神と死者と死後の考察
「――い、おーい、起きろ人間」
「……っ……なに……」
「お、起きたか人間。いつまでも寝てんじゃねぇよクズ」
「な……なんですか、あなたは……どこなんですかここは」
「どこだっていいだろ、ここはどこでもねえよ。少なくともお前らみたいな下等生物が理解できるとこじゃねぇ」
「何を言ってるんだあなたは……ここはどこだ、答えろ。こんなことをして許されると思ってるのか」
「あーあー、いちいちうるせえな。人間にわかるように説明すりゃ、死後の世界だ」
「……死後、だって?」
「そうだよ。いちいち聞くな一回で理解しろクズが」
「どうして……俺が、死んだだって?どうして!」
「知るか。とにかくおまえは死んだ、それだけだ」
「そんな……それならあなたは、……神、なのか?」
「はっ、出たな下等生物お決まりの『神』!おまえらは何もわかっちゃいない。なんにもだ。わかったふりをしてるだけだ」
「それなら、おまえは神ではないのか」
「おまえらには理解できない、すべてを持った存在という意味なら、そうだ。本来ならばおまえは俺の姿を認識することすらできない。俺がおまえの次元に降りてきてやってるんだ。だからこうしておまえは俺が見えるし、図々しくも人間の分際で俺と話すことだってできる。感謝しろ」
「……神。あなたが、神」
「どうせおまえの認識はそこから先に進むことはできない。だがおまえたち人間は根本的に間違っている」
「間違ってる?」
「ああ。だが間違っているということさえおまえたちにはわからないだろうな」
「……おまえが神なら、俺は、これからどうなるんだ。教えてくれ、天国か、地獄か。どっちに行くんだ」
「天国も地獄も、おまえらの勝手な妄想だ。死後の救いなんざありはしない。絶望もだ。おまえらの求めるものなんざ何もない。死んだらそれで終わりだ。おまえたちが死から勝手に目を背けるから天国だの地獄だのくだらないことを言い始めるんだ」
「それなら、おまえは、どうしてここにいるんだ。俺は……死んだ、のだろう?迎えに来たんじゃないのか」
「なんで俺が貴様みたいな下等生物をわざわざ迎えに行かなきゃいけないんだ?思い上がりもいい加減にしろよクズが。俺はただきまぐれに来ただけだ」
「きまぐれ?」
「ああそうだ。一日に何人も何人も死にやがっておまえらは。そのうちの一人を適当に選んで、俺はこの世界の真実を教えてやってるんだ。暇つぶしにな」
「真実、だって?この世界の真実?」
「ああ。おまえら人間は神を完全だと思っている。そこまではいい。だが俺を善だと考えているだろう。完全、イコール、善だと。俺はおまえらに――虫唾が走るんだ。だから教えてやろうと思ってな、本当のことを」
「な……」
「神は善だと、誰が決めた?おまえらクズが決めたんだろ?よくもまあ都合よく俺を『創った』な。よくやるぜ、自分たちに知覚できないものを一から作り上げて信じ切ってんだから。自分たちの欲望には忠実だもんなおまえらは。自分たちの願いを叶えるように、死後に幸福をもたらすように、全知全能の『神』を創ったんだおまえたちは。空想の中に、完全に、な」
「それなら、おまえは悪だというのか」
「善でも悪でもあるよ、俺は。だって俺は神なんだから。俺が俺を善だと言えば善だし、俺が悪だと言えば悪だ。何故なら俺は完全だから。完全だから善だというのは矛盾していると思わないか?完全なのに悪でないとしたら、それは悪が欠けているということだろう?それは不完全だ」
「そんなの間違ってる!」
「ほう、何が間違ってるんだ?俺は完全なんだろう?」
「……でも……でも」
「所詮おまえらは弱い。クズだ。だから俺に頼らざるを得ない。無神論者だろうが敬虔な信者だろうが、俺の存在を意識して生きることに変わりはないんだ。俺という存在がなければ、貴様らは生きることさえできない」
