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蝉(せみ)  作者: 北松文庫
3/10

3蝉

 九日目がきた。私はとうとう答えを見つけることができずにいた。


 「おいおい。君は自分が何者かも分からずに生きてきたのかい? 凄いね」


 蝉は約束通りに私の元に来た。昨日の疲れは、無かったかのように元気だった。


 「大抵の人間は、自分が人間かどうかなんて気にもしないからね。私もそうだ。最近まではね」


 「大抵の人間は自分が人間だと自覚しているからだ。君はその方法を知らないだけだよ。自分が何者かを知る方法を。俺は知っている。答えるのは簡単だが、俺は言わない。なぜなら、答えを聞くだけなら簡単だが、それでは理解が出来ない。理解が出来ないと意味が無い」


 蝉は相変わらずお喋りなようだ。


 「どうやったら、それを見つけれる?」


 「少しずつ話そう。いろんなことを。そして君は学ぶべきだ。蝉のこと、人間のことを」


 彼は昨日の定位置につくと、語り始めた。彼の話を生かせれるかどうかは、私次第だ。私は彼の前に座った。


 「まず、人間が人間として認められるための条件はなんだと思う? 」

 

 「手足が二本ずつあって、自ら考えて行動する」


 「はあ、君は重症だな。そんなの猿と変わらないだろうに」

 

 「君はなぜ猿を知っているのかな」


 「動物園に行ったんだ。こないだ。何せ暇だからな。蝉だって学ぶんだ。さあ、他に人間が人間たる特徴は?」


 「雑食」


 蝉はため息混じりに私の解に受け答えした。私は生徒としては褒められたものではなかった。蝉がなにを言いたいのかも、私になにを求めているのかもわからず、その日は人間とはなにかについて考えた。

 なにか収穫があったのかと尋ねられれば、ないとは言えない。ほんの些細なことだが、私は少しだけ人間を理解した。ついでに蝉の話もしたのだが、彼はあまり蝉の話をすることをよく思わなかった。

 私は今日、人間が「かんがえる葦」なのだと学んだ。

 どこかで聞いた話だ。

 うろ覚えだったので、彼が帰った後、インターネットで調べた。パスカルの言葉だったので、私は驚いた。彼は独学でパスカルにたどり着いたのか。



 十日目がきた。庭の紫陽花が濡れているので、昨晩は雨が降ったのだろう。あの紫陽花は私が植えたのではない。気が付いたらそこで育っていた。


 蝉はその紫陽花を褒めていた。私が育てているわけではないことを、彼は見透かしていたようだ。紫陽花に対して称賛を送っていた。


 今日も蝉はやってきた。


 「君は働かないのかい。俺が見るに、君はずっとここにいる」


 「最近はまったく書いてませんね。私、物書きをしているんですよ」


 「成る程、しかし物書きは書かねばならないのだろう。書かなくていいのか」


 「書かないといけません。でも、よし書くぞ、という風には書けないんですよ」


 「物書きも大変だな」


 私達はお昼まで人間について話をした。今日は、「ピラミッドの頂点」の話をした。一番下が微生物だとして、人間はどこにいるのかという話だ。私は一般論として、一番上だと答えた。しかし、彼は人間は今の世界というピラミッドを作った張本人だ。だからピラミッドには属しない。眺めているだけだ。と言った。なんだか肩透かしを食らったような気がした。納得いかなかったが、今まで理解が及ばす、納得したことはなかったので、私はその通りかもしれない。そう返した。


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