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真実の色  作者: エビチリ
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第3話 新たな仲間

あぁ...痛い目にあった。爆発に巻き込まれるなんで体験は、人生に一度ぐらいでいい。ゆっくりと起き上がり、周りの様子を確かめる。今度は別のステージか。そこには一面いっぱいに広がる砂漠と、小さな家。なんにもないだけに、そこにある小さな家が妙に目立つ。アニメとかの主人公はここですぐに行動に出るのだが、実際考えるとそうはいかないだろう。いや、それが生命力の差か?

取り敢えず、この砂漠地帯から抜け出さなくてはいけない。一歩ずつ踏み出して行く。砂の中に足が沈んでいく。歩き辛い。しかし、行き先なんて決めていなかったため、すぐ足取りは重くなり、ついには座り込んでしまった。やはり、さっきの家に行くべきだったんだろうかという思いが強くなっていく。

「行けばいいと思いますよ。」

うわぁぁ!心臓が止まるというのはこういうことを言うのか...いや、死を何度も経験した今になっては、本当に心臓麻痺になりそうで怖い。

「我がマスターもそんなすぐに殺しませんよ。」

やっぱり、思ってることが分かっちゃうのか。はぁと大きなため息をつく。

「なんで俺についてくるんだよ」

「それは我がマスターからその命を授かっているからです。」

そいつは一礼した。

「わからないことがございましたら、情報公開が許されている範囲でお答えします。」

意外と便利だな...すこし自分の中の好感度が上がってくる。

「褒めてくださる時は声に出していただくととても嬉しいのですが。」

そいつがすこしムッとした顔をした。

「それで、さっきの家にいってもいいというのは、初期のチュートリアルみたいな物?」

「いいえ、私の勘です。」

え?...相変わらずそいつはニヤニヤと笑ったままである。

「シュミレーションゲームにチュートリアルなんて必要だと思いますか?」

まぁ妙に納得できる。幸い、歩いてきた距離は短く、その小屋の場所は見失ってない。手を地面についてゆっくりと立ち上がる。

「神の使いとやらの勘を頼ってみるか。」

相変わらずそいつは笑ってる。本当に頼っていいのか...不安になるな。その気持ちを消すかのように、頭を横にブルンブルン振る。1歩、また1歩と、歩き続ける。途中でふと気になることがあった。そいつの方向に顔を向け、

「そう言えばさ、神がこのゲームのプレイヤー何でしょ?もしかしたら、今の行動も神が決めてるの?」

と聞く。自分の意志で決めた事が実は他人の意思で決めてた、という風なことがあったらこれ以上に気持ちが悪いことは無い。そいつは頭を傾け、少しの間考えていた。そして、口を開いた。

「我がマスターが決めることが出来るのは、生死を含めた全ての運です。プレイヤーは運をサイコロのようなものを使って、決めます。因みに、どこのステージに移動するかは私に決定権があるますね。」

いたずらっ子みたいな顔をしている。俺は顔を下げた。そうか...、「運」ね。今まで神社や寺を真面目に参拝しなかったのを今更後悔してしまう。その後は無言が続いたが、無事家に着いた。家は近くで見てもあまり大きいものではない、青い屋根の家であった。周りに人が住んでいる気配はない。そう言えば、ここの家からもあまり音がしない。しかし、緊張してしまうな...、他人の家のドアを叩くなんて何年振りなんだ。おどおどしている俺をとなりにそいつは勝手にドアを叩きやがった。なんてやつだ。そいつを睨む。こいつ本当に心が読めてんのか、いや読めているからこそやったのか?しばらく経っても誰も出てこない。もう一度、ドアを叩く。物音すらしない。

「鍵がかかってないですよ。入りましょう。ね?入るべきですよ。」

そいつは嬉々としていた。しかし、妙な胸騒ぎがする。こういう時は大体中で殺人がおきていて...。そいつは冷たい目で俺を見つめてくる。あなたはアニメの見過ぎだ、と言わんばかりに。

ドアをゆっくり開ける。暗い部屋に光が差し込む。やっぱり、人の気配は全くしない。家の中へと足を進める。すると、いきなりバサッと窓を覆っていたカーテンが開いた。光に目を奪われていると、窓の方から人が走りこんできて、腹に突きを入れられた。痛みに耐えかねて体制を崩した。腹に手を当てながら、上の方を見上げる。そこにいたのは俗に言う、ケモミミ美少女であった。全体的に白い服を着て、髪の毛は白に近い銀色。腹に突きを入られなかったら、拝めただけでもここに来たかいがあったと思う。彼女は俺の顎をグイッとと上げて、こう言い放った。