「そんな……そんなことがあっていいはずがないだろう!俺は……俺だけじゃない。俺たち人間はあなたを、神を、善だと信じているのに!どうして裏切るんだ!」
「だから言ったろう、おまえたちは根本的に間違っていると。裏切ってなどいない。最初から俺は善ではない。正確に言えば、貴様らにとって善ではない。ただそれだけだ」
「それなら俺たちは、何を信じればよかったんだ」
「知るか。おまえら人間は、自分たちにとって必要なものを信じただけだ。おまえたちは弱い。何かに縋らないで生きていくことはできない。だから俺を、神を必要とする。絶対的存在として。圧倒的な力の持ち主として。わかるか、クズども」
「……わから、ない。わかりたくない」
「そうだろうな。貴様らは自分の見たくないものを見ないことが出来る……それが貴様らにとって最大の利点なのだろうな。愚かだ、実に。愚かとしか言いようがない、だから貴様らはいつまでたっても下等生物のままだ……」
「……わかったよ、もう、いい。たくさんだ」
「ああ……いいねぇ、その顔。俺はおまえらがそうやって絶望に包まれる瞬間がたまらなく好きだ。だからやめられないんだよこの遊びが……暇つぶしには十分だ」
「暇つぶし?暇つぶし、だって?」
「ああそうだ。おまえらみたいにすぐ死ぬような生き物にはわからないだろうが、俺は退屈なんだ。退屈で退屈で、それこそ死にそうなんだ。だが俺は死ねない。だから死んだ人間オモチャにして遊んでんだよ。はは、それも一瞬だけどな。どうせ死んでんだからいいだろ」
「…………」
「おーい人間、何黙ってんだよ。そういうの求めてないぜ神様はよぉ。もっとこう泣き喚いたり縋ったりしろよ。そうそうこの前の奴なんてなぁ、『助けてくれ、金ならいくらでも出す!』とかなんとかって泣いてな。馬鹿じゃねえのって話だよなぁ、俺を買収しようとするなんてよ。汚い人間だったなぁあれは……おい聞いてんのか」
「……すまない、頭が、混乱して」
「あっそう。つまんねえの」
「なあ……俺は、これから、どうしたらいいんだ。本当に俺は、死んだのか」
「死んだよ。それだけだ。これからどうする、だって?思い上がんな人間。おまえはもうどうすることもできやしないんだ。人間の力でどうこうできる時間は終わったんだ」
「なら早く解放してくれ、おまえは、完全なんだろう。早く俺を解放しろ」
「ああそうだな。俺は完全だ。だからおまえの時間を決めることが出来る。そう焦るな、あと少しだ、おまえがおまえでいられるのも」
「……それなら、最後に一つ、教えてくれないか」
「人間は総じて質問が多いな。どいつもこいつもどうしてどうしてって馬鹿の一つ覚えみたいにまあ……で?言ってみろよ、おまえの質問を」
「俺たち人間が、あなたを、『神』を、根本的に間違っているのなら……人間に、生きる意味はあるのか?」
「あるよ」
「え?」
「何驚いてんだ。あるに決まってんだろ、無いなら貴様らみたいな無価値な存在をいちいち作るかよ」
「無いと、言われるのかと、思ったんだ」
「あるよ。おまえたちには、死ぬという意味が。だがおまえたちは生きている時にそれに気が付かないから、余計なことを考えて時間を浪費するんだ」
「死ぬために、俺たちは生まれるのか?」
「当たり前だ。そのためにおまえたちは存在するんだ。それだけだ」
「……そんな」
「わかったろ人間。さてそろそろ時間か、おまえさんの存在を完全に消し去らないと」
「かみ、さま。あなたはどうして存在するんだ」
「……さあな。終わりだ、人間」
「これで、終わりか」
「そうだ。感謝しろよ」
「感謝?」
「最後の質問と言ってから二つも余計な質問をしたなおまえは。まあ、それでもまだマシな方か――おまえの生は、この瞬間から意味を持つ。安心して消えろ、――人間」
「全編会話文で何か書きたい」と思った結果、いろいろ書き散らしました。
私のイメージする神はこんな感じ。きっとこんな感じ。