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僕のリアルは鏡の中に  作者: 倉銀和弥
第一章『再会』
2/7

日常は突如として

 四月の始まり、つまり新学年の始まりだ。

 四月三日、今日から遡り四日ほど前に誰にも気づかれることなく――まあ、一部の友人らからはプレゼントを貰ったわけだが――天神影斗は十七歳の誕生日を迎えていた。

 高校二年生というのはとても大変な時期だ。三年生は受験で忙しいため、中堅学年とは名ばかりで、学校の柱を任されるという大事な学年である。だからといって彼がなにか特別なことをしないといけないというわけではない。しかし、新しく入ってくる一年生の手本ぐらいにはならないといけないのはもう義務というか常識だ。


 非常識の烙印を押されないようにするため、つまり遅刻を回避すべく影斗は今まさに自宅から学校への道のりを全力疾走していた。


「やーやー影っち、今日も精が出るね。まーた今日も寝坊かい?」


 いつの間に並ばれたのか、先日新しい目覚まし時計を誕生日プレゼントとしてくれた悪友の境田一也さかいだかずやが隣にいた。


「いや、笑うなよな。新しくもらった目覚まし時計の調子が悪いのか知らないですけど?全然時間通りに鳴らないんだよ。ほんとどうなってんの……って、おいまさかお前」


 一也のどこか楽しげな表情から、いたずらを成功させてやったといった類の感情を影斗は見出した。


「はっはー!や~っと気づいたなぁ?ちょーっとばっかし細工をさせてもらったのよ。俺の見立てでは昨日あたりに気づくってことで賭けてたんだけども、一日遅いぜ。」


「賭けってことは……わかった、夏目だろ。お前らのおもちゃにされるのも大変なんだよ。わかるか?わかったら賭け金全部俺によこしなさい。それに困ったのはお前らよりも俺の方だっつーの。そこんとこも正しく理解しとけよな。」


「はいはい、反省はしてませーん。ってことでお金も上げませーん、というか夏目っちも外してるから賭け自体成り立ってないんだなぁこれが。」


 反省の色は全くもって示すことを一也はしない。


「だからって許されるわけじゃないからな?…………とりあえず後で元の設定に戻す方法教えろよ。」


「まだ使ってくれるのかー?ありがたい限りだぜ。影っちのそういうとこ俺は好きだぜ。」


 「せっかくもらったものだから」という物と友人を大切にする影斗の根っこの優しさに対して恥ずかしげもなく言い放った一也の歯の浮くようなセリフにあてられた影斗はそれ以上はもう何も言わず黙って学校へと向かって走った。


 それから待っていたのは嵐だった。

 

「遅い!遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅ーーーーーーーーーーい!!!入学式に間に合わないってどういうことよ!!もう私たち二年生なの!わかってる!?ガチャンって急にドアが開いたかと思ったら馬鹿二人が真っ赤な顔して入口に立ってるじゃない!私が恥ずかしかったわよ!見た?あの一年生たちの顔、完っ全に引いてたわよあれ。」


 その馬鹿二人と同じぐらい顔を真っ赤にしてくどくどと説教をしている彼女は学級委員の春風吹雪はるかぜふぶきだ。(学年が変わったばかりだから実際はまだ決まっていないのだが彼女は必ずその地位を授かるだろう)


 結局二人は入学式開始には間に合わず、新一年生が一人一人名前を呼ばれている最中に体育館へと突入。結果として今日の主役はこの二人!と言わんばかりの印象を新一年生全員に刻むことに成功(?)した。 


 「吹雪、ね、もうその辺にしてあげましょうよ、ね。」


 と言って横からその様子をなだめているのは吹雪の姉の虹雪こゆきだ。二人は双子の姉妹だ。

影斗、一也、吹雪、虹雪、それに今日は何故か休みのようだが夏目莉音なつめりおんでよくつるんでいる。一種のグループだ。ちなみに誕生日プレゼントを影斗に上げたのもこのメンツである。


「お姉は黙ってて!毎回毎回大事な時に限って間に合わないなんて、狙ってるにも程があるわ!」


 教室に戻ってきてからというもの、いっこうに怒りが収まる気配が感じられない吹雪のいつもの説教をこれまたいつも通りに影斗と一也の二人は右から左へ聞き流していた。

 「大体ねぇ……」と新たに吹雪の口から文句が発せられそうになったとき、ちょうど教室の前の方のドアが開き、担任の秋月祭あきつきまつりが入ってきた。それに気づいたクラスメイトらは静かに自分の席へと戻っていった。

