っていた。この中に自分たちの子供達か加わり、勝はよく自分は親バカになる事を予想して自慢していた。
ただ、勝が他の彼氏達と違う事が馬鹿がつくほど仕事命のところだった。
だんだん出世していくうちに仕事が理由で勝だけアトリエに来ない日が多くなっていった。
菜穂に気を使い必ず勝がいなくてもアトリエに誘われた。
それが菜穂は逆に寂しくて仕方がなかった。一層勝が来れないのなら自分も来ない方が楽だと感じていた。
他のアトリエメンバーは交際も順調に進み1組が結婚が決まった事を報告された。
その時の心のざわつきは今でも菜穂は忘れられない。
今まで逃げてきた事が現実になってきた。
結婚というフレーズが頭から離れない日々が続いた。そんな中もう1組も結婚が決まったと報告を受けた。1ヶ月に2組の結婚式に呼ばれる事になった。
もうアトリエで集まる事はなくなるだろうと菜穂は寂しくもあり悔しくもあり嘆いた。
勝は仕事にどんどん没頭していった。アトリエメンバーが結婚してからも菜穂に気を使い新婚の新居へ菜穂だけ誘われる事は多かったが、それがますます菜穂を追い詰めた。
とうとう菜穂は勝に切り出した。
「私達って結婚するのかな?」
振り絞った菜穂の台詞に、勝はため息混じりに答えた。
「周りが結婚したから何焦ってるの?30歳までは考えてないよ。仕事忙しいの解ってるでしょ‥」
30歳という言葉は菜穂は初めて聞いた言葉だった。今ではなく2,3年後が自分の婚期と思い込んでいた。
もう少しでウェディングドレスが着れると。もう少しで結婚して家を出られると。もう少しで若い可愛いお母さんになれると。
その夢がまさか10年近く遠い話だったとは思いもよらなかった。
その翌月勝の転勤が決まった。2人で食事しながら
「来月から転勤。しばらく戻ってこれないから。」
菜穂はもう恋愛のモチベーションが下がっていた事に気がついていた。