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魔闘拳士

魔闘拳士 Vt.SP

作者: 八波草三郎

 焚き火がカイ達の顔をほのかに赤く照らしている。

 夕食後のまったりとしたひと時。こんな時間を彼らは大事にしていた。


 だが、この日は少し様相が変わる。それはカイのこの一言から始まった。

「僕の国には、一輪(1年)に一回だけ、女の子がモノリコートを男の子に送って恋心を伝える日が有るんだよ」

「へぇ、なかなか粋な習慣じゃない?」

「でしょ?この日が近くなると女の子たちはその準備に心躍らせるし、男の子は貰えるかどうかそわそわし始めるんだ」

「面白そうですね。フィノもそれに参加してみたかったです」

「楽しそうでしょ?まあ、中にはモノリコートが欲しいが為にこの日に合わせて告白する男の子も居たりするんだけどね」

「え?女の子から告白する日じゃ無いんですか?」

「そうだよ。でも男の子にしてみれば、自分の矜持を保つには絶好の日だったりするんだ。貰ったモノリコートの数が男の価値を決めるみたいにね。だから一個も貰えないと酷く落ち込んだりもする。それが嫌だからせめて一個は貰えるように告白するんだ」

「本末転倒ね」

「男の子にしてみれば、そんな事が死活問題だって思ったりしちゃうんだよ。平和の証明だね」

「そうね」


 ここまで聞いたチャムは悪戯っぽくカイの顔を覗き込む。

「そんな事を言い出したって事は、あなたの国の暦で、その日が近いって意味?」

「バレるよね。実は今陽(きょう)だったり」

「だと思ったわ。でもね、あげたくてもモノリコートはあなたしか作れないじゃない?」

「フィノにも作れるかもしれないけど、手作業じゃあれは大変過ぎますぅ」

「うん、それはもう仕方ないから、僕から逆にプレゼント」

 ストックのモノリコートを数枚取り出した彼は、それを彼女らに分ける。

「好きな時に食べればいいよ」

「そう、ありがとう」

「嬉しいです。フィノ、モノリコート大好きです。あ、カイさんも好きです」

 一人だけギクッとする素振りが見える。

「取って付けた様に言われてもね。まあ、ありがとうね」


 チャムはモノリコートを取り出してひと欠片折り取ると「仕方ないわね」と言ってカイに差し出した。

「はい、あーん」

「いいの!?やった!」

 何かやらされている感は否めないが、カイも馬鹿な男子の一員だったと思って期待に応えてあげる。

 その結果に心から嬉しそうな笑顔が帰ってくればチャムも悪い気はしない。

「じゃあ、フィノもあげます!あーん」

「うん、甘くて美味しい。ありがとう、フィノ」

「どういたしましてですぅ」


 こうなると身じろぎが止まらなくなる男が一人。わざとらしい咳払いまで混じる。

「あら、トゥリオ。あんたも欲しいの?」

「いや、別にそんな訳じゃねえんだが…」

「ですよね?トゥリオさんは甘い物あまり好きじゃないですし」

「そ、そんな事ねえぞ。それって心遣いの問題だろ?」

「でも、社交辞令でモノリコート貰ってもつまらないってトゥリオは思ってんじゃない?」

(何言いやがる、この野郎!)

 彼の内心は穏やかじゃない。


「欲しいなら欲しいって言えば?」

 カイが顔を逸らしながらニヤニヤしているのを見て、悪乗りに乗っかるべく動き出すチャム。 

「だから欲しいって訳じゃねえが、心遣いなら受けても良いなって…」

「あらそう、仕方ないわね」

 チャムはもうひと欠片折り取るとトゥリオに差し出そうとするが、躊躇う素振りを見せる。

「何か恥ずかしくなってきちゃったわ。目を瞑って口を開けなさい」

「なんだそれ?まあ構わねえが」

 無事に口の中に押し込まれたモノリコートを感じる。何となく男の子の矜持の話をしたカイの気持ちが解った気がする。


「ほら、フィノも」

 いよいよ待っていた瞬間が近付く。

(恥ずかしいですぅ)

(良いから早くやってあげなさいって)

 小声で急かすチャム。ナイスフォローだ、と彼は思い、口を大きく開ける。

 だが、なかなかモノリコートはやって来ない。トゥリオの頭の中には照れつつおずおずとモノリコートを差し出しているフィノの姿しかない。

 落ち着かなくなる。もしかして彼女は何か期待しているのか?優しく抱きとめたほうが良いのか?色々と頭をよぎる。

(ほら、こうやってモノリコートを咥えて…)

(それはちょっと恥ずかし過ぎますぅ)

(なん…だと!?)とトゥリオは驚く。まさかフィノがそんな大胆な事までしてくれるとは!

 少しずつトゥリオの唇が尖っていく。フィノが思い切ってくれるのなら自分も男らしく受け入れねば!

 ここでトゥリオの心を迷いが襲う。フィノのその顔を見たい。だがそんな事したらフィノは恥ずかしがって止めてしまうかも?でも我慢出来ない。

 トゥリオはそっと薄目を開けて、期待した光景を窺う。


 だが、そこにはモノリコートを差し出すカイの手しかなかった。


「うがー!何やってんだ、手前ぇー!」

「えー、せっかく気持ち悪いの我慢してたのに!」

「うるせえ!この野郎!」

 チャムがゲラゲラと笑い転げる中、深夜の追いかけっこが始まった。


 今陽(きょう)も彼らは平和である。

お遊びで思いついて書いたんですけど、千文字くらいのつもりが二千文字(笑)。本編はシリアス真っ最中なので楽しみいただけたら、と。そう言えば初めて書いたかも、ラブコメっぽいの。

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