心の重荷
「失礼します」
医務室から出た僕は、真っ直ぐに職員室に向う。
初めて入る職員室に少し声が上ずってしまう。
「な、お前何しに来たんだ!」
担任の男性が慌てて、職員室の入り口にいる僕にかけてくる。
「いやあの……「お前は、俺にどんだけ迷惑かけるんだ!教室に戻ってろ」」
担任が僕の言葉にかぶせながら言ってくるが、そもそも僕は魔術が使えないだけで担任に迷惑なんてかけた覚えが無い。
むしろ、僕が迷惑をかけられた方だと、いらだつ自分を抑えながら僕は言葉をつづける。
「僕は、今日限りで学校をやめようと思っています」
担任の男性は一瞬戸惑った顔をしたが、初めて見る優しい目つきに変わった。
「そうか、やっと決断してくれたか退学の手続きくらい先生がやっといてやるよ、かわいい生徒の最後だもんな」
初めて、先生の生徒になれた僕の心は、濃い雲がかかったように濁りきっていた。
「あ、そうそう手続きに、退学理由を書かないといけない欄があるから一応教えといてくれるか?」
「…………僕は魔力が無くて…魔術が使えないから別の道に行こうと思ったからです」
本当の原因の事は言えなかった、これが俗に言うプライドかもしれない。
まだ、自分にそんなものが残っているのかと、自称気味に苦笑いがこぼれてしまう。
「そうか、まぁそうだよな違う道に行っても頑張れよ、じゃあ後はやっとくからお疲れさん」
僕が今まで頑張って来た世界は、ものの数分で終わりを告げた。
何で僕はこの学校にこだわってたんだろう。
そう思いながら職員室を後にすると、ふと頭に父の顔が浮かんだ。
認めてもらえるなんて思って通い続けたんだろうか…
その考えを否定したい僕は、首を横に振りながら最後の下校をする。
今日は何も考えたくないし、帰って寝て明日から考えよう…
学校を後にして一人暮らししている、僕の家を目指す。
暗い気持ちとは裏腹に、僕の体は自然と軽くなった気がする。
諦めたことに、僕の体が楽だと感じることを、複雑に感じながら歩き続ける。
「ん…朝か…ってなにしてるの?」
昨日帰って、きてそのまま寝てしまったようだ。
でもなぜか、起きたらリリアが僕の上にまたがり、上から僕を見下ろしていた。
「アスタル……遅刻する」
そうか、二人はまだ僕が学校を辞めたことを知らないんだった。
「いっつも早起きのアスタルが珍しいな、どうした?昨日も早退したみたいだし、もしかして昨日の傷がまだ痛むのか?」
「そ、そうなんだよね…だから、今日は学校休むから二人で学校行ってきてよ」
二人には本当の事を言わないと、と思っているのに、出てくる言葉は僕が発したい言葉と違う言葉だった。
「そっか…安静にしとけよ、学校終わったらなんか食い物もってきてやるからよ!」
「うん…絶対安静」
後ろめたさを感じながら、二人が出ていくのを布団の中から見送る。
「帰って来たら、二人には本当の事を話そう!」
そう決意して、僕も出かける準備をする。
「学費は払わなくてよくなったけど、ちゃんと働かないとご飯も食べれないしなぁ…」
心配事をつい、口にしながら冒険者ギルドに向かう準備をする。