隣の赤い配管工様
これは、2次にしたほうがいいのだろうか?……という疑問のある短編。
私は、私が生まれた世界からある日突然追い出されてしまった。
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隣の赤い配管工様
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アラサーで、しばらく恋人も居ないちょっと寂しい女である私は、常日頃暇にあかせて読んでいた、オンライン小説のような『異世界』へ弾き飛ばされた。
特に今に不満を持っていたわけではない。
何か特別に悪さをしているわけでもない。
そんな私が、何故か元の世界には居られなくなってしまったのだという。
ただただ『白』で構成された場所に、ぽつりと置かれたベンチ。
それが、世界から放り出された私が最初に見た光景。
長い間公園に置かれていたような錆びの浮いた金属製のベンチは、ところどころペンキが剥げている。
その中央に座った私は、目の前にゆらゆらと揺らめく蜃気楼のような『光』の塊と重要な会話をした。
内容は、こうだ。
不慮の事故にあい、私はすでに死んでいる。
しかもそれがどうやら『間違い』だったので、別の世界に渡って人生をやり直してみないか、とのことであった。
それら一連のことを詳しく説明されたとき、ぼんやりと思った。
押入れの中のあれやこれやを処分してないし、明日ローンの振込みしないといけないのにどうしよう、と。
とはいえ、そこを心配したとして後の祭り。何とか残されたみんなで頑張って欲しい。本当に申し訳ない……!
それにしても、不慮の事故とはいったいどういったことなのであろうか。
私の一番新しい記憶は、久しぶりに自室でテレビゲームをしていたという事柄のみ。
事故にあう意味がわからない。
自室でなんの事故にあうというのだ。
ガス爆発などだろうか。
そんな疑問を持った私は、状況説明をしてくれている光の塊に問いかけてみた。
すると、ほんの少しの間、『光』は黙り込み、それはもう言いにくそうに口ごもりながら言った。
い、隕石が……、と。
隕石。
隕石って。
メテオって。
やだ、あんな古い家に取材来ちゃうじゃない。
私の恥ずかしい趣味がご近所中の目にさらされちゃうかもしれないじゃない。
でもまあ、隕石なら事件性もないし、警察来ないよね。
家捜しというか家宅捜索なんて、されないよね。
え? される? そうなの!?
つーか、隕石で事故死って保険おりるの……?
様々な事柄が私の中で駆け巡っては消えていく。
とどのつまり、私は混乱していたわけである。
そんな混乱の極地にいる私に、『光』は申し訳なさそうに説明を続ける。
隕石は、もともと我が家の庭に落ちる予定で、それがなんの因果か、……というよりも因果を調整する『神』の不注意でではあるが、家に直撃。
本来ならば私は、第一発見者として取材陣に取り囲まれ時の人となり、そのテレビ放映を見たさる大会社の若き社長から一目ぼれをされ、勤めていた会社の社長からその人を紹介された上に見合いをセッティングされ、なみいるライバルたちとやりあい、時には三角関係になりながらも、やがて愛し合う二人は結婚……、という、ベタベタ……いや、ちょっとひねりのきいたハーレクインロマンス的な一生を送るはずだった……、らしい。
えぇぇぇええ。……微妙。
まあ、悪くない人生なんだろうけれども、そんな展開、なんかヤだ。
ちなみに、本来であればやり直しなどいくら『間違い』とはいえ多く前例のある話ではないらしいのだが、ハーレクイン系のロマンスが大好物の神の一柱が、そんな私の先行きをすこぶる楽しみにしていたらしく。
今回の『間違い』に大変憤って、雨あられの様な抗議を因果の神にぶつけまくった結果、私の第二の人生が実現したのだそうである。
神様って、いっぱい居るのねぇ、と、感心したら、自分も神様なんです、と、目の前の『光』の塊がビカビカと光って自己主張してきた。
や、聞いてないし、どうでもいいし。
……と、いったなら、寂しげに明滅を繰り返しはじめた。
これはすこぶる目に悪いと思ったので、ごめんなさい、と謝っておいた。
「では、大変申し訳ないのですが、さっそく別の世界に送りますので……」
