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真実の色  作者: エビチリ
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第1話 怠惰な日々と謎の男

非日常的な日々は唐突に訪れる。そもそも日常ってなんだ、と俺は思う。今考えるとなんで神様は俺をつまらない日常の世界に取り残したままであったのだろうか。

アラームの音が部屋中に鳴り響く。これが何度目なのだろうかと考えながら布団からのそのそとでていく。夏の日差しが眩しい。

部屋の扉を開け階段を降りていった。

「おはよう」

誰の返事もこない。あぁ、俺はまたこの現実から目を背けているのだなと。頭の中では家族は誰もいないというのは理解しているはずなのだが、心の中ではどこかで否定する気持ちがあるのだ。平日の朝、何もしないで過ごすという優越感に浸る。少し前までは学校に行っていたが、教師が生徒よりも常に上の立場から指示しているというのに耐えかねて、休んでる。そこら辺にいる不登校と同じかそれ以下か...、そんなこと考えてもなんにも始まらないが、優劣をつけたがるのが俺らしい。

最近じゃ外に出るのも嫌になってきた。俺ぐらいの歳の人が平日に彷徨いてるのは、大人にとってはあんまりよろしくないようだ。俺にとにかく話しかけてくる。それがはっきり言って鬱陶しい。

こんなつまらない日常の世界が終わればいいのに、ネットニュースを見ながら居間で寝っ転がって思ってた。魔法少女のコスプレがかわいい..

「魔法少女か..」

僕と契約して魔法少女になってよ!

ふと、こんなことを頭の中で考えてた。こんな事が起きないかな、とか思っていた。すぐ現実に戻されて、にやけていた自分がキモいと思った。スマホを投げようとした手を止め...救いようのない虚しさが俺を襲う。

「うおぉおぉぉぉおおぉ、なんで俺はこんなにも日常の世界に置いてかれたんだよぉ!」

かぶる布団が欲しい。スマホの通知音が誰もいない部屋に鳴り響く。メールなんて...どうせ迷惑メールだろうな、見る価値なんてない。

ハッと目を覚ます。ウトウトしててそのまま寝てしまったんだなと、時計を見たが午後の1時か。暑さと汗の不快感で起きたのだろう。昼寝というより二度寝か。二度寝は時間を無駄に過ごした感じがしてどうも嫌いだ。

「朝ごはんなんにも食べられなかったな...」

どうせやることがないんだ軽い昼飯でも食べて昼寝でもしよう。窓を開ける。今日は思ったよりも風が気持ちいいな、なんだかいつもよりましな日になる気がした。昼飯は...冷蔵庫を開けたがパンが何個か。まぁパンでいいか。それよりも早く済ましてしまおう。食べながら今後のことについて考えていた。このまま親が残した金とおばさんの助けで生きていくのだろうか。いや、そんなのは出来ないというより、自分の妙な自尊心がそれを拒むだろう。だとしてもどうすればいいか...。

ピンポーン。今日は珍しい日だ。ピンポーン。ピンポーン。...何回もチャイムの音が鳴る。うるさい。出ろということか。

「なんですか。」

めいいっぱいに迷惑そうな顔をしながら、玄関のドアを開いた。

しかし...すぐドアを閉じた。自分が見た物を信じられなかったのだ。あれは人間か?人間のような形はしているが、10頭身はゆうに超える身長、白過ぎるほどの肌。目はギラギラとひらき、何か企んでるような。絶対関わってはいけない存在だ。あぁ、今日は全然ましな日なんてならない。

「あの、怪しいものじゃないんですけど、開けてもらえませんかね。」

ドア越しにそいつは話してきた。見るからに怪しいヤツが怪しくないと言われても困る。ただでさえ、人と会いたくなかったのに。

「困りましたね...。あの、メール見てませんか?」

メール?もしかして...。スマホを慌てて開く。やっぱり、この迷惑メールか。「非日常的な日々に憧れないか?」憧れていないと言えば嘘である。しかし、こんな奴に憧れるか?と聞かれて「はい」、なんて答えたら何をされるかなんて分からない。それに、なんだこの人は他人のメールアドレスと住所を知ってて。怪しいというより怖い。もうお前の存在が非日常的だ。

「お話だけでもしてくれませんか?」

しつこい人だな、ほんと。キッパリと断っとこうか、いや、話しすらしたくない。

「仕方ないですね。」

声がしなくなった。やっと帰ってくれたか...。自分の部屋に戻ろうと足を進める。

「いやぁ、話ぐらいしても損にはならないと思うけど」

「うわぁあ!」

その人間に似たものは下半身が廊下に...埋まってるのか?見間違いか?いやもう、どうにでもなれという気持ちが出てきた。

「...それで話ってなんだよ。」

そいつはニヤリと笑った。あぁ...やってしまった。勝手にそいつは喋り始めた。

「確かめますが...」

「ちょ、ちょっと。おまえは何者なんだ?」

慌てて聞く。相手が何者か知らないのに話なんて出来たものじゃない。しかし、予想外の返事が返ってきた。

「私は貴方が誰か知りません。なので貴方は私の存在を知る権利もなく、教える必要も無いと思いますが?」

そいつはまたさっきと同じようにニヤリと笑った。なんだよ、それ...

「んじゃ、なんで住所らメールアドレスを知ってるんだよ、おかしいだろ。」

そいつが一気に顔を近づけてきた。迫力があるな。

「それは秘密です。秘密というか言っても信じないと思いますよ。」

お前の存在自体信じられないものだ。その説明は妙に納得してしまう。あぁ、ほんとについて無い日だ。

「確かめますがあなたは世界から見捨てられたなんていう無駄な自己嫌悪に陥ってますよね?」

無駄だ...と?あぁ、こいつは何も分かってないのか。怒りがこみ上げてくる。そいつは俺が怒ってるのを分かったように笑みを強めていく。

「自覚してたんですね、なら話が早い...」

あぁ、もうこいつの話なんて聞きたくない。耳を塞ぐ、下を向く。目を強く瞑る。十分程度が過ぎた。目を開けてみたらそいつの笑った顔が目の前にあった。

「どうしたんですか?」

逃げてるなんて思われるんだろう。話を聞きたくなかったなんて思われたくもない。

「ご理解出来ましたか?」

話を聞いてないんだから理解も糞もない。そいつは顔を見上げ顎を触ってた。困りましたね...と小声で呟いてた。

「んじゃ実際にやってみますか?」

やっぱり、何から何まで理解できない。そいつは相変わらず笑ったままであった。しかし、今までこの日常を楽しいと思ってたことはなかった。この非日常的な存在に委ねてもいいのではと思う気持ちが芽生えてきた。自分でも不思議だと思う。そいつは満足気な顔をした。

「それでは失礼します。」

一瞬、全身に激痛が走る。そのまま廊下に倒れこんでいった。意識が遠のいていく...あれ、何だろうこれ...今まで感じたことのない...

とある夏の昼下がりのことであった。


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