今後の方針
「この仮説が正しいものであるとした場合、原因として考えられるものの全てが都市伝説レベルの胡散臭い物になる。その中でも最も現実的なものを紹介すると、『高度な医療技術を持った何者かが脳の移植手術によって、俺たちの脳やその他の臓器を入れ替えた』というものだ。 しかし、最も現実的なこの仮説でさえ、かなり非現実的なものだ。非現実的な理由は、まず当然ながら、他人の脳を丸ごと別の人間に移植する術式は公的には存在しないので、術式はその何者かの独自の物であるのは間違いない。俺達の頭に手術痕が一切ないことや、手術中の生命維持や、拒否反応や、手術の準備のためにこの部屋か君の部屋に俺たちを移動させ、麻酔を使用せずに手術を行い、現場に一切の痕跡を残さないための事後処理を施し、俺か君を元の部屋に戻すまでの一連の行動を、俺が眠ってから……ところで君は昨日何時に寝た?」
「えーと、二時です……」
「……君が眠ってから俺が起きるまでの五時間以内にやらなければいけないということなどを何者かの独自の方法ならば問題ないということにして強引に解決してもまだ謎が残る。それは、こんなわけのわからないことをした目的だ。何故、塔野誠一と萱間志穂なのか? 俺か君のどちらか一方でも相手の素性を知っているのであれば、メリットはあるだろうが、俺達は今日まで顔も名前も知らなかった赤の他人だ。赤の他人の身分を利用して何かをするとしても、勝手に動かれないように片方の肉体を拘束しておくはずだ。だが、現状はこのように自由に動けている。入れ替えられた者同士の接触まで可能だ。これでは入れ替わった意味がない。このことから、俺は君のことは味方であると考えている」
「あ、どうも、ありがとうございます」
なんだかよくわからないけどこれは、塔野さんにも今の状況はよくわからないけど、一応私のことは信用してくれてるってことみたい。
「いや、礼はいい。入れ替えられた人間の行動の観察も含めた実験研究が目的というのも考えられるが、今のところ、監視されている気配が感じられないし、監視カメラや盗聴機の類も見つからない。研究にしてはやる気が無さすぎる。よって結論はわけがわからない、以上でこの説は終わりだ。ちなみに他の説は得心が行ったが、宇宙人や異次元空間が出てくる。話していいか?」
「い、いいえ。結構です」
多分聞いても、理解できないと思うし。
「そうだろうな。まあ、実際に何が起きたかはこれから探っていくとして、何をすべきかを話し合おう」