「はあ。選択の余地はないということですね。いろいろと言いたいことは山ほどありますが、……今はまだ実感もわきませんし、いいでしょう。それで、私が行く先はどういった世界なのでしょうか?」
「そうですねぇ、この世界と同じような状態ですが、モンスターや剣や魔法や人間種族以外の人型の種が存在します、といえば、オタクな貴女ならば理解していただけますよね」
「オタクをひとくくりにしたような言い方をすると、世界中のオタクを敵に回しますよ。……そりゃぁ、内容はわかりますけどね」
「ああ、よかった! オタク属性の人じゃない場合、一から説明して、宥めて、記憶操作して脅して騙さないと話が進まないので、本当に貴女がオタクで助かりました!」
「ずいぶんと物騒な話ですな!!!」
「では、そんな物騒な世界にいかなければならない貴女には、特殊能力を付けておきますね!」
「『物騒』は『そっち(=世界)』にかかった言葉じゃないから! あんたらいったいどういう仕事してんの!?」
「ええと、こういう場合はどうするんでしたっけ? ああ、そうそう、『貴女が直前までプレイしていたゲームのキャラクターの能力を付加しておきます』、でしたね。 えい!」
「え!? 選択肢無し!? というか、ちょっとまって、私のしてたゲームって、ソレ……」
「チート、というのでしたっけ? がんばってくださいね!!」
「ちょ、まてーーーーー!!!」
こうして私は、『死ぬ間際までプレイしていたゲームのキャラクターの能力』を得て、別の世界へと旅立ったのだった。
「おーい、リーズ! 『金の鶏亭』の水道の調子が悪いんだってよ。あとで見に行ってやってくれや」
「うん、わかった。ギルドに行ってから確認しに行ってみるね」
「頼んだぜー」
頭上の赤い帽子の下から、私は去っていくガタイのいいおっちゃんを見送った。
白い軍手に包まれた手で、ずれた帽子を直す。
服装の乱れは心の乱れだ。
私に『依頼』した彼が見えなくなる前に、ぜんは急げ、と、私はギルドと呼ばれる職業斡旋所のようなところへと向かうため、再び歩き出した。
片手に工具セット(仕事道具)を持った私は、歩きながら晴れ渡った青い空を見上げた。
『この国』の空は、私が居た世界と同じように青い空だから、時々自分が居る場所がわからなくなることがある。
この国以外の空は、昼でも見上げれば赤黒かったり、緑だったり紫だったり、さまざまな色合いをしているそうで、私はなんとなくこの国から出ずに暮らしている。
この世界の言葉でこの国は、『青い空の国』という。
私の以前居た世界とは言語体系がまったく異なるようなのだが、私は長らくそれに気がつかなかった。
勝手に自動翻訳される言葉たち。
はじめてこの国のことを聞いたときには「なんて安直な名前だろうか」とも思ったものだ。
私が意味と音を理解すれば、次からは元の言語で聞こえてくるのだが、私はあえて今も日本語で『青い空の国』と呼んでいる。
かつての世界への未練を捨てきれないまま、私はこの世界ですでに長い時を過ごしている。
いつか戻れるものならば戻りたい。
この世界にやってきたときから、私の心は変わっていない。
そして、もうひとつ。
この世界に来てから変わらないものがある。
それは、私の姿と職業である。
姿といっても、年をとらないというわけではない。
確実に年齢は重ねていっている。
この世界にやってきたときに年齢が少し若返っていただけで、その後は順調に肌年齢は衰えていっているのだ。出来ればそこは何とかして欲しかった。
私の変わらない姿とは、服装のことである。
赤い帽子に赤いシャツ。
丈夫な生地の青いオーバーオール。
足元は水を弾くブーツ。
両手を覆う白い手袋は油や泥で汚れてはいるが、オーバーオールのポケットには汚れの無い予備のそれが収められている。
私がギルドへと向かう道すがらすれ違った人々は、私のその特徴的な服装に幾人かが興味深げに振り向いた。
ときおり、「あれは冒険者ギルドの『赤い……』」などと、ギリギリアウトな言葉が聞こえてくる。
私の存在自体がアウトなのに、混ぜたらさらにヤバさ倍増だ。
女子だからヒゲは無い。
それだけはよかったと思う。
ここまでくれば、私が直前までしていたゲームの正体がわかる人もいるだろう。
赤い帽子の兄が主人公で、緑の帽子の弟が出てきたり、きのこを食べたり土管にもぐったりする、スーパーな男のゲームである。
