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幸福部  作者: オレンジペコ―
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序話 幸福部が作られる前に

 朝の学校は静かだ。


 皆があわてて入ってくる登校時間少し前は当然多くの生徒が教室を目指し、すでに付いている生徒は会話に花を咲かせるため騒がしいがそれのほんの十分ほど前は人も少なく話が合う友達がいないためか話す生徒も少ない。だから、千暁が知っている登校時間帯の学校とは静かだ。


 それなのに、いつも通りの時間にいつも通りの道を通っていつも通りの校門をくぐろうとした時妙に騒がしいことに気がついた。

 顔をあげるとそこにいるのは人。そして黄色いテープにテレビで見たことのあるような車。沢山の人と車が昇降口の前を塞いでいた。多くのものは何があったのかと野次馬の中に入り、興味がないものは昇降口の少し離れたところにある正門を目指す。そんなはっきりとした二手に分かれており千暁一人だけがそれ以外のグループに属しているようだと感じた。


(なんかあったのか)


 いつも静かな朝の学校でこんなにも騒がしいのだ。そう思うのは学生として当然だろう。しかし千暁はその“何か”には興味がなかった。ならば千暁がとる行動は決まっている。

 後ろから女生徒が走りながら野次馬の中に混ざっていく。そんなことは“何”があったかすら興味がない千暁にはどうでもいいことだった。

 先ほど見た生徒のように校門に足を運ぶ。少し遠回りにはなるが仕方がない。正門から入ることを千暁は選んだ。


 こうして人の集団は再び二手に分かれる。

 そしてまた新しい生徒がやってきてはどちらかへと混ざっていく。

 生徒よりも学校に来ることが遅い教師たちがそろそろ学校へとやってくる時間だ。テープの外にいるため何も言うことのなかった警察と体罰だセクハラだ言われるのを恐れてあまり生徒に強く出れなかった少人数の教師たちだが生徒が恐れる教師がやってくて、一言言えば生徒たちは散っていくだろう。いや、そんなことしなくともなんだかんだ真面目な生徒たちは鐘の音が鳴れば騒がしくも教室に戻っていくだろう。

 なんであれ結局はいつも通りの日常が流れて行ってしまうのだ。

 廊下の窓から下を見る。角度的に何があったかはわからないが大勢の野次馬が見える。


(スマホなんか使っちゃって。これじゃあ、先生たちがまた見周りして昼休みも使えなくなるな)


 おそらくスマホでしているのはSNSやカメラ機能だろう。気持ちがわからにもないが辞めてほしいことこの上ない。使用禁止だが持ち込みが許可されているのに持ち込みすら禁止になったら親に送ってもらっている千暁には困る。騒ぎのせいで少数の教師がそのことに気づいていないのは幸か不幸か。


(先生たちみんな来るのが遅れますように)


 携帯の持ち込みまでもが禁止されないように千暁が今できるのは目ざとく使っているのに気づくだろう教師が来るのが生徒たちがいろいろして満足し仕舞った後に来るように祈ることくらいしかない。


「霜月。英語やったか?」

「やったよ」

「頼む!写させてくれ!」


 いつも人が多い時間帯に来るクラスメイトが珍しく早めに来たと思ったら学校に課題を忘れてしまったためらしいことを荷物を置いたときに話していた。


 「いいよ」


 そう言うとクラスメイトはありがとうと感謝の言葉を述べてきた。ロッカーの上に提出済みの課題をクラスメイトに渡すと自分の席に戻り再び同じ部活の奴と話しながらもせっせと手を動かし始めた。

 始業までまだ三十分はある。今日提出の課題は少ないしきっと間に合うだろう。


「お前ら!!なにしてるんだ!!」


 窓の外から叫ぶ声がしたので先ほどのようにのぞいてみるとやはりそこには怖いといわれている教師がいた。生徒がスマホを使っているのを発見したのだろう。学年部の先生でなくなってしまったためあまり見ることがなくなったが相変わらず大きい声だ。


「こりゃ見周り決定かな」


 祈りは神に届かなかったようだ。仕方ないので千暁はせめて持ち込み禁止にだけはなりませんようにと再び祈る。

 足音が廊下に響く。さっきまで下にいた生徒たちが上がってきたのだろう。もちろんスマホを使っていた生徒は別だ。おそらくスマホを没収されたのち一人ずつ面接だろう。

 窓から見える景色はいつも通りの学校と生徒。


(あっ...)


 そして見覚えのある少女。

 興味があり野次馬になるものと興味がなくただ遠巻きに見ながら教室に向かうものの二手だけだと思っていやがどうやら違うようだった。

 少女がいつからそこにいたかは分からない。もしかしたら先ほど自分が下にいた時にはもうすでにそこに立っていたのかもしれない。

 少女は少しも動かずじっと“何か”があった方を見ているようだった。


「結局なんだったの?」

「なんかね、自殺?みたいよ」

「まさかこの学校で自殺とはねぇ」

「てか何であんた知ってんのよ」

「私も適当に周りの人に聞いただけだって」


 女子とは本当にうわさ好きである。いやこれはうわさ好きどうこうの問題ではないかもしれないが。


「そうなんだ。ねぇ僕にも聞かせてくれるかな?」


 そうやってうわさ好きの女子に話しかけると女子たちのテンションは上がる。まぁいつも通りである。まったくもって自分はそのような対応をさせるほどのものではないのだけれど。


「その自殺したらしい人の名前わかる?」

「えっと確か――」


 あぁやっぱりそうだった。でなければあの腐れ縁の少女があんな風になるわけがない。人みしりの幼馴染が唯一慕っていたのだ。ああなっても仕方ない。


「そうなんだ。教えてくれてありがとう」


 感謝の言葉を言って時間がたち登校してきた人数が増えた教室に足を踏み入れる。


 これは幸福部が作られるほんの前のお話。

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