想定外の連続6
「これから先、血液検査以外にもいくつか身体検査を行うと思うが、それを全て終えた結果に何の異常も確認できなければ、すぐに普段の生活に戻っていい。だから、それまで辛抱してくれ」
塔野さんはそう言って採血室に入っていった。
普段通りの生活か……大学に入ってからの私の普段の生活なんて、家でゲームしてるか動画見てるだけだから、別に戻らなくたって……。あれ、何で私、こんなこと考えてるんだろう……?
「やあ、志穂ちゃん。暇してるかい? 中央採血室ならそんなに待つ必要ないんだけど、秘匿性を考えるとあそこはまずいからさ。そんなに時間は掛からないと思うから我慢してよ」
「あれ? 高堂さん。上で待ってるんじゃなかったんですか?」
「そのつもりだったんだけど、気が変わってね。塔野くんがいない間、志穂ちゃんと少しお話ししてみようかなって思ったのさ」
「は、はあ。私にですか? 私は塔野さんほど、昨日起きたことをよく解ってないんですけど……」
「ああ、そのことじゃなくてさ〜。僕は正直、そのことには全く興味がないんだよね。本当だったら医学的にもとんでもない大事件だろうけど、僕はぶっちゃけ医学そのものに興味がないからね」
え? 医学に興味ないって、この人って本当にお医者さんなの……?
「それより、僕の関心は君にある。塔野くんについてどう思ってる? まあ、塔野くんとは昨日会ったばっかりだから、あんまりわかってるわけじゃないと思うけど、今の所の印象ってどう?」
「なんというか……ものすごく真面目で気遣いができる人ですよね」
「えっ……!? 確かに真面目ではあるけどさ……まだ会ったばかりだから遠慮してるか……案外、志穂ちゃんのことが気になってるのかもね~」
私から見た塔野さんの印象を言ったら、高堂さんは物凄く驚いてた。塔野さんが昨日の超常現象のことを説明してた時よりも。というか私も驚いてたかも
「え、私のことを……塔野さんが?」
「おや? 志穂ちゃんの方が塔野くんのこと気になってたか〜。これは気付かなかった〜」
「い、いや……違いま……」
確かに塔野さんのことはちょっと気になってるけど、会ったばかりの塔野さんのことを簡単に好きだって言い切るのはちょっと……。
「まあ、まだ本気で塔野くんのことが好きってわけじゃないんだろうけど、塔野くんについて知りたいことがあれば何でも聞いていいよ。志穂ちゃんのことは応援してるから。塔野くんに彼女ができるチャンスがあるとすれば、君だけかもしれないからね。いつか、その気になってくれることを祈るよ」
「は、はあ……ありがとうございます……」
うわ、凄い……。高堂さんは、私がどのくらい塔野さんのことを好きかってことまで、ちゃんと理解してる……。さっき会ったばっかりなのに……。
「はい、これ僕の連絡先。検査の結果とか、塔野くんについてとか、聞きたいことがあったら連絡していいよ」
高堂さんが名刺を差し出してきた。……本当にこの病院の院長なんだな~。
「あと少ししたら志穂ちゃんの番が回ってくるよ。注射は苦手かい?」
「はい。ちょっと怖いです」
「僕も苦手だね。注射する方がだけど。まあ、頑張って」
高堂さんはそんな励ましてるのか、おちょくってるのか、よくわからない話をして階段を上って行った。




