一歩目
「ここは…そっか僕瘴気に当てられて…」
周りを見渡すと、横のベットにミスティも寝ているようだった。
「ミスティさんには、悪いことしたな、後で謝らないと」
自分のせいで瘴気に当てられて寝込んでいる女性に申し訳なく思う。
「あーおっほん、ちょっといいか」
急にそう言われびっくりして顔を向けると、治癒魔術をかけていた男性が僕が寝ているベットの隣に座っていた。
「す、すみません気づきませんでした」
「あぁいやいいんだ、それよりうちのギルドメンバーを救ってくれて感謝する」
「いえ…ど、どういたしまして」
久しぶりに言われた他人からの感謝に、胸が飛び跳ねそうになる。
「たまたま、高位の調合士がいてくれて本当に助かった、今は寝ているが後で本人にもお礼を言わせる」
「こ、高位だなんて僕は万年Fランクの冒険者ですよ」
そう言うと男性は口を大きく開けぽかんとしている。
「Fランク?嘘だろその前に冒険者って、あれだろ?本業の薬草採取に必要だから登録してるだけだろ?」
「恥ずかしい話なんですが、冒険者が本業だったんですよ、それで……僕………その………ま、魔力が無くて…魔術が使えなくて…だから冒険者としてやっていけるように色々身につけたうちの一つで、全然高位とかじゃないんです」
言葉にする時、今までの嫌な思い出が頭をよぎり言葉に詰まるが、いずれバレることならと勇気を振り絞って自分が落ちこぼれだと宣言をする。
しかし、男性の口から出たのは予想外の言葉だった。
「お前…すげぇな」
「え……?」
何かの皮肉かと頭を回すが、思い浮かぶことなく思わず変な声が出てしまった。
「魔力無い奴ってたまにいるだろ、でもわざわざ冒険者やったりしない、というより普通の奴でもやらない奴は多い、冒険者なんていくつ命あってもたりねぇからな、ただ自分が不利な世界で努力してるって、単純にすげぇなって思ってよ」
「いや…ぼ、僕はそ…そんな」
言葉じゃなく、涙がポタポタとベットのシーツにシミを残す。
「うぇ!なんで泣いてんだ!おいちょ俺なんかまずいこといったか?」
男性が汗をかきながらオロオロとしているところに、別の人の声が入って来た。
「あら、マスターまた若い子いじめてるの?」
木で出来た扉から一人の女性が入って来た。
「馬鹿野郎!人聞き悪いこと言ってんじゃねぇ!俺は普通に会話してただけだ!」
「何いってるのマスター?普通の顔が怖いのにそんなこと言っても説得力ないわよ」
「ブッ……」
女性の言葉についつられて笑ってしまうと、、マスターと呼ばれた男性が凄い形相で睨んできた。
「ほらねやっぱり、脅してる!あっ自己紹介がまだだったね、ウチは副ギルドマスターのミネルバ今回はウチの子達を本当にありがとね」
レンに似た真っ赤な色をした髪を揺らしながら挨拶をしてくる。
「やべ、俺自己紹介まだじゃん…おっほん、ギルドマスターのサインだよろしくな」
自己紹介がまだと言った瞬間、隣まで来ていたミネルバに睨まれ気まずそうに、短髪で逆立った真っ赤な髪をかいていた。
「僕はアスタルです、よろしくお願いします」
「ふーん、アスタルくんか……」
ミネルバは僕を上から下まで観察すると、ニヤッと笑って口を開いた。
「高身長の引き締まった細身ふふなかなかね、黒髪黒目もグッとくるポイント、しかも高位調合士、将来有望すごい逸材だわ!チェックしとかねば」
何かぶつぶつ言っている横でギルマスのサインが呆れたように溜息を吐く。
「お前みたいなおばさん、相手にされるわけねぇだろ…」
おばさんと言われているが、見た目はどう見ても20代にしか見えない。
僕は二人の会話にどうしていいかわからず戸惑っていると、ミネルバが不意にベットに腰かけ口を開いた。
「ねぇ、アスタルくんって何歳?」
「17ですけど…」
妙にシナシナしながら喋るミネルバに戸惑いながら答える。
「アスタルは、年上の女性って興味ないかなぁ?何ならおねぇさんが色々教えてあ・げ・る」
そう言った瞬間スコーンといい音が聞こえギルマスがミネルバの頭を叩いているのが見えた。