「お前は...人間か?ここに来るべきじゃない、ステージを間違えたな。」

顎から手を離す。彼女は窓の方に歩いて行く。そして、深刻そうな顔をする。

「不味いな、国王の使いが来てる。お前!」

「はい!」

ついつい気を付けをしてしまう。そんな気迫を彼女からは感じられる。

「ここから逃げる必要があるな。お前ここは始めてだろ?聞きたいことはいくらでもあるだろうが、まずは言うことを聞いてくれ。」

最後の方は彼女の優しさを感じられるような言葉だった。ふとそいつの方に目を向ける。そいつは興味がないかのように、そこら辺の小物を触っている。そいつを睨む。視線を感じたのか、俺を見て笑った。

「結局は運ですから。」

俺の目の前に小さめナイフが投げられた。

「最悪、自分の身は自分で守れ。そのナイフだったら大したものは切られないだろうがね。」

「ありがとうございます。」

深々と礼をした。しかし、この人なぜ助けてくれるのだろうか。

「貴方の運が良かったんじゃないですかね。」

そいつが他人事のように言ってきた。彼女がこちらに歩いてきた。

「運の悪いことにここは砂漠だ。周りに砂しかない。しかしまぁ、古典的な逃げ方でいこう。こういう時のために、床の下に逃げ道を作っといた。」

彼女が手で床を押すと、床の下に続く階段が出てきた。

「まだ名前を伝えてなかったな。私の名前はリリカ。さっきは殴ってすまなかった。」

リリカが手を差し出す。その手を握り返した。

「正直痛かったけど気にしてないよ。俺の名前は緑寺だ。」

あぁ、こんなかわいい子と話すことができたなんて、あいつもたまには役に立つな。そいつに向かって、ウインクする。そいつもウインクし返してきた。

「運が良かったですね。」

「そう言えば急いでいたな、緑寺。全く使っていない通路だから何が起こるかわからない。足元に気をつけてくれよ。」

ランプを取り出し、彼女を先頭に歩いて行く。階段を滑るというハプニングは残念ながらなかった。そいつは笑いながら、

「運が悪かったですね。」

と。こいつ笑ってることしかないな。

「それはそうですね。この後がどんな展開を迎えるかがおおよそ分かっちゃっているので、楽しくて仕方ありません。」

「どんな展開かは教えてくれないのか?」

「それは無理ですね。わかってて楽しいですかね。」

ブーメラン刺さってるぞ、と思う。一歩先を移動していたリリカが足を止めて、こちらを振り返った。

「お前は誰と話しているんだ?」

自分の顔が固まる。

「え?」

そいつがすかさず、

「私が見えている人は我がマスターかマスターが選んだ人のみです。まぁ、例外はあります。」

んじゃ、どうするんだよ。

「今は独り言ということにしといてください。」

リリカは顔を傾けたままであった。

「あぁ、独り言だよ。俺が元いた場所じゃ普通だったよ。」

苦笑しながら、髪をかきむしる。リリカが顔を曇らせる。

「この、嘘つき...」

そして、彼女は走り始めた。小声で言ったため俺には全く聞こえなかったが、雰囲気でわかる。何かしら不味いこと言ってしまったのだろう。

「運が悪いですね。」

「これ、追いかけるべきだよね。」

苦笑いしかできない。暗い道をいくら走っても彼女は見つからなかった。また一人か...。元の世界では孤独は普通だった。しかし、取り残されて行くことは過去のトラウマを思い出しそうで、恐怖と不安に沈み込む。肩を落として歩いていると、前方が眩しく光った。と、思った瞬間、あぁ、まただ。幻想か?彼女の顔が光の元に見えた。俺の名前を叫んでいる?...。視界がだんだんぼやけていき、目を閉じた。次のステージこそはましな世界がいい。

目が覚めて、飛び起きる。周囲を見回すが、そこは何にもなかった。本当に何もないのである。虚無。地面は概念的にはあるが、実物を伴っていない。どこまでも続いていく壁。俺は直感的に宇宙みたいだなと思った。

