(4.5) 輝きの勇者と一対の剣
優輝。確かにこいつは言った、自分の名前を優輝と。本当に、『輝きの英雄』なのかもしれない。いや、でもありえない。『輝きの英雄』がこの世界にきたのは300年も昔のことだ。それがこんな、私と同じ年くらいなわけがない。
「ほら、なに難しい顔してるの?はいこれ、ジャベリン」
「あ、ありがと、ございます」
「そんな丁寧な口調じゃなくてもいいって」
「いえ、でも、こっちの方が個人的に落ち着くので」
「そう、ならしょうがないね。あと、そうだな『かぐや姫』」
「へ?」
突拍子もない声をあげてしまい、優輝が笑った。こんな会話をしている時も、優輝の髪は白色で、声はとても透き通っていて、心を和ませてくれている。
「へ?じゃないよ、武器の名前『かぐや姫』ボクは君と別れるのはつらいけど、いずれその時が来る。いや、来させる。っていうボクの願いかな」
「え?でもこんなただの木と鉄が混ざり合っただけのジャベリンですよ?そんな名前付けたって……」
「確かにこれは木と鉄でできている簡素な武器だ。だけどさぁ、ニイナ。この木と鉄は君の、七年間の、嫌な思い出が詰まったいわば集大成なんだよ」
いっていることがうまくかみ合っていない優輝をみて、思わず私も笑みをこぼしてしまった。
「ふふっ、言ってることがかみ合ってませんよ」
「確かにねッ。じゃぁそろそろ行こうか。六忌幽がいるんだ、久しぶりに本気で戦えるかな落葉茜の自慢の兵士たちと」
最後の方は独り言だろう、でも、優輝は六忌幽がここにいることを知っている。ますますナゾだが今はここを出ることが最優先だ。
前に目を向けた私はまた驚かされた。私がどんなに力を込めて殴ったり、蹴ったりしても壊れなかった、ダーク・ハート特注らしい黒く細い鉄格子が、人の髪をを切るように、いとも簡単に崩れ落ちた。
「じゃぁいこうか」
「は、はい」
✗✗✗✗✗
ニイナの牢獄を出て、すでに30分は経過しているはずだ。こんなに長い時間かかったけ、この舘。おかしい何かがおかしすぎる。ニイナはどう思っているのだろうか、と思い彼女の方に目を向けると、
「うわ―――気持が悪い。くるなくるな近寄るな―――」
ゾンビに『かぐや姫』を振り回している最中だった。
「もーなんなのここは、目とか飛び出てるし、腸が垂れてるし、気持悪いぃ」
そんなことをぼやいている、ニイナの肩にすぅと手を乗せてみる。「ひゃん」と言って飛びあがる彼女を見て思わず苦笑してしまう。
「人を怖がらせるのの何が楽しいんですかぁ」
と、若干涙目なふくれっ面で訴えかけてきた。
「ごめんごめん。でもジャベリンはそんな風に使わないでしょ」
「そ、そうですが……気持が悪くて、って後ろ」
「ん?」
飛びかかってきたゾンビをボクは、ボクの周りを旋回するゾンビの服を丸めさせ、一本の釘のようにゾンビの足を床に固定した。この程度では息は絶えない。新たに、転がっていたゾンビの死体の服に、空中を旋回する『二人の聖母』の、『渚』の方を当てる。すると、その服はボクに向かって飛んできた。
「君はこの人たちに大事にされたんだね」
一言つぶやいてから、空中を旋回するもう一つの『スピカ』の方を当てた。
「でもごめん。今だけはいうこと聞いておくれ」
すると、この服は先程の服と同じように釘のように丸くなり、苦しそうにうめいていたゾンビの顔に突き刺さった。中から腐った緑色の脳みそが飛び散る。このゾンビの無残な最期を見てボクは祈りをした。
「ゾンビの中の人、こんな世界に連れてこられて大変だったと思うけど安心して成仏してください。天国に行けますように」