 まだまだ何かを言いたげだった吹雪も、仕方なくといった様子で席へと戻っていく。

 ようやく解放された影斗と一也も席へと戻っていった。が、


「天神と境田の馬鹿二人は、放課後、職員室に来るように。理由はわかってるだろ?急げよ。」


 女性にしては少し低めのハスキーボイスが二人の自由をよしとはしなかった。


 

 時は進み放課後。教室を出る際に、吹雪から「ざまーないわね!」と喜色に溢れた声をかけられた影斗と一也はため息混じりに「はいはい」と空返事だけ返して肩を落とした。

 今まで何度か遅刻はあったが放課後に呼び出されるのは二人共初めてのことだった。影斗は今更ながら、前回遅刻して注意を受けた際に「次は覚悟しな」といったセリフを祭から言われていたのを思い出してさらに足が重くなった気がした。

 

「すみませ~ん、秋月先生に呼ばれてきたんですけど、秋月先生はいらっしゃいますか?」


 影斗は職員室の入り口付近に座っていた先生に声をかけた。


「あぁ、君たちね。祭先生なら生徒指導室に行きましたよ。二人が来たら生徒指導室に来るように伝えてくださいと伝言を預かってます。しっかり搾られてきなさい。」


「「…………は~い。」」


 気力という気力が抜け切った返事をした二人は最初から生徒指導室に呼べばいいものを……と思いつつ足取り重く生徒指導室へと向かった。

 道すがらすれ違う人の蔑むような視線を受け(実際にはただ見られただけでどれにも他意はないのだが)たどり着いたそこのドアをコンコンと二度ノックした。


「開いてるぞ、入れ。」


「「失礼しま~す。」」


 相変わらず格好いい声に導かれ、影斗はやはり気の抜けたままドアを開けて教室へとはいった。続いて一也も中へと入った。

 中には椅子に足を組んで座っている祭がいた。目の前には長机が一つと、祭に対面するような形で椅子が二つ、用意されていた。

 祭の視線にうながされ椅子を引いて二人は座る。


「はぁ~毎度毎度お前らも飽きないな。それともなにか?私をおちょくってるのか?どうなんだ?ん?」


 ナイフを突きつけられているようなプレッシャーを受け、影斗はピッと姿勢を正し、なんとか口を開いて今日の遅刻の原因についての説明(言い訳)をした。

 ところどころ一也に茶々を入れられそうになったが、そこはなんとか目で牽制した。


「……つまり、天神はそこのアホがしたアホみたいなことのせいで、今回は遅刻をした、と。そういうことでいいんだな?」


 およそ教師が出すようなレベルの殺気では全くないものを祭は落ち着かせ影斗に確認を取った。それに対し影斗はこれでもかというほどに頭を縦に振った。

 そして祭の矛先は一也へと向かう。


「で、お前はなんだ?」


 再び放たれる殺気に気圧されながらも一也はなんとか答える。


「……ね、寝坊です。」


「よし、てめぇは歯を食いしばれ。」


「わー!ちょっと待ってください!なぜか死ぬ未来しか見えないですから!その握った拳を開いてくださーーい!!」


 必死に手を前に出して首をぶんぶんと横に振る一也の願いは聞き届けられないだろう、楽しい時間をありがとうアーメン。などと影斗は友人の確定した死を前に祈りを捧げてたが、予想に反して祭はすぐに怒りを静めた。

 あまりの意外さにポカンとなった二人はそのままに祭は元々座っていた椅子に座り直して、その真意を語りだした。


「本当はここで一発ぶち込んでやりたいとこだが……お前たちをわざわざ放課後に呼び出したのには説教以外の理由があるの。というか大事な放課後の時間をお前らみたいなのにく余裕は私にはないのよ。わかったら黙ってそのまま聞きなさい。」


 急に変わった、なにか大事な話があるのだ、という雰囲気を影斗と一也の二人は敏感に察知し、静かに頷いて祭の話に耳を傾けた。


「いい、落ち着いて聞きなさい。夏目莉音が今朝行方不明になったわ。」


 突如として伝えられたよく知っている人物のショッキングな情報は、影斗の頭の上をふわふわと回遊した。





 

 







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