調合
「アズダル……グスッ…グスッ…そんな、ことがあった君に私は……ごべんよぉー」
盛大に鼻水と、涙を流しながら話を聞いた後、何度も頭を下げるミスティ。
「あ…いやあの…と、とにかく、僕は大丈夫ですから頭を下げないでください」
誰かに自分の話をしたのは初めてだったが、自分の前で女性が大号泣したのも初めてで、どうしたらいいか、わからない。
「グスッ…グスッ、でもでもぉ」
「クスッ」
最初と印象が違いすぎて思わず笑いが出てしまう、もしかしたら自分と普通に接してくれる人が出来て、うれしくて出た笑いかもしれない。
「本当に気にしないでください、僕も悲しいことに、そういう態度を取られるのは、慣れていますから」
「うわぁあん」
そういうと緑色で綺麗な瞳を、真っ赤にしながらさらに泣き始めた。
僕はどうしようもないと、とりあえず落ち着くまで様子を見てることにした。
「ふーふー…」
「落ち着きましたか?」
「ご、ごめんね、なんか取り乱しちゃって」
落ち着いて自分の醜態を思い出したのか、今度は目だけでなく顔まで真っ赤にしながら謝っている。
「そろそろ街につきますかね?」
「そうだね、そういえばアスタルは、この街では調合士にでもなるの?」
「え?いや、また冒険者でもしながら普通の仕事を探そうかと、なんで調合士なんですか?」
「だって、アスタルの調合した薬凄い効き目が良かったからさ、もしかしてそっちが本業じゃないかなって」
「いやいや、それは褒めすぎですよ、僕の事はちゃんと分かっているつもりです、確かにレンやリリアの家の調合士に教えてもらったり二人の家の本で勉強したんで少しは出来ますけど、さすがに本職は無理ですよ」
そう笑って返すが、ミスティは最初にあったころのように怪しい物を見る目つきに変わる。
「あの家お抱えの調合士に教えてもらったのか…それに加えてあの家の書庫にある本で勉強か…そこまで凄い経験してるのに、なんで逆に本職で通用しないと思ってるの?」
「なんでって、実際にギルドマスターに調合した薬売ったことありますけど、だいたい相場の半分の1000リールぐらいでしたよ」
「あの効き目で1000リールの買い取り!!」
「ええ、冒険者が作った薬なんて、半額でも買い取ってもらえるだけありがたいと思えって」
「わかった、じゃあ次の街でも相場通り…いや3000リールの値が付けられなかったら、私が3000リールで買い取るよ」
「……………は?ありがたいですけど、流石にそこまで面倒みてもらうのは…」
同情か、先ほど助けたお礼に言ってるものだと思いそれを断ろうとするが、ミスティの表情は、真剣なままだった。
「アスタル、私は君が作った薬はそれ以上の価値があると思ってる、これは純粋に取引としてお願いしているの」
「えっとじゃあ、お願いしたいんですけどいいんですか?」
「いいもなにもこっちからお願いしてるんだもの」
そう言って彼女はガッツポーズをする。
感情が表に出やすい人だなぁ
僕は、怒ったり、泣いたり、喜んだりを体で表現する彼女を面白そうに見つめていた。
「お客さん着きましたぜ」
そう言われ馬車の外を見ると町の中に入っていた。
「結構大きい街だなぁ」
「そうだね」
馬車から降りて、そう呟くとミスティも後ろから降りてきて同調してくれる。
「アスタルはこれからどうするの?」
「冒険者ギルドに行って、とりあえずさっき調合した残りを売ってきます、正直馬車のお金であんまりお金が残ってないんですよ」
「そっか、じゃあ私も着いていくね、買取価格きになるしね」
そう笑顔で言うミスティの後ろを、着いていく。
彼女といると僕も自然と笑顔になっている気がする。
「迷った…」
ミスティのその言葉がでる数十分前には予想はしていた、その頃には僕の笑顔もいつの間にか消えていた。
「ミスティさん、どこにあるか知ってて歩いてたんじゃ……」