しばしの沈黙の後、僕は顔をあげた。そこにはもう、あのゾンビの姿はいない。天国に吸収されたと僕は考えている。
もう僕が神間を殺したときに祈るのを自然のものと受け取ったのか、ニイナはそのことには触れなかった。しかし、
「あのーその剣って一体何なんですか」
もう少し早くにその質問が来ると思ったが…………まぁそのへんはいいだろう。歩みを進めながら問いかけに答える。
「これかい?これはねぇ」
と言って、旋回中の二本であり一対の短剣を前に浮かべる。
「こっちの『渚』はこの剣が触れた物の、意志をあらわにする。さっきみたいに襲ってきたら、敵意の証。触ってもなにも起こらなかったら、中立の証。そして、触った後、ボクの周りをまわりだしたら、味方になるっていう証」
「へ、へー物の意志ですかぁ。でも物ですよ?」
「まぁ、タカが人の造形物。物だからね。でも、そのモノが今までどんなふうに、使用人に使われてきたか。そこが、物に意志を持たせるきっかけになるんだ」
「え、ってことは、すごく強い剣を持っている人がいますよね。で、その剣はその使用人にあまり、手の入った手入れはされてなかったと、します。この場合『渚』を当てると…………」
「そのすごく強い剣は、使用人を刺しにいくよ」
ゾクッと、身震いをしたニイナは血の気が引いた顔をこっちに見せてきた。
「私は大丈夫でしょうか?」
「ニイナは自分の身の回りの物を、ちゃんと大切にしてたでしょ」
「え?」
「だって、ボクが君のベッドを『渚』で壊しちゃった時、あの木材や鉄、布の切れ端まで君を襲いはしなかったでしょ」
「あ、そうか。でも、物は大切にしないとですね」
「そ、その通り」
安堵の顔を向けたニイナに、こっちも笑って見せた。今さらだが心に決める。この子は絶対にボクの嫁だ!じゃなくて、返してあげないと、と。
もう一つの『スピカ』の効果を聞こうとしたらしく、こっちを見てきたニイナの、動きが止まった。
「あ、出口ですよ」
小さい、だがちゃんとした光が見えてきた。ボクはさっきまで気にかかっていたことも忘れ、速度を上げていく。光はどんどんと大きくなっていく。やがてその光をくぐった先の光景を見て、ボクは唖然とした。
記憶の忘却を許すまいと言わんばかりに、真っ先に目に飛び込んで来たのは、血の海。そして、何かに貫かれている白骨化した死骸。先程まで光っていて、出口だと思わせていたのは、軽く一軒家を飲み込んでしまうぐらい巨大なエネルの塊。こんなにも多くのエネルを集めるには、どれだけの、神間もしくは、人間を殺したか見当もつかない。
ニイナの方を向かなくともわかる、ここが現かわからないでいるのだろう。
周囲に生物の生存は確認できない。だがよく目を凝らすと、奥に六つの影が見えた。
息を殺して呟く。
「六忌幽だ」
ついてない。ホントについてない。六忌幽を一度に相手をするのは、断崖絶壁の崖から命綱無しで飛び降りて生きて帰ってくるのと同じぐらい難しい。
ニイナの今までの行動を見ている限り、ボクの命綱になれるほどの実力とは正直言いにくい。
そのニイナの方を向いてみた。意外なことに正気をしっかりと保っている。普通の使徒でも思考停止いや、気絶や呼吸のやり方を忘れる程度の症状は出るはずだ。そこでニイナが口を挟んできた。
「こ、これが六忌幽。想像してたモノを軽く凌駕していて言葉が出ませんでした」
ボクの左にいるニイナを見る。彼女の眼は恐ろしいものを見るときの恐怖の色ではなく、楽しいことをしている時の眼だった。彼女はこの絶望的な状況を楽しんでいる。さっきまで、ゾンビに苦戦していた人ではない。人が変わったと言った方がいいだろうか。
