奇跡
--サインside--
「ギルドマスター!眠りの森からスカージが、大量にあふれてきたらしいですっ!!」
早朝、一人の職員の男性がギルドマスターの部屋に駆け込んでくる。
「チッめんどうだな、今いる冒険者の数は?」
「スカージを倒せる奴は、大体20人程」
「じゃあ、そいつら全員に緊急クエストだして駆除してこい!」
「はい!」
返事をして素早く部屋を後にする。
「まぁ、スカージぐらいなら20人いれば大丈夫だろう…」
そう一人で言って、書類整理の仕事に戻る。
数時間たって、夕暮れ時にギルドマスターの部屋がノックされる。
「おう!入れ!」
「マスター…スカージ討伐の冒険者が一人、瘴気に当てられました」
暗い顔で入って来たのは、朝スカージの報告をした男性だった。
「なっ!容態は?」
「すでに、レベル4です…」
「なにしてたんだ!解毒薬は?」
男性職員は首を横に振りながら喋りだす、
「思っていたより多くのスカージが発生していたようで、戦闘終了の時には、レベル3の状態だったそうです、治癒魔術士もおらず、それでも、解毒剤を飲ませながら戻って来たんですが………もう」
ギルドマスターは、最後まで聞かずに魔力で身体を高め残像を残す速さで部屋を出た。
医務室に向かおうとするが、途中のエントランスで冒険者達が集まっているのが目に入る。
きっと医務室に向かう時間すら惜しかったのだろうと思い急いでその集団に向かう。
「ミネルバ!容態は?」
男性の冒険者に、全力の治癒魔術をかけているミネルバに声をかける。
「全力で掛けてるけどダメ!!徐々に浸食してる!!」
そのミネルバを見ると魔術をかけている手は小刻みに震え、顔も青白くなっていた
それは、彼女の魔力が底をつき始めている事を意味していた。
「くそ!ミネルバ後どのくらいもつ!?」
「正直、もうほとんど魔力が残ってない……」
そう言って彼女はフラッと倒れしまう。
それを見たギルドマスターはすぐに治癒魔術を発動させた。
「くそ!ミネルバでも無理なもんをどうしたら…」
周りにいる冒険者達がミネルバを担ぎ運んでいく、そんなのが目に入らないほど集中して魔術を行使する
、必死に魔術を行使するが目に見えて体調が悪くなっているのがわかる。
ここまでか…
マスターが諦めようとした時、一人の男の子と言ってもいいぐらいの男性が集団をかき分けてきた
「だれだお前」
いきなり来た男性に不信感を抱いて睨みながらいてしまう。
「僕が治療します!」
誰が見ても助からない状態を見て、そんなことを言い出す奴がいたらどう思うだろうか、正直ふざけてるもしくは研究の為に解剖したんじゃないのかと疑ってしまう。
マスターもふざけていると思い、つい強い口調で言葉を返してしまう。
「言い合ってる時間はありません!このままでは、彼は死んでしまいます」
そう言われると、治療をさせないわけにはいかない。
ただ、こいつが解剖なんて変な事をしないように釘だけは差しておく。
その後、一人の女性がさっきの奴の手伝いに来たようだが、気にせず俺は俺で治癒魔術をかけ続ける。
男の方を注意しながら魔術をかけていると、その男はとんでもないことをし始めた。
血液に直接解毒剤をかけ始めたのだった。
瘴気が血液に溜まるなんて誰も知らねぇんじゃねのか?それに片手で調合しているようだが…
調合スピードと、余りの手際の良さについつい見とれてしまうほどだった。
程なくして完全に容態が安定しだす。
す、すげぇ…レベル5まで行った浸食を治しちまった
普通ではありえない現状を目の当たりに、現実ではないんじゃないかと思っていたが、治療に当たっていた二人が倒れてすぐに現実だと考え直す。
「治療中に瘴気に当てられたのか?おい!お前ら、ミネルバを引きずってでもいいから絶対に連れてこい!」
周りの冒険者に怒号を飛ばし自分は治癒魔術を二人同時にかける。
「レベル3ぐらいか?大丈夫だよな…」
大丈夫と自分に言い聞かせながら治癒魔術をかけ続ける。
浸食レベルが3程にもなると治癒魔術をかけながら浸食を遅らせないと薬が効かないということもあり、ギルドマスターが治癒魔術をかけているが。
「くそ、俺の中途半端な治癒魔術じゃダメだ…」
「嘘!!治ってる!」
焦りを感じ始めたとき、やっとミネルバが冒険者の肩を借りて到着する。
「ミネルバ説明は後だ、絶対こいつらを死なせるな!からっからでも少しは使えんだろ」
そう言うとミネルバは二人の容態を確認した後、その場に調合されたままの解毒剤を目にする。
「解毒剤投与した後に、治癒魔術かけるわ!魔力がほとんどないから大量の解毒剤が必要になると思う」
そう言って調合されていた解毒剤を手に取り、とりあえずという気持ちで二人に飲ませる。
「え!?治っていってる……マスター治癒術の腕上げた…?」
その光景にマスターも唖然としながら。
「馬鹿いえ、現役引退してどんだけ経つと思ってんだ…そういえばさっきもレベル3の状態から一気に治ったような…」
先ほどは魔術に必死で鮮明には思い出せないが、レベル3程の状態から一気に治癒したような記憶がある。
「じゃあマスター………この薬レベル3なら治癒魔術なしで治療可能なの……それって」
「ああ、とんでもねぇしろもんだろうな…王家直属の調合士でも作れないもんだろ、もしかしたらこいつがその直属の可能性だってある…」
「この子は?」
そう言ってミスティを指さす。
「二人とも知り合いみたいだったな、綺麗な水魔術使ってたぞ、意外にこの子が治癒魔術士で、この子が薬を調合してるんじゃないのか?」
「まぁ、なんにしてもラッキーだったわね」
「そうだな!お前ら治療は無事成功したぞ!こいつらを運んでやってくれ」
周囲から歓声が上がり三人を慎重に運び始めた。
「おわっったー」
安心して伸びをしている横に、フラフラしているミネルバが近づいてきた。
「マスター、後でちゃんとどうやってやったか教えてくれるわよね?」
魔力切れで今にも倒れそうなのに、そう口にするミネルバに感心しながら、マスターも口を開く、
「本人に聞け!」
そう言って、ミネルバをその場に残して上機嫌に去って行った。