スカージ
「お前が俺たちとパーティー組みたいのか…!?」
「………………」
マスターに俺たちの前に連れてこられたのは、クライスだった。
「レンさんも、リリアさんも途中で帰っちゃうんだもんな、でもこれから、よろしくお願いします」
俺たちは正直言葉も出せなかった。あれだけのことをしておきながら、悠々と俺たちの前に来れる神経がわからない。
「クライス君、よく俺たちとパーティーが組みたいなんて言えたね?」
「あっ!クライスでいいですよ、確かにお二人の強さに比べたら全然ですけど、お二人から学ぶことは多いと思いまして、ギルドマスターに無理言ってお願いしたんですよ」
違う、俺が言いたかったことはそう言うことではない。
「……違う……アスタルのこと」
リリアが俺の代わりにクライスに言ってくれる。
「あぁ、あいつのことですか、でも今日来てくれてわかりましたよね?アレが皆の意見ですよ、それより早く依頼行きましょうよ!」
アスタルのことを本当にまったく気にしてない様子に、手が出そうになる。
俺の握った拳をリリアの手がそっと包む。
「ダメ……」
リリアにそう言われ少し頭が冷える。
「ふー………よし!じゃあさっさと終わらせよう………」
「じゃあなに行きますか?オークですか?ゴブリンですか?それとも他の魔物ですか?」
「……薬草…採取」
「え!?はっはっはやだなぁ、もうあいついないんですよ?」
「嫌なら別にいいよ、クライス君」
自分でも驚く程冷たい声が出てしまう。
「あ、いやというわけでは…」
「そこまでだ、お前ら初めてのパーティーの依頼が、採取って言うのも味気ないだろ?それに、今はギルドじゃ、採取系の依頼は無いしな、ちょっと待ってろ俺がちょうど良い依頼持ってきてやるから」
そう言ってマスターがクエストボードまで依頼を取りに行く。
「チッ!」
さっさと依頼を終わらせようとしたのを、邪魔されて思わず舌打ちが出てしまう。
「おっし、持ってきてやったぞ!隣町のと、この街の間ら辺にスカージの巣が見つかったらしくてな、そこのスカージの殲滅をやってきてくれ」
俺は、ギルドマスターが持っていた依頼書を乱暴に取りギルドを後にする。
急いでスカージの巣に向かおうと早足になるが、
「ちょっと待ってください!」
クライスにそう言われて、俺たちは足を止める。
「……なに!?」
「馬車借りに行かないんですか?逆方向ですよね?」
「俺たちは、馬車より強化して走った方が早い、俺たちのパーティーメンバーなら、ただ走ってついてくるぐらいできるよな?」
「いやそれは……」
ついてこれないのは、わかっている。むしろ置いていこうと俺はしているし、そう思っていると
「もちろんついて行けますよ、ただそうなると戦闘の魔力が無くなるかもしれないので、自分だけでも、馬借りてきますね」
そう言ってクライスが勝手に馬を借りに走って行ってしまった。
クライスの見栄を張るのも、言い訳もすべてに苛立ってしまう。
しばらくその場で待っていると、やっとクライスが馬を連れて戻ってくる。
「お待たせしました!!」
「行くぞ………」
俺はそれだけ言って、街の外を目指す。
街の外に出ると俺とリリアは身体強化をして、目的地を目指す。
もちろんクライスは付いてこれない、馬なんかに俺たちがスピードで負けるわけがない。
しばらくすると、俺とリリアは目的のスカージの巣の近くに着く。
クライスも一応場所を知っているし、後から来るだろう。
「さっさと終わらせよう」
俺は、でっかい蟻の巣のような穴が開いたスカージの巣を見つめながら言う。
「………うん」
俺とリリアが静かに移動しながら巣の周りのスカージを慎重に一体づつ片づけて行く。
あらかた巣の周りのスカージを討伐をすると、俺たちは少し巣から離れる。
「ちょっと周りの奴ら多かったな…今回の巣は結構大きいかもな」
「………時間かかる…めんどう」
そう言いながらリリアは、液体状の解毒薬のビンを鞄から出す。
リリアは、無詠唱の水の魔術でビンから取り出し、そのまま並列魔術で火を出すと解毒薬に当て蒸発させようとする。
「いましたー!!探しましたよー!!」
大きな声でそう言いながら馬に乗ったクライスが近づいて来る。
「大きな声を出すな」
「………迷惑」
俺たちにそう言われて少し気まずそうにするが、話を変えようとしたのかリリアの手元を見て、
「何してるんですか?」
と言ってきた。
本気で言っているのか?スカージの巣を殲滅する時の基本だろうが
「こうやって解毒薬を蒸発させたのを、風の魔術で巣の中に送り込んで、それで出てきたスカージを少しづつ狩るんだよ」
「へー」
と感心するクライスだが、いい加減にしてほしい。
別にスカージの巣の殲滅するための基本を知らないのはいい、だがこの依頼は、クライスも一緒に受けている、知らないじゃ済まされないだろう。
「でもあのスカージですよね?」
そんなことを言い出したクライスを無視して俺は、リリアが蒸発させた解毒薬を風魔法で運び始める。
「我に集い敵を焼失させよファイアーブロー」
「おまっ!」
自分の作業に集中していたせいで、クライスの魔術の反応に遅れてしまう。
俺が制止させる前に、クライスがスカージの巣に向かって魔術を放つ。
「見ましたか?僕の魔術の実力!!これが僕の本当の実力ですよ!」
そう言って自慢げに俺に言い放つが、俺たちはそれどころでは無かった。
クライスの魔術で上がった砂埃を俺が風魔法で飛ばす。そこには完全に巣穴がふさがったスカージの巣があった。
「リリア!!」
「うん!!」
俺がそう言うと珍しくリリアが、慌てたように返事をする。
「どうしたんですか?慌てて、スカージの巣穴は僕の魔術で壊しましたよ!」
「お前な!!」
俺が文句を言おうとしたがそれと同時に、地面からスカージの手が何本も生えてくる。
「リリアはスカージの瘴気を!俺が殲滅させる!」
そう言って、地面から出てきたスカージを俺が素早く魔術で討伐する。
解毒薬を送り込んで無かったので穴の中から、溜まっている瘴気が噴き出てくるが、それをリリアが風の魔術で飛ばしてくれる。
「わぁあああああ!!!」
クライスの叫び声が聞こえて、クライスを見るとスカージを倒していたが純粋に数に押されて今にも、襲われそうになっていた。
「クソッ!」
クライスに近づき周りのスカージを倒すがその間に、何匹ものスカージのうちもらしを出してしまう。
リリアの方を見るがリリアは際限なく、穴から出てくる瘴気を何とか処理しながらスカージの相手をしている。
しかし、時間が経てば経つほど処理しないといけない穴が増えていく。
俺も何とか瘴気を魔術で飛ばしながら、倒すがクライスのそばから動けないため、自然とうちもらしの数は増えていく。
数分経つと、俺とリリアは瘴気の処理が間に合わなくなり、あたりに少しずつ瘴気が溜まり始める。
「撤退だ…」
俺がもう無理だと判断してリリアとクライスに、撤退の指示を出す。
リリアが頷き俺がクライスを抱えてその場を後にする。
俺にはうちもらしたスカージで被害が出ないことを願うことしかできなかった。