「宇宙という表現は一部あってますね。わからないと思いますが、この空間はどこにでも繋がっていて、どこにでも存在しません。」

今度は驚かなかったか、小声でそいつは言った。流石に二度目、同じ手には乗らない。

「そういいつつ、何度も死んでいますけどね。」

またいつものニヤケ顔である。

「何度もって言っても、まだ3回目ぐらいだわ!しかし、なんのためにこんな場所に連れてこられたんだ?」

「前にも移動先は私が決める権利があるといいましたよね?一度は訪れるべきだと思いましてね、天国に。」

そいつの言葉に驚く。こんなところが天国?楽園のらの字も感じさせない何にもなさ。そいつのある言葉を思い出して、顔が真っ青になる。

「お前、確か天国と地獄はセーブ縛りって言ってなかったっけ、どうするんだよ!リリカの元に戻れないじゃないか!」

相変わらず、そいつは笑ってる。

「貴方は運が良いですから。リリカという彼女に感謝すべきですね。」

すると、突然ノイズ音が聞こえてきた。

「おっ、始まってきましたね。」

だんだんと地面に亀裂が走って行く。なんなんだこれ!そして、遂に俺は亀裂の中に落ちてった。うわわわわ!一つの点に向かって、吸い込まれて行く。圧がすごい。ブラックホールに吸い込まれているみたいだ。やはり、待つものは死か。いつの間にか気を失った。

何度目のこの目覚めだろう。いつもと決定的に違う事が一つある。それは、あの彼女に、リリカに膝枕されているということだ。恥ずかしくなって、思いっきり起き上がると、リリカの額とぶつかってしまった。痛い...。

「リリカさん、大丈夫ですか?」

リリカは目に涙を一杯蓄えていた。

「良かった...良かった...また、人を殺すことになってしまっていた。生き返って、本当に良かった。」

リリカはそれから長い間、泣き続けていた。何があったかを聞き出すのはかわいそうだ。だから、何か知ってそうな、そいつに聞くことにした。やはり、そいつは笑っているばかりだ。

「一体何があったかわかってるんでしょ?」

「はい、しかし、やっぱり貴方は運がいいですね。ほんの一握りしかいない、蘇生術を使える人が側にいたなんて。」

そいつからの話をまとめるとこうだ。このステージでは多くの人が魔法を使えるそうだ。中でも最高級魔法の蘇生術を使えるのが、リリカらしい。蘇生術、といっても最高級魔法師でも成功する確率は低く、魔法をかける側が死ぬこともそこまで多くない。

「運がいいですね。」

また、ニッコリとしている。魔法か...なんて非日常的なんだ。嫌でもワクワクしてしまう。しかし、なんでここまで危険な魔法を使ったのだろうか。

「なんで危険な...」

そいつが手で自分を制した。そいつは顔を近づけてこういった。

「彼女は間違って、爆炎の魔法を貴方に打ち込んでしまったのです。後ろから走ってくる人を敵だと思ったらしいですよ。運が悪かったですね。」

リリカの方を見る。まだ泣いている。どうしよう、故意ではないが一度自分を殺した相手だ、なんて話しかければいいのか。心にわだかまりを残しながら、俺は出口の方へと足を進めていく。

「待って!」

足を止めて後ろを振り返る。

「やっぱり怒ってるよね。」

俺は足を揃えて、きちんとリリカの方を向いた。

「そんなわけないだろう。」

俺はなるべく笑った。しかし、薄暗い通路の中ではそれが伝わらなかった。

「嘘よ...だって私を置いていこうとしている。」

「俺はまだ、お前と一緒に行くとは言っていないが。」

沈黙が訪れる。沈黙は嫌いだ...。俺はリリカの方に足を進めて行く。リリカの方に手をさしのばして、めいいっぱい笑った。

「でも、もしいいって言うな一緒に冒険をしてみないか。...その」

今度は俺の笑顔は伝わったらしい。リリカはホッとしたという顔をしたが、すぐに泣き始める。

「いい雰囲気ですね。」

馬鹿野郎。しかし、異世界にいって幸せなエンドを迎えるのも悪くない...。

「妄想にふけってないで、先に進みませんか?」

そいつのふてくされた顔だ。

「んじゃ、リリカさん改めてよろしく。」

「はい!」

彼女はいつの間にか泣き止んでいた。最高の笑顔だと思った。再び前を向き、歩き始める。出口の光がさっきよりも明るいように感じる。また一歩ずつ足を進めていく。


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