真実
「とりあえず、隣町まで行ってみるか」
「……うん」
俺たちは以前の任務失敗の被害の確認もかねて、少し遠回りしながら隣町を目指すことにした。
いくつかの瘴気と溜まりを見つけては、風で飛ばしながら進んでいった。
「やっぱり、瘴気の溜まりが多いな……クソッ」
自分たちの仕事の失敗の被害をまじまじと見つめながら進む足は。とても普段通りとはいかなかった。
「………また」
リリアの視線の先には、また瘴気の溜まりができていた。
しかし、そこにはスカージなどではなく、瘴気化したゴブリンの死体がいくつか転がっていた。
「瘴気化したモンスターか……被害が出てないといいが」
「…………」
そう愚痴りながら、瘴気化したゴブリンを燃やし始めた。
いつも通りのスピードとはいかなかったが、それでも結構な速さでここまで来たとは思う。
もうすぐ隣町というところで、リリアに腕を引っ張られて止められる。
「どうしたんだ?」
「……あれ」
リリアが指した指の先には、一人の冒険者風の女の子が薬剤採取をしていた。
「あれがどうかしたか?どこにでもいる普通の薬剤採取している、冒険者だろ?」
「……よく見る」
その冒険者は地面に顔をこすりながら、下から薬草を眺めたり、自分が持っている薬剤の葉と重ねたりせている。極めつけに今観察していた薬草を踏みつけていた。
「あれは、俺たちがいつもやってる」
「うんアスタルが見つけた採取法……」
珍しくリリアが言葉をまくしたてるが、興奮しているのだろう実際に俺もこんなに早くアスタルの手がかりが見つかるとは思わずに、興奮していた。
二人で、その冒険者に近寄る。
「あの、すみません」
「はい?っえ!?お二人は!!」
俺たちの顔を見るなり、驚いたように声を上げている。
「少し時間いいかな?っあ!俺の名前はレン、で隣が……」
「……リリア、聞きたいことがある」
リリアの素っ気ない自己紹介に、思わず苦笑いが出てしまう。
「あの、あの、私はミスティと言います、最近まで隣街にいたのでお二人のお噂はよく耳にしていました、お二人の力になれるなら何でも聞いてください!」
「ハハ…なんか恥ずかしいな、それで質問なんだけどもしかしてミスティさんって、アスタルていう名前の男の子知らないかな?」
あの街から来たと聞いて、俺もリリアも少し警戒する。
もし、アスタルに何かしてたらそん時は……
「あの…アスタルですよね……あ、あの」
「……もしかして、アスタルに何かした?」
歯切れの悪さからリリアは怒気を含ませながら、質問している。
「い、いえ!何も!本当に何もしていません!アスタルは私の命の恩人です!変なことなんてするわけないじゃないですか!」
ミスティと言っていた少女もリリアに負けじと、いやそれ以上に怒りながら返事をしてきた。
「命の恩人?それよりやっぱり、アスタルはこの町にいるのか!」
嬉しい事実に俺らしくもなく、興奮気味に近くに詰め寄りながら話しかけてしまった。
「いえ……アスタルは、もういないです」
遅かったか、やっぱりもう次の街に行ったのか。
「それで、アスタルがどこに行ったか知ってる?」
暗くなっていた表情を、もっと暗く沈ませながらゆっくりと口を開いた。
「アスタルは、その、アスタルは…しっ死んだらしいです」
「どういうこと……詳しく……」
リリアは俺を押しのけて彼女に一歩詰め寄り、睨み付ける。
俺は彼女の言葉に反応すら出来なかった、正確には理解できていなかった。
「アスタルは、私達を助けるために……瘴気化したゴブリンに一人で戦いを挑んで、そのままっ!」
言葉をすべて言い終わる前に、リリアがミスティの胸ぐらを下からつかみ上げる。
「あの街の冒険者なら知ってたはず…アスタルに魔力が無いことは、それなのに何で……わざと、殺したの?」
