第7話 魔法
昼が過ぎ、夜が来る。今日は新月か、外は真っ暗である。周りの家の明かりはほとんどない。皆が寝静まった深夜の頃だ。拳銃を取り出し、スライドさせる。それをローブのポケットに入れる。替えのマガジンを二個、三個とこれもローブのポケットに入れる。扉を開け、廊下に出る。廊下にエリカの姿があった。エリカは礼をする。
「こんばんわ。リリカ様を励ましてくださって、ありがとうございました。」
「まだ、俺に手伝えることはなにもないですから、せめて話ぐらいは聞くことしかできない。普通にことをやったまでだよ。」
格好をつけたな...、自分でも痛いと思った。ふふふ、とエリカは笑った。
「頑張ってくださいね。」
エリカは去って行った。少しだけでも、エリカと仲良くなる事が出来たのだろうかと思うと、格好をつけたかいがある。
「おやおや、エリカさんとまで仲良くしようとしているんですか?」
そいつが笑ってきく。
「そんなわけないだろ。」
そっぽを向く。
「思っている事がわかるの忘れていませんか?」
そんなの知らない。前を向いて、スタスタと歩いていく。
三階の訓練場に着く。そこには、真ん中にリリカが立っていた。
「やぁ、遅かったじゃないか。」
リリカは振り向き、手をこまねく。挑発しているのか?
「体術がどれくらいできるか見るためにも、実戦が必要だ。全力でかかってこい。」
体術なんて、中学の頃に、いやいややった柔道しかない。しかも不得手だ。
「自己申告しとこう。ものすごく弱い。」
「弱いといっても、どんな弱さかは知らないといけない。」
やらなくてはいけないのか。足を一歩だし、走り出す。そして、思いっきりパンチをする...はずだったのだが、完全に攻撃が読まれて手で押さえられている。リリカは手をひねり、腹に肘打ちする。俺は地面に倒れた。
「これは思ったより弱いな。瞬発性、思考力、予測、力...全てを鍛え直す必要がある。」
「だから...弱いっていったでしょ。」
「あぁ。しかし、弱いところがわかっただけ収穫はあったか。ほら。」
リリカは手をさしのばす。その手を握り、立ち上がる。
「しかし、魔法はどうだね。私の魔法は何度か見たことあるだろう。」
リリカは炎を手の上に出し、消す。
「私は基本的には炎系の魔法しか使わない。しかし、本当は、私は物質の温度を変えることのできる魔法師だ。高くすることもできるし、逆に低くすることもできる。」
リリカは地面に手を触れる。触れたところから凍り始める。
「このように、魔法を扱う者はそれぞれの特性がある。そして、その特性はその人の個性が関係している。私はと言うとだな...その...熱しやすく、冷めやすいところかな。自分の個性ってなんだと思う?」
個性か...考えたこともないな。個性...昔の自分は人から見られたくないと思っていた。そして、よく陰が薄いと言われた。悲しくなって来るな。
「一人でいるのが好きだった...かな。どちらかと言うと人に見られたくなかった。」
ふーん、と言うような顔をリリカはしている。
「んじゃ、今人に見られたくないと強く思ってみて。自分の存在を認識されたくないと。」
「そんなことやって何の意味があるの?」
リリカはなにも言わず、じっとみていた。仕方ない、人に見られたくないと強く心に思う。強く強く...。特に何にも変わったことは起きなかった。リリカの方を見る。リリカはなぜか驚いていた。
「特に何にも起きなかったよ。ところでなにに驚いているんだい?」
「いや...お前が見えなくなってな。簡単に言うと、お前は今透明になっている。」
は?と思う。透明だなんて。手を見る...いや、手がなかった。ふふふ、とリリカは笑い始めた。
「なるほどそういうことか。お前はきっと光の屈折や、反射を操ることが可能ならしい。しかし、まだ不安定だな。さっきも、少しの間だけ透明になれた。有効面積が広いとやはり、厳しいのか。これでお前の戦い方が決まるぞ。」
リリカは嬉々とする。俺はへ?と言う顔をする。
「つまりは、俺も魔法を使えるってことなの?」
リリカは大きく頷く。
「訓練すれば実用的なものになるだろう。しかし、光を操るなんて、高級魔法師以上の実力はあるぞ。体術は全くダメでも、魔法は強いのか。」
すこし、照れて来る。こんなにも褒められたことなどなかったのだ。リリカは話し続ける。
「光を操ることができたら、透明な状態での攻撃、影分身まがいのことができる。しかしだがな、有効面積はお前自身だから、どんなに訓練してももって数分。どうしたものか...。」
「有効面積を小さくしたら良くない?その...例えばこの拳銃だけ消すとか。」
リリカは手をポンと叩き、俺の肩を揺らして喜ぶ。
「なるほど、その手があったのか。相手はなにもしてないのに、自分たちは謎の死を遂げる。しかし、そうなると俊敏性は高くしなくてはならないな。」
リリカは、部屋中を歩きながら考えていた。何だか、めっちゃ自分が強いかのように錯覚してしまう。
「実際、その銃を消してみてくれ。」
うん、と俺は頷く。手にあった銃は消えていた。そのまま、人形の方に構え、引き金を引いた。見事命中。自分でも驚く。感動してしまいそうだ。
「ここから訓練を重ねていけば、最強になることも可能だ。」
リリカはとても喜んでいた。俺はリリカの方を向いて、礼をする。
「これから、訓練をよろしく願えるか?」
「あぁ、勿論だ。」
リリカはまた笑顔になった。同率一位の笑顔だった。