この世界に来る直前に聞かされていたから、私は、世界が危険極まりないファンタジックな世界だということを知っていた。
来てすぐに森の中などというアウトドアな展開ではなく、ある町の裏路地であったことは感謝してもしきれない。
そして、路地を出てすぐに、鉄板の『冒険者ギルド』があったことも幸運だったと思う。
しかし、そこらへんはおそらく、鉄板な物語好きの神の一柱がいたに違いない。
ハーレクインロマンス好きがいたのだから、そっちもいるはずだ。
だから、『商業ギルド』や『宗教ギルド(この世界は多神教の世界だったため、さまざまな宗教団体への入団の入り口となっているギルド)』の前ではなく、『冒険者ギルド』の近くに落とされたのだろう。
それはかまわない。
だが、私がギルドに入り、加入をしたときに判明した職業が『配管工(水陸空対応)』だったのはどうしてくれようか。
そして、冒険者ギルドでも、あっさり加入審査が通ってしまったのも納得いかない。
「これ、商業ギルドに行ったほうがいいんじゃ……?」と、受付のおじさんが焦ってギルドの偉い人に進言し、すぐに偉い人が出てきてくれたのは苦い思い出だ。
通常は、ふさわしくない者にギルドの認定が降りることは無いのだそうだ。
商人が間違えて冒険者ギルドにやってきても、登録は出来ない。
だが、何故か職業『配管工』が、冒険者(傭兵のような仕事をしたり、遺跡を探索したり、未開の地を踏破したり、モンスターを退治したりするような、戦うすべを持つ者たちをまとめて冒険者と総称して、ギルドが管理を取り仕切っている)として登録されてしまった。
そして、それは、なんの力が働いているのか……おそらく物見高い神の誰かであろうが……、何をどうしても登録の取り消しは出来なかったのだ。
私は一躍有名人となった。
配管工が冒険者とか、どんないじめか。
私は、涙した。
だが、よく考えたら『配管工』なのだから、無理に町の外に出て冒険者らしいことをしなくても、普通に生活すればいいのではないか。
配管工らしい道具も何故か持っていたし、何故か配管工の技術も知識も持っていたし、まるで何度も体験したことがあるかのように体が仕事の動きを覚えていた。
私は、その町の配管を、直し、改良し、よりよい暮らしのために惜しみなく新たな技術をもたらした。
町の人たちに感謝されながら、冒険者らしくない日々を過ごしていた。
そんなある日、私に一目ぼれをしたという奇特な男性が現れた。
なんだと!? こんな油や泥にまみれた私を好いてくれている、だと……!?
私は、その日の夜、下宿先の奥さんにデートに誘われた旨を相談した。
すると、奥さんは我が事のように喜び、彼女の若いころの服を貸してくれるといった。
そういえば、私は仕事着(しかも、同じものばかり数着)しか持っていなかったと、そのときに気がついた。
何故か、持とうという気持ちにならなかったのだ。
私も、久しぶりのデートという行為に、浮き足立っていたのだろう。
キャイキャイと騒ぎながら、奥さんが用意してくれた、白いワンピースを試着してみた。
奥さん、若いころから胸大きかったのね、と、自分とのサイズの差を呪いながら着用した。
すると、なんということでしょう。
ワンピースは、一瞬で私のいつものあの服装に変わってしまっていたのです。
何のことかよくわからないだろうから、詳しく説明すると、
1、ワンピースを着るために服を脱いでベッドにおいた。
2、ワンピースに足を通し、引き上げ、ボタンを留めて鏡を振り向いた。
3、鏡に映った私は、いつもどおりのあの服を着ていた。
4、あわててベッドの上へ視線を転じると、ワンピースが置かれていた。
以下、1~4を1時間ほどエンドレスリピート。
奥さんに見てもらいながら1からはじめても、奥さんがまたたきした一瞬でチェンジ。
奥さんにしっかり服を抱えてもらっても同じ。
私は、いろんなことをあきらめた。
それこそ、婚期とか、いろんなものを。
……これ、ハーレクインロマンス好きの神は怒らないのだろうか。
その男性とは数ヶ月付き合ってみたが、結局別れた。
その直後、私はその町から出ることになった。
理由は、別れた男がこの町の有力者の息子だったことに起因する。
元々、ヤツには婚約者がいたのだが、その婚約者の彼女が大量の持参金とともに一月後に輿入れしてくるのだそうな。