ふとそんな思考を巡らせた時だった。ニイナのくすんだ赤色の髪が、根元からだんだんと色が抜けていくのが見てとれた。少しずつ、しかし着実にくすんだ赤茶は抜け、白色が出てくる。
「さぁいきましょう」
と言った頃には、ニイナの髪はほとんどが白で、先の方だけ赤色が残っていた。この現象はまさしく、シャイン・トゥル・バトスのものだ。このエネルを持つ者が、興奮、緊張、集中といった状態になったときのみ、このエネルが反応し髪の色が抜けるようになる。これを研究して、論文で出せばあのふざけた神の正当な許可のもと、地球に帰れるだろう。いや、一人研究した奴いたか。もう少しで会えるかな。
話がずれたが、彼女はまさしく戦闘民族シャイン・トゥル・バトスだ。ボクもだけどな☆。
「ちょっと待って。そのジャベリンは投げた後、」
「『バックかぐや姫』って言うと帰ってくるんですよね」
「ヘェ?」
驚いた。目の前に六忌幽がいることも忘れ裏返った声をあげてしまった。
「輝きの英雄は泣いている一人の少女に少女と同じ名前の短剣聖製し手渡し言った。『嫌にった時、悲しくなった時、辛くなった時この剣に嫌なこと、辛いこと、悲しいことを叫ぶんだ。そしたらこの剣を崖から投げて落ちた音がしたらこう言うんだバック、ベガって。そしたら、君の嫌なこと、辛いこと、悲しいことを捨ててきてくれた、この剣が帰ってくるから』最後に輝きの英雄はニコッと、少女ベガに微笑むと、ベガも泣くのをやめその赤くなった目を英雄に向けニコッと微笑んだ。夜の英雄はあきれ顔で『兄さんもう行くよ』と言ったのであった」
「なにそれ」
ボクは聞き返す。この状況でそんなことを喋っている余裕などないはずだが、ニイナが言ったそれはボクの過去だったから聞かずにはいられない。
「童話、輝と夜の兄弟、第八章、八節の最後です。あなたは輝きの英雄とよく似ています。もし、あなたが輝きの英雄だとしたら、今のお話のように、『バックかぐや姫』と言えばいいかと思ったので…………………。んーーーーーと、間違っていたらすみませんが、
あなたは輝きの英雄『音無優輝』ですよね」
多分そうだと思うよ、と答えようとしたが、それは叶わぬ言霊になってしまった。後ろの閉まっていたドアがいきなり爆ぜたからだ。後ろから爆破されたのではない。前から飛んできたのだ。血の塊でできた弾、血弾が。これは茜の専属銃士、メグレズの長距離攻撃。
始まる、いや、すでに始まっていたのだ。ボクがこの血生臭い六忌幽の館、改めサクラダファミリアに使徒として、あの神達に送られた時から、六忌幽との闘いは始まっていたのだろう。
ボクは次に襲ってくると思われる、ドゥーベの死獣を迎える準備に取りかかった。
「ニイナ、次に来るのは多分血だらけで、うるさい狗が来るからそいつらが来たら、なりふり構わず頭を打ちぬいて。奴等は死霊だから頭に大きな損傷を与えないと、何度でも立ち上がってくるから、気を付けてね」
「わかった、ました。あなたはどうするの」
「ボクかい?ボクは資源調達に行ってきまーす。大丈夫。ボクはニイナを信じてるよ」
ニイナのふぇ?といった声が聞こえた頃には、渚のあとをスピカが追う形で一対の剣はサクラダファミリアを削り始めていた。
毎回ご閲覧ありがとうございます。
タイトルなのですが全く思いつかず(言っておいて考えてさえもいない笑)思いついたら孤独の境界の後書きに報告しますのでよろしくお願いします。
あと、少しでも「いいかな」とか思っちゃった方はポイント入れてください。1ポイントでもいいので(笑)