プロローグ
夢は覚めるためにある。
良い夢も悪い夢もいつかは必ず覚めるものだ。どんなに幸せでも、楽しくても、悲しくても、明るくても、暗くても、笑っていても、涙が溢れていても、暑くても寒くても痛くても苦しくてもきつくても例え、死にそうだったとしても、現実に戻れば、夢から覚めれば、それらは全てがなかったことになる。そんな素晴らしいものだ。
だから、天神影斗はこう願う、
――――あぁこんな夢、早く覚めればいいのに、と。
影斗は容赦なく打ちつけてくる雨の中、目の前の光景から現実逃避をしていた。なぜ彼女とこんな形で再会をしなくてはならないのか、こんなのは悪い夢だ、いいからはやく夢から覚めろと心の中で舌打ちをして空を仰いだ。
するとすぐさま、隙ありとばかりに目の前に迫る大鎌を今日何度目かのバックステップでなんとか避けて、意識を強引に現実へと引き戻す。影斗の小さな命の灯火を一瞬で刈り取ろうとするそれを見るたびに思考は少しずつクリアになっていく。だが、どんなにクリアになろうともやめることのできない現実逃避はこの十分でもうすでに四回目だ。
「あっははははははははははははは!!!私はずっとこのままでもいいんだけどそれじゃつまんない。せっかくこうやって会えたんだから、ね?あなたの首は私が丁寧に切り取ってずっと飾っておくの。それが今の私の願いなんだからさっさと叶えさせて!!」
一体どうなっているのかわからないが少女はその華奢な体で自分の倍はあろうというその大鎌を難なく振り回しながら影斗に突進する。自らの身の危険を察知した影斗は先程よりもスムーズにそれを回避する。少しずつ動きを読まれているのが分かっているのか、少女の顔には焦りが見える。そしてより一層攻撃は激しさを増した。
これに当たるつもりも不安も影斗には全くない。しかし自分から手を出すことができない理由が影斗にはあった。なんでこんなことになってしまったのか。影斗が現実逃避を繰り返している理由でもあるそれは他人からしたらどうでも良くても、彼にとってはこの世で一番、自分の命よりも大切ことだ。
「どうしてだ!どうしてあんな奴らと一緒にいるんだ!」
打開策がいっこうに見つからないことにしびれを切らした影斗は降りしきる雨の中でも彼女にしっかり届くように叫んだ。
「どうしてって?そんなの決まってるよ。あの人達は私の知らないことをたくさん教えてくれるの。なんにもなくてどうしようもなかった私の願いを叶えてくれた。たった一つの私の大切な願いを。こうすればきっとうまくいくよって。…………あぁやっと……やっと私を見てくれた……。ずっと一緒にいたのに、ちっとも私の気持ちに気付いてくれなかったあのお兄ちゃんが……!!」
甘えるような艶っぽい声色で彼女――天神みらはそう言いながら自分の体を抱きしめた。
両親に捨てられ、祖父母も他界した影斗に残された最後の家族であり最愛の妹の熱い視線を受けながら影斗は今一度、どうしてこうなったのかと忌々しげに呟いて、唇を噛み締めた。




