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歩みの過去  作者: んやな
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冒険者


「どうしたんですか?」


馬車に揺られながら、目的の街に向かっている途中で馬車が急停車したことに、不思議に思い尋ねる。


「ちょっと、スカージが出ててるみたいでさぁ、お客さんは馬車の中に隠れておいてください」


そう言われ、馬車の中にある積み荷の間に隠れる。

乗客は、僕ともう一人護衛で雇っている冒険者がいたが、その冒険者が応戦するようで馬車から剣を抜いて出る。


そっと馬車の窓から顔を出す、緑色の小さな鬼の姿をしたスカージを冒険者は危なげなく倒しているようだ。

しばらくすると、戦闘の音も無くなり冒険者も馬車に帰ってくる。


「あ、ありがとうございます」


「…………フン」


冒険者は、鼻を鳴らしてそっぽを向く。

きっとあの街の冒険者なんだろう、この態度も仕方が無いものだと自分にい聞かせる。


「はぁはぁ……」


馬車が発車すると、すぐに冒険者の呼吸が荒くなっているのが聞こえてきた。


「あの、大丈夫ですか?」


フードを深く被っているので、顔は分からないが下を向いている顔から汗が滴り落ちてきているのが分かる。


「汗が!本当に大丈夫なんですか?」


容態を見ようと、馬車の椅子から立ち上がり冒険者に近づく。


「ち、近づくな……この程度、どうにでもなる」


男だと思っていた冒険者から、女性の声が聞こえて少し驚くがそんなことを言ってる場合じゃない。


「もしかして、スカージの瘴気に当てられたんじゃ…」


そうだったらまずい、そう思い女性のフードを取り横に寝かせる。

女性は抵抗する気力もないようで、短く切り揃えられた緑色の髪の間から恨めしそうに睨みつけるだけだった。



「今、解毒剤作りますから!」


僕は、持ってきているカバンから、スカージの瘴気に効く薬草をいくつか取り出し、調合する道具も一緒に出してその場で調合する。


昔一人で薬剤採取した時に、ギルドマスターからそんな粗悪品買い取れない買い取ってほしかったら調合でもしてこい!って言われてから、いつでも調合できるように勉強していてよかったと思う。


ギルドマスターに感謝はしないが。


「出来ました!これ飲んでください!」


「お前のような…卑怯者の……薬など…誰が飲むか…」


途切れ途切れに冒険者が喋る。


「いいから飲めよ!」


久しぶりに大きな声を出した気がする、それは怒りではなく、死なせてしまって新しい町に着いたとき悪い噂がながれてしまう、という打算的な焦りからだった。


冒険者は、ビクッっと体を驚かせ観念したように液体の解毒剤を口にする。


飲んでいるはじから顔に生気が戻り始め一安心する。


「…………感謝する」


容態が戻った冒険者は横になったまま長い沈黙の後、僕に感謝を述べる。


「何とかなって、良かったです」


言葉の後に、これで悪い噂は流れないと続くがそれは心の中にしまっておいた。


「その……助けてもらって言いづらいのだが…」


冒険者は横になった状態から座り直し、歯切れ悪く喋りだす。

僕も向かいの馬車の椅子に腰をかける。


「出来れば…そのあのいつも一緒にいた二人のように、傀儡にするのは辞めてほしいんだが…」


「…………は?」


「いや!わかっている、だが私にも冒険者を続けないといけない理由があってだな、だからこれからずっと薬草採取というのは困るんだ!」


「ちょ!ちょっと待って下さい!僕がいつ、レンとリリアの二人を傀儡にしたんですか」


話についていけず、たまらずストップをかけてしまう。


「何を今更、しらを切っている、冒険者の間では噂になっているぞ!Aランクに匹敵する新人エースをお前が汚い手を使って思い通りに使っているとな」


「えぇ……」


僕の知らない僕の噂を聞き、ガクッとうなだれてしまう。


「い、今のは違う、そのお前を…あなたを悪く言うつもりはなくて、そのあの二人のように扱わないで欲しいと、言いたかったというかなんというか…」


冒険者は慌てふためきながら、なんとかごまかそうとしているが、僕には元々そのつもりは無いというかレンとリリアにもそんなことをした覚えはない。


「そもそも僕は、二人を無理やり連れてたわけじゃないんですよ」


「だが………」


何とか誤解を解こうというが、まだ疑いの目を向けてくる。


「もし僕が無理やり二人を従わせてたら、あいつらの家が黙ってないですよ」


「家って、あの二人は貴族なのか?」


「そうですよ、レンはダインズ家、リリアはレグリス家ですよ」


「ダインズ家とレグリス家!!そんな大きな貴族の子供だったの!?」


「そうですよ、だから、僕がどうこう出来るレベルじゃないんですよ」


「じゃあなんで、二人は君なんかと一緒にいるの?」


「なんかって…まぁわかりますけど、二人は小さい頃からの幼馴染です、だから、魔術が使えない僕に気を使ってくれてただけの、ただの優しい奴らなんです」


「そ、そうだったんだ…ごめんねなんかその…」


「それこそ別にいいですよ、もう慣れましたから」


「でも、二人と幼馴染ってことは…君も貴族だったり…?」


冒険者がこちらをうかがいながら聞いてくる。


「僕は元ですよ、魔術が使えないってわかって、一人で生きていける年齢になったら、すぐに勘当されましたけどね」


さらっと重たい話をされた女性冒険者は、気まずそうに顔を伏せた。


「だから、気にしないでください、誤解が解ければ十分ですから」


「そっか、ごめんねなんか勘違いしてたみたいで、噂だけ鵜呑みにしてたよ」


最初に比べたらだいぶフランクに話しかけてくれる彼女を見て、誤解が解けたようだとホッとする。


「じゃあ、誤解も解けたようだし、僕の名前はアスタルよろしくお願いします」


「私は、ミスティよろしく」


馬車の中で、ミスティが握手をするように手を伸ばす。

僕はレンとリリア以外に、初めて普通に話しかけてくれる存在が出来たとこに、ドギマギしながら握手に答える。


「それで、アスタルはどうして違う街に向かってるの?」


「話せば長くなりますが…」


「旅路も長いし聞かせてよ、アスタル君は悪い噂しか聞いたことないからさ、ちゃんとアスタル君を知る上でも」


「じゃあ…」


そう言われ、アスタルはここに至るまでの経緯をかいつまみながら話した。

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