そんななか、別れた男の父親が私の前に現れ、この金をやるから出て行ってくれと頼んできたのだ。
ああ、これ、こーいう展開好きそうだなあ……。 ハレクイ神(命名)。
……そうか、これを見越して見逃したんだろうな、私の衣装チェンジ不可事件。
その時点で私はその男と別れていたし、他の町も見てみたいと思っていた頃でもあるし、渡りに船ってこのことかしら、と、のんびり考えながら、イイヨ! と、親指立てて快諾したのだった。
私は地図を眺め、『青い空の国』の、ギルドのおかげで栄えているという、とある町へ向かうこととした。
そちら方面へ向かう商業ギルドの隊商と契約し、私は町を出た。
下宿先の奥さんが、泣きながら見送ってくれた。
ギルドで私の登録をしてくれたおじさん職員も、涙ぐみながら見送ってくれた。
二人は、あまり親しい人を作らないようにと努めていた私にとって、唯一の友人とも呼べる人たちだった。
あの男と別れた時よりも強い悲しさに支配され、私は涙を流した。
だが、そんな涙も乾かぬうちに、私は衝撃的な冒険者デビューを果たすこととなる。
「やあ、リーズさん、お久しぶりですね」
ギルドに仕事完了の報告に訪れると、見知った男が職員と立ち話をしていた。
私から声をかけるまでも無く、相手の方から私のほうへとやってきて挨拶してくれた。
「わあ、本当に久しぶりですねぇ、ナテさん。今回の商売はうまくいきました?」
「まあまあ、といったところですよ」
確か、今年55になるという、長い銀の混じった金の髪を三つ網に編んだダンディーな彼は、最初の町から旅に出る超初心者な私を、奇特にも雇ってくれた隊商の内の一人である。
今はナテナテ商会というかわいらしい名前でありながら、手広い商売をするかなり大きな商会のトップだ。ただし、素敵ダンディーおじ様でありながら独身。バツイチ。
彼は、あの時私と共に隊商へ参加したのが商会を立ち上げた初期の頃であったらしく、時に共に別の隊商へと混じり旅をして、拠点とすべき場所を探してこの町までやってきた仲間なのだ。
「まあまあだなんて、ナテさんが自ら出向いたんならうまくいっていないわけが無いじゃないですか」
「商売のほうは、まあ、よかったんですがね。道中が大変で……。リーズさんの都合がつけば一緒に行っていただきたかったくらい、物騒だったんですよ」
「そんな物騒なところに配管工の私を連れて行こうとしないでくださいよ!」
ああ、やだやだ。
心底嫌そうな表情をしていたと思うのに、ナテさんはカラカラと愉快そうに笑った。
「何をおっしゃいますか、リーズさん。初陣でモンスターを踏み潰した人の言うこととは思えませんよ」
「……そ、その話は……」
「突然走り出したと思ったら、いきなり高くジャンプして……次の瞬間には、馬ほどもある『土ウルフ』を足蹴に! 幼い少女がそのまま次々と群れを踏み潰していった光景は、一生涯忘れませんよ」
「わ、私の体重は平均値だからっ!!」
私は、遠い目をして思い出を語るナテさんを放っておいて、あわてて背後を振り返ってギルド中に響く大声で叫んだ。
そこは言っとか無いといけないと思う。
だが、ギルドの中にいた冒険者たちは私の叫びを聞くと一瞬の静寂の後、そんなの知ってらぁ!と、言いながら笑いの渦に飲み込まれた。
わ、わかってるんならいいんだけど、と、ぶつぶつ言いながらナテさんのほうに体を向けると、背後でさらに笑いが起こった。
……なんだかむかつくぞ。
「その後、夕食に出たキノコを食べたら肉感的な大人の女性になった衝撃も忘れていませんよ」
「今も昔も大人! 大人だからっ!!」
どうせ普段はムチムチプリプリしてませんよ! 貧相とかじゃなくて、スレンダーって格調高く言ってほしい!!
しかし、ナテさんが肉感的とかいうと妙にやらしいな。ダンディーだから……?
最初の町では、森に危険なモンスターが生息しているから、と、なかなか採集に行けず、キノコは高級品だった。よって、そんな体質になっているだなどと気づくのが遅れたのであるが……。
私は、キノコを口にすると成長してしまう体質だったのだ。胸とか背とか。
以前の私も、そして今の私も求めても得られなかったものが、今、ここに……!
私はとてつもなく舞い上がった。
なんなの、赤いキャンディーと青いキャンディーみたいな、あれなわけ!?