「し、知ってるよもちろん知ってるよ、でも迷ってしまったものはしょうがないそこの冒険者風の人に聞いてみよう」
目をバシャバシャと泳がせながら、近くにいた人に話しかける。
「あのー、冒険者ギルドってどこですかね?」
「え?ギルド?ギルドは君の後ろにある建物だけど…」
はっきりと冒険者ギルドを知らないのがバレ、ミスティはお礼を言いながら顔を真っ赤にしていた。
僕は、なんて言い訳するか気になり黙って様子を見ていた。
「………………や、やっぱりねここだろうとは思っていいたよははははは」
まったくこっちを見ずに、ミスティはそういいながら冒険者ギルドに入って行く。
僕も笑いながらミスティの後ろをついていく。
ギルドの中に入ると、騒然としており一か所に冒険者達が集まり、その中心には誰かが横になっていた。
ミスティも僕も気になってその集団に近づいていく。
「どうしたの?」
ミスティがその集団の一人に話しかける。
「あぁ、近くの森にスカージが大量にあふれてな、それの駆除をした冒険者の一人が瘴気に当てられちまってな…」
「そんな、早く治療しないと」
少し前に自分も同じ辛さを体験したからだろうか、ミスティは本気で心配そうな顔をする。
話しかけられた男性はゆっくりと首を横に振り、
「ダメだ、ここに運ばれてきたときには、もうレベル4の状態だったんだ、今はなんとかありあわせの薬と治癒魔術でレベル5を保っているが……もう……クソッ運ばれてきたのがもう少し早ければ……レベル3の浸食状態なら解毒薬で何とかなったのによ……」
倒れている男性の知り合いだったかもしれない、彼は悔しそうに握りこぶしを固くする。
「ちょっとすみません」
僕はそれを聞いて、すぐに集団をかき分けて倒れている男性のそばに駆け寄る。
「誰だお前」
僕が近づくと、治癒魔術をかけていた男が睨みを利かせてきた。
「僕が治療します!」
「顔も知らねぇお前なんかに、俺のギルドの冒険者を任せられるか!」
繊細な治癒魔術と正反対の、傷だらけの体と顔ですごんでくる男性に一瞬たじろぐ。
「言い合っている時間はありません!このままでは彼は死んでしまいます」
「クッ…分かった、ただし変なことしたらその首跳ねるぞ」
「わかりました」
すぐにカバンから調合道具と薬草を出す。
「誰か!水の魔術が得意なかた手伝ってください!」
「はいはぁい!私水魔術得意だよ!」
集団をかき分けてきたのはミスティだった。
「ミスティさん…じゃあお願いします。スカージの瘴気は血液に溜まります、僕が首にある太い血管を切るので、血流を保ったまま体の外に血液を出してそのまま戻してください」
「や、やってみる。水よ私に操られる物となれ」
ミスティが詠唱すると、倒れている男性の床から魔法陣が展開される。
「血液の流れは把握したよ、いつでも大丈夫!」
「行きます…」
僕は持っていたナイフで男性の頸動脈を綺麗に切る、それと同時にミスティがあふれてくる血液を血管が外に飛び出したかのように綺麗に体の中に戻していく
僕はその体の外に出た血液に直接解毒液を掛け治療していく、片手でかけもう片方の手で追加の薬を調合していく。
数十分すると、男性の顔色が少しだけだが戻ったのがわかる。
「よし、レベル3まで浸食が落ちた」
そう口にした後、先ほど治癒魔術をかけていた男性に顔を向ける。
男性は治癒魔術を続けてはいるものの、ほうけたように治療に見入っていた。
「ミスティは血液を戻して!あなたは開いた傷口に治癒魔術を!」
僕が、そう指示すると、男性は慌てたようにミスティのそばに行き治癒魔術をかけ始める、それを見た僕は調合した薬を口に持っていき直接飲ませる。
飲んだ瞬間に倒れていた男性の生気が戻り始める。
「これで、だいじょ…………」
治療中に血液からあふれ出た瘴気に当てられた僕は、そのまま気を失ってしまう。
ここが、あの街だったら瘴気に当てられた僕は死んじゃってたかも
と自分も治療してもらえるように願いながら意識を手放した。