決着
正直冷や汗が出そうになる場面もあったが、まぁやっぱり命のやり取りを知らない学生だな。
「なっぐぅ!!」
俺が寸止めした瞬間に、レンは俺の剣を避けて拳を振るってきた。
「いっってぇ……」
「やっと隙が出来ましたね」
レンは落ちた剣を拾いながらそう言っている。
やばい、まじでどうする、正直終わったと思ったところにもらった一発はでかい。
とりあえず時間を稼がないと、その間にシュプレイが倒して合流するのを待つしか……
くっそ完全に油断した!
「なかなかやるな、正直なめてたよ?まさか剣を落とされてもうろたえない学生がいるなんてな」
「そうですか?剣を落とされるなんて日常茶飯事でしたよ」
時間を稼ごうと適当な話題を振るが、このレベルの戦闘が出来る男が、いつも剣を落とされるという状況が気になってしまう。
「どういうことだ?そんだけのレベルだったら学生じゃあ頭いくつも飛び抜けてるだろ?」
「まぁ、大概の生徒にはそうでしたね、でも、俺には絶対勝てない相手がいたんですよ、それこそ毎日負けていましたよ」
「は!?負けていた?毎日……そりゃなんの冗談だよ……」
「冗談でも何でもないですよ、毎日勝負して、毎日負けていた、それだけです」
ありえない、このレベルの男が毎日負けていた?どんな化けもんだよ。
「まぁ、でもそいつ魔術が使えなかったんで、身体強化なしの勝負でしたが剣技で勝てたことはないですね」
剣技のみなら俺でも勝てることは出来るが、こいつ以上の剣技を使える奴なんて、それこそ俺の記憶では数えれる程しかいない。
レンが毎日相手にしていたのは、俺レベルの剣術使いってことになる。
「そいつの名前聞いてもいいか……」
「アスタル……俺と同じ学園にこの間まで通っていた奴です」
は!?そいつは、学生なのか?
冗談はやめてくれ。
「その話が本当なら、騎士団の剣術指導を頼みたいもんだな」
「それは無理ですよ、アスタルは多分もうこの街にいないですから」
「旅にでも出たのか?」
「出たんじゃあないですよ追い出されたんです、学園からギルドから、この街に住めなくされたそれだけです」
「は!?なんでだ?そんなに素行でも悪かったのか?」
「理由はわかっていますよ、魔術が使えない、それだけです」
「いやいや、さすがにそれだけの訳がねぇだろう」
俺の言葉に反応するかのようにレンは少し暗い表情をし、ゆっくり口を開く。
「……多分、俺たちの…………せい、俺は、俺とリリアは、正直学生のレベルを抜けている、それこそ自分で言うことが出来るぐらいに、それに、結構大きい貴族、そんな俺たちが仲良くしているのが魔術なしの、平民なのが気に喰わないやつがいたんですよ」
なんだそりゃ、言ってることはわかるし理解できるでもそりゃ……聞くだけで胸糞悪くなる。
「お前以上の剣術使いを平気で捨てる程に、今の学園とギルドは目が腐ってやがんのか」
「そんなこと言ってくれる人、初めてですよ」
「俺は権力とかで思い通りにする輩が嫌いなんだよ、特に俺はこの剣一本でここまで来たからな、余計に」
「はは……俺結構あなた好きかも知れません」
「ぜひ、かわいい子に言ってもらいたいセリフだな」
俺たちは、そう言ってもう一度戦闘を開始する。
十分時間も稼げたダメージも引いてる、これなら行ける!!
そう思い、レンの剣を受けながらシュプレイが合流するのを待つ。
「ハッ!」
レンが掛け声とともに大きく縦に剣を振るう。
正直、これまでで一番お粗末な攻撃だろう、スタミナが切れたと思った俺は迷わず、大きな隙に剣を振るう。
「なっ!」
俺の剣は振り切ることなく、魔術で作られた水属性のランスに止められる。
そのランスが今度は俺を目がけて飛んでくる。
それと同時に逃げ道をふさぐように、レンが剣を振るう。
「くそっったれ!!」
俺はレンの剣を何とか防ぎ、ランスの攻撃を致命傷からずらす。
しかし、ランスの直撃を受けた左足は言うことを効かなくなってしまった。
「シュプレイ!……おいシュプレイ!」
俺一人じゃ無理だと判断してシュプレイを呼ぶが、返事が返って来ない。
苛立ちシュプレイの方に一瞬視線を向けると、気絶して倒れているシュプレイが視界に入ってきた。
「マジかよ……ッ!!」
状況を理解するより早くレンが詰めて来ていた。
俺は何とか受けることが出来たが、左足の踏ん張りが効かずにバランスを崩してしまう。
その隙に、呼び込むように剣が振るわれるのが視界に入る。
その間に剣を滑り込ませ直撃だけは避けることが出来たが、威力を殺しきれずに俺は後ろによろめく。
追撃するようにレンが突きを放つ。
その突きを見てこれなら片足でも避けれると、判断して、片足で避けるが避けた先に小さな影が一瞬映る。
「はぁあ!?」
視界が回転し何が起こったかわからずに、変な声を上げてしまう。
多分だが投げられた俺は、状況を確認するために仰向けで倒れた状態から、視線だけを動かす。
そこにはシュプレイと戦っていたリリアが俺の腕を掴んで立っていた。
「俺らの勝ちですね」
そう言われ俺の顔の前には、剣が突きつけられていた。