それとも、不思議の国のアリス的な!? じゃあ、じゃあ、対応するモノを口にしなければこの理想体型のままってこと!?
……と思っていたら、一日たつと戻っていた。
やっぱりゲームのアレでしたか……。いや、わかっていましたよ、こんな夢は長く続かないって。
私は、どんなキノコを食べても毒をもらうことはなくなった代わりに、残酷なひと時の夢を見せられる体質になってしまっていたのだ。あの『光』、次に会ったら踏んでやる。
背後から、ずっとあのままだったらいいのにな、と、声が聞こえてきた。
よし、後で踏む。
ナテさんにからかわれることはいつものことであるが、この後私はまだ仕事あるのだ。
だというのに、とてつもなく疲れてしまった。
がくりと肩が落ちるのを感じながら、ため息をついていると、ナテさんがそういえば、と続けた。
「またうわさになっていますね」
「え? 何が?」
「またドラゴンを服従させた、と。 あなたが呼ぶと、何故ドラゴンたちはあんなに人懐っこくなるんでしょうね、不思議です。しかも、あんな短い呪文で」
「や、あれ、呪文じゃなくて……」
ドラゴン見ると、ついヨッ……いやいや、言ってはいけないあの名前で呼びたくなるのだ。その名前で呼ぶと、彼らは一様に私に友好的になる。
そして、懐いてくれる彼らを見ると、私も、ついその背中に乗りたくなるのだ! そのままどこまでも走り出したくなるのだ!
……そのうち緑の帽子の弟か妹が現れるのではないか、と、恐々としながら生活しているのである。
「ああ、そうだ、リーズさん」
「なんですか?」
町の周囲に出た翼竜(茶色)を討伐し(……というより服従させた)依頼を終えたことを職員に報告した私は、そばで待っていてくれたナテさんを見上げた。
ナテさんは、若々しい笑みを浮かべて私の頭をなでながら、言った。
「私は、リーズさんがどんな服装をしていても、モンスターを足で踏み潰しても、ドラゴンに乗って爆走しても、壁を頭突きで壊しても、小さいままでも変わらず大好きですよ」
「え、ああ、ありがとうございま……す……?」
「いつか、ナテリーズ商会にしましょうね」
「……え? ああ、はい、ありがとうございます……?」
おぉお、と、ギルド内にどよめきが起こった。
なんて命知らずな、という声や、やっとか、という声、そのほか、幸せなやつらなんか滅びろ、とか、さまざま聞こえてくる。
え? これはあれですよね、私の機動力だとかそういうものを欲しいということですよね?
「まだリーズさんにお土産渡していませんでしたね。これ、『桃』です。『私の名前』と同じ名の果物だったので、ついついたくさん仕入れてきてしまいました。甘くておいしいですよ」
時間が止まったかと思った。
私は、聞き違いか、と、恐る恐る問い直した。
「同じ、名前?」
「ええ、『ナテ』です。見たことありませんか?」
はい、これです、と、渡されたそれは、まさしく『桃』で……、自動翻訳されてしまったあとはそうとしか聞こえない。
ていうか、ナテさん、……『桃さん』なんですか……?
私は、眩暈を感じてその場に崩れ落ちた。
ハレクイ神、アンタ、全部仕込んだなぁあああ!?!??!?
遠く遠くで、心底愉快であると言いたげな高笑いが響いた気がした。
end
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リーズ
>元日本の会社員女性。彼氏と別れたばかりだったが、あまり引きずっておらず、家で久しぶりにゲーム三昧していたところ、死亡。
>直前にしていたゲームの能力って、ちょ、やめてよ! みたいな状態で異世界へトリップ。
>土管にもぐると高確率で金貨を発見したり、ブロックを頭突きなどで破壊したり、踏むとモンスターにダメージを与えられたりする。
>配管工としての腕も一流。
>ドラゴンを服従させることができる呪文を会得している。服従したドラゴンはみな同じ鳴き声になる。
>衣装を別のデザインのものに変えることは出来ない。
>ただし、結婚式の時にはちゃんとドレスを着用できるようにハレクイ神が祝福(?)してくれている。
ナテ
>凄腕商人。バツイチ金髪長髪ダンディー。モテる。
>リーズを嫁にしたいと思っている。
>最初はリーズの能力を買っていただけだったが、そのうち未熟者なところやらさまざまなところにほだされ、現在はオレの嫁状態。
>時々、さらわれる。
大丈夫なんだろうか、これ……
20120414 修正