「あほかお前!上司の前で男口説く奴がどこにいる!?」
「ここにいますー!大体何!?自分がモテないからって嫉妬?はぁー醜いやだやだこれだから、これだからもてないのよね、あんたは右手に名前でもつけて愛でも囁いてたら?」
「フフフなるほど…殺す!」
「上等よ!年中イカ臭いあんたも、死体になれば多少はましになるでしょうね」
一触即発の空気が流れ、お互い睨みあっている空間が一瞬で出来上がってしまった。
「う…うーん…」
「ミスティさん!大丈夫?」
二人の騒音で目を覚ましたミスティに駆け寄る。
「ここわ?」
「ここは、ギルドの治療所だ、目覚めて本当に良かった」
サインがそう言っているが、ミスティは困ったように僕の顔を見ている。
「ああ、ミスティこちらの男性がギルドマスターのサインさん、こちらが副ギルドマスターのミネルバさん」
「え!?ギルマスと副ギルマス!なんでこんなところに!」
ミスティに自己紹介の代わりに二人の名前を言うと、僕が思ったより驚いていた。
「そうだ!ミスティだったか、今回は助かった本当にありがとう」
サインが頭を下げると、さっきまでふざけていたミネルバも頭を一緒に下げる。
「いや!私は何も!アスタルの指示通りしただけだし」
両手と顔をぶんぶんと横に振り、サイン達に早く頭を上げるようにお願いしてる。
「さっきちらっとアスタルに聞いたんだが冒険者なんだって?アスタルも冒険者なんだよな?」
そうミスティに確認する後ろでミネルバがあほずらで驚いている。
「ちょ!ちょっと待って!二人とも冒険者なの!?」
「「はい」」
二人とも同時に返事をする。
「嘘よ!まだミスティちゃんは分かるけど…アスタルくんもなの!?」
「えぇまぁ…」
そういえば、ギルドマスターにも同じ勘違いされたなと思いながら返事をする。
「二人に、アスタルくんが作ってた薬ウチが投与したけど、効き目が尋常じゃなかったわよ!それに瘴気のあんな治療法聞いたことないのに、冒険者なんて」
ミネルバが肩を落としてショックを受けているようだった。
「ど、どうしたんでしょうか?」
「あぁ、こいつな結構有名な治癒術使える冒険者でな、ウチが冒険者ナンバーワンの治癒術使いよ!なんて今まで豪語してたからなぁ、たぶん、本業じゃない冒険者に知らない技術見せられて、ショックでも受けてんだろ」
「そ、そうだったんですか…」
何を返したらいいかわからず適当に返事をする。
「そっそうだわ!アスタルくん冒険者ってことは、これからこのギルドに通うのよね!!ねっねっ!!?」
「そ、そのつもりではいますけど」
「じゃあじゃあ!私に治療術の仕方教えて頂戴!」
鬼気迫るような表情で近づいてくるミネルバにたじろいでいると、ミスティもはいはいと手を上げる。
「私も、アスタル!私も参加する!」
「え!?ミスティも!?」
「そう!だってこの町に来たのだって、有名な治癒術士がいるって噂を聞いて来たんだもん!だから私も参加する!」
美しい女性二人の顔が近くに迫っているが、余りの真剣さにうれしさなんて感じられない。
「いや、あのミスティは知ってるけど、ミネルバさん僕魔力無いから魔術使えないですよ…だから治癒魔術は教えられないと思うんですけど……」
「じゃあ、今日やって見せた瘴気の治療の仕方だけでもいいから!!!」
お願いと言いながら手を合わせるミネルバ。
「ミネルバさんと、ミスティさんがそれでいいなら、それくらいの事は教えますけど」
と言うと二人は手をとって大喜びしている。
「まぁ、なんにせよ二人は今日はこの部屋使ってくれ、じゃあ俺は仕事に戻るから」
「ウチも仕事しないと!明日朝迎えに来るから!」
そう残して二人は部屋から出て行った。
「やったぁぁアスタルありがと!こんなに早く目的の人と修行出来るチャンスが来るとは思ってなかったよ!」
そう言って僕の手を掴んでぶんぶんと上下に揺さぶる。
魔力が無くても普通に受け入れられている安心感と、上手く教えれるか分からない不安を少し残したまま今日はそのまま眠りに就いた。