「違うよ!しょうがなかったの!私だっで!だずけれるなら、たすけたかった!!」
ミスティはこぼれる涙を気にもせず、リリアを思いっきり突き飛ばした。
「……言い過ぎた…」
少し冷静になったのか、リリアは頭を下げている。
俺もやっと頭がゆっくり、回り始める。
「ふぅー、少し落ち着こうかミスティもう一度確認するけど、アスタルは本当にゴブリンに……」
ミスティは、ゆっくりと首を重力に従って下げる。
ミスティの返事で実感が沸いたのか、リリアは膝から崩れ落ちる。
俺はその事実が信じれずに、頭を片手で抱える。
どのくらい無言のまま過ごしたかはわからないが、結構な時間をそのまま過ごしたと思う。
それでも受け入れられない俺は口を開く。
「アスタルに、最後に会いたい、アスタルは何処に?」
それを見てしまったら、その事実を受け入れなけれなければならない、それは見たくないが、本当にアスタルがいなくなってしまっているのなら……
そう思っていると、ミスティが首を横に振る。
「無いの…救出に向かった冒険者がそういってたから」
「無い?それはどういうことなんだ?」
無いと言われホッとする自分が、どれだけ信じたくないか表していた。
それからミスティから詳しい話を聞くと、二人を抱えて走り切ったミスティは魔力過疎になり、そのまま気絶してしまい、副ギルドマスターのミネルバという女性がアスタルの救出のため、冒険者を出したが、その時にはゴブリンの死体だけが残されていて、アスタルの姿はなかったらしい。
「もしかしてアスタルは生きてるんじゃ、アスタルなら瘴気化したゴブリンが長く生きられないのは知ってるはずだし、どこかに隠れてやり過ごしてるんじゃないのか」
何かすがるような気持ちで、ミスティとリリアに聞いてみるが、リリアは崩れたまま反応がなく、ミスティは否定を意味するように首を振る。
「実は、私もその可能性があるかもと思って辺り周辺探しまわりました。でも……」
「いや、俺たちなら見つけれるかもしれない、だから「違うんです」」
興奮した俺の言葉をさえぎり、ミスティが喋りだす。
「見つけたんです、たぶんアスタルのだと思う完全に瘴気に感染してしまっている、両腕と片足を……私はそれをせめて瘴気を取り除いて、埋葬出来たらと思って、だから、……アスタルはもう……」
「そ、そんなの、わからないだろ!俺たちなら、見つけれる、アスタルが死ぬわけなんてない!だろうリリア?」
「…………」
リリアは俺と同じ気持ちのはずと思い話掛けるが、返事は返ってこない。
「リリア?」
心配になりリリアの前に回り込んで顔を覗き込むが、人形のような表情のまま固まっていた。
「…………私のせいだ…………私の」
長い沈黙の後、開いたリリアの言葉を俺は聞かなければよかった。
「……瘴気化したゴブリン、あの時任務を、失敗しなかったら………私の……私のせいだ」
「そんなわけないだろ!任務の失敗は俺たちのせいじゃねぇ、第一アスタルはまだ生きてるかもしれねぇだろうが!」
完全に八つ当たりだ自分でも気づいてる、でも今この気持ちをぶつけないと俺もどうにかなってしまいそうだ。
「リリア立て!アスタルを探しに行くぞ!怪我してるなら動けなくなってるかもしれない」
「…………」
「立てよ!」
リリアの腕をつかみ上げるが、俺のその手はリリア本人により払いのけられる。
「じゃあずっとそうしてろ、俺は一人でも探しに行く」
その場を少し離れて、少し後ろを確認するが、リリアは体制が変わらず座り込んだままで、ミスティはどうしたらいいのか、わからずおろおろしているだけだった。
「クソッ!」
一言そうこぼした俺は、アスタルを探すためそのまま森の奥に入っていった。




