想定外の連続
俺は今、これから向かう病院の最寄り駅近辺のファミレスでハンバーグを喰っている。萱間志穂との待ち合わせの時刻より大分早く来てしまったので、そのまま食事を摂ることにしたのだ。
今日は普段より格段に腹が減っている。朝食の量は確かに少なかったが、この空腹感はそれだけの理由では片付け難い。萱間志穂が昨日の夕食を摂り忘れたか、或いは……まあ、萱間志穂が到着した際に聞けばいいだけだ。
それより問題は俺逹の身体が元に戻った理由だ。こちらとしては問題が解決して都合がいいが、俺達の体を入れ替えた相手側には何の利益がある? いや、利益を得る為ではなく、損害を回避する為だと考えると一つ思い当たる節がある。
血液検査だ。今日の血液検査によって、俺達の体を入れ替えた何らかの証拠が見つかるのを恐れた相手側は、事が公になる前に元の状態に戻したと考えれば一応は筋が通る。だが相変わらず、血液検査をされた程度で看破されるような手術を一般人に施した意味が分からない。それとも、俺達の血液検査への決断が相手側にとって予想外に早かったせいで、相手側が手術中の輸血に使った人間のDNAが検出される懸念が発生したのか?
……おっと、まだ脳移植と決めつけてかかるにはまだ早い。脳移植が正しいかどうかは萱間志穂が持ってくるパソコンを見てから判断するべきだな。
ちょうどそんなこを考えている時に、駅の北口の階段から降りてくる萱間志穂の姿が見えた。
ファミレスの窓越しから見る萱間志穂はキョロキョロと周囲を見渡している。おそらく、この待ち合わせ場所が見付からないのだろう。メールで指示を送り、ここまで導くとした。
こちらがメールを二通ほど送ったところでこの場所に気付いたのだろう、窓越しに目が合った。萱間志穂はそのまま直ぐにこのファミレスに辿り着いたが、店員に俺の連れであることを説明するのにやけに手間取ってから俺の座っている席に来た。
「思ったよりも早く本来の姿で相対することになったな。萱間志穂さん」
「あ、はい。こんにちは、塔野さん」
「さて、これから病院に行くわけだが、その前にパソコンと、メールには書いてなかったがSDカードも持ってきたか?」
「はい。ちゃんとSDカードも持ってきましたよ」
「よし、上出来だ。今から監視カメラの映像を確認する」
実は昨日の夜、萱間志穂の部屋と俺の部屋に、監視カメラを仕掛けておいたのだ。本来は入れ替わった身体の就寝時の様子を観察するために仕掛けたものなのだが、まさか身体が入れ替わる決定的瞬間を撮影できるとはな。