子育て
おかあさん、ごめんなさい…
でもわたしは、いいこになんてなれないよ…
どうしてあの時気づいてあげられなかったのか。どうしてあの子をここまで追い詰めてしまったのか…
今更悔やんでも、もうあの頃には戻れない。
------------
私、杉村友里は結婚した2年後、24のときに娘・愛理を出産した。夫の俊雄は転勤により、単身赴任。両方の実家と訳あって縁を切り離れたところで家を建てて愛理と二人きりで暮らしていた。
初めての育児。兄弟は兄だけで、小さい子を世話した経験もなかった。俊雄は5つ上なので、単身赴任するまではなんでも世話をしてもらっていた。誰かの面倒を見るなんて、そんばこと冗談だと思っていた。だってみんなが私の世話をすることが、当たり前だったのだから。
低い偏差値の高校に進学してギャルとなり遊び歩いていた私が子育てをしているなんて。愛理が5歳になった今でも信じられない。
「おかあさん、ごはん、ごはん!」
エプロンをひっぱり愛理はきらきらした目でこちらを見ている。
「もうちょっと待ってねー」
私がそう言うと、不満だったらしく、
「やーだ、ごはん、たべる!」
と暴れている。
その声を聞くうちにいらいらしてきた。
まずい。怒鳴ってはいけない。落ち着かなければ。
「ごはんごはんーー!!おかあさんのばかー!」
「ばかって何よ!頑張って作ってるのに!うるさいからあっちでいい子にしてなさい!」
あっ。
やってしまった。
「う、うえええん… ごめんなさい…」
「ご、ごめん愛理…つい…」
「いい子にしてるから、怒らないで、おかあさん…」
ああ。この子はいつもこんな目をする。
いつも私の機嫌を伺うような、暗くて悲しい目。
保育園がいっぱいで入れず友達がいない愛理にとって、私は絶対の存在に写っているのだろう。その私に怒鳴られたのだから、こんな目になってしまう。私がこうさせてしまった。
愛理はリビングを出て二階に登り、寝室に入っていった。いつものように布団にくるまって泣くのだろう。愛理が考える「いい子」は、それなのだ。
追いかけて抱きしめようかとも思ったが、すぐにその必要はないと思った。しばらくしたら何事もないように降りてきてすっかり元気になるのだから。本当に、手のかからないいい子に育ってくれた。