悔時
高木謙介からの電話に心臓が高ぶったのは事実だった。同僚達の目もあり業務内容の電話のやり取りのように、
「お疲れ様です。ご用件は何でしょうか?」
とまた平静を装って答えた。高木謙介はそんな事も気にかけず
「連絡取りたいんだけど、番号かアドレス教えてくれない?」
あっさりと言われた言葉に断る間もなく、同僚に気がつかれないように番号を伝え受話器を置いた。
その晩から仕事が終わると電話で何時間も話した。
遠距離恋愛をしている菜穂には、いい暇つぶしになったのだ。
平日はメールでのやり取りも増えまるで付き合っているかのような日々が過ぎていった。
高木謙介にも彼女がいた為、お互いのデートの時は暗黙で連絡しないルールになっていた。
休みが合う時は目立たない場所を選び会うようにもなっていた。
まるで不倫を楽しんでるような気分で浮ついていたのかもしれない。
どうせお互い結婚する相手ではないと割り切っていたからであっただろう。お互い着飾った自分を出して嫌なところを隠し、何処かで背伸びしながら会っていた為、刺激はあったが密会の後はとても疲れるのだった。
お互い余計な事も詮索しない関係なんて楽でしかなかったはずだ。疲れたらお互いのパートナーに癒してもらえばいい。
なんでそんな意味のない関係に時間と自分磨きのお金をかけたのか、菜穂は夢中でその関係を熟す事に精一杯になっていった。そんな関係が3ヶ月続いた頃、菜穂の生理が来なくなった。