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アクレニア戦記 ~二つの決意~  作者: 冬永 柳那
五章 すべての終わり
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悠久の時


「なに!? こ、これは!」


「シオンと同じ光…じゃあ!?」


「いえ! 何か違います! こう…何かが!」


「私も分かるよ。暖かくない、全然、冷たい光…」


ハイアットの声と共に出現した、金色の光。


その金色の光に狼狽えるシオンたちだったが、唯一カナだけは冷静だった。


いや、悲しそうな顔をしたまま、その光を見つめていた。


「分かる。あの光には、優しさが無い。シオン君とは違う…絶対に違う、冷たい光…」


「…! カナ! その光は!」


「私が、冷やしてあげる。これで!」


シオンがカナの異変に気づき、声を荒げる。


だが、どこか意識が無いような目をしたカナは、右手一本で槍を振り回した後、その槍に宿る蒼色の光に命じた。


「…水龍。走れ、伝え、踊れ、喰らえ、捕らえよ。鎖となりて、敵を締め上げろ! 『水龍流鎖(ドラゴニック・チェイン)』!」


レストーションに纏った光が、絡みつく水龍となり、猛る。


そしてその龍は命を受けた通りに、ハイアットに絡みつき、締め上げた。


「…この程度か? 興ざめだな」


体に絡みつく水龍を余裕の表情を浮かべたまま引き千切る。


その行動に驚愕を浮かべる面々に、ハイアットはただ手を掲げた。


生まれたのは、金色の光。その金色の光の性質をよく知る者たちは、その脅威に顔を歪ませる。


だが、その金色の光はすぐに霧散した。


「へ? ど、どういうこと?」


「…俺には時の力は無い。これはただの虚像。ただ、本物を模倣しただけの劣化番だ」


「どうしてそんなものをあんたが使えるのよ。それに、そんな光なんてシオンのを見るまでは見たこともなかったわよ?」


「当たり前だ。これは俺が独自に調べ、復讐のために会得した物。だから足りない、足りないのだ。全て、俺が望む物には!」


激昂し、シオンに向かって突撃していくハイアット。


得物もなく、ただその身そのままの突貫だが、その動きは素早かった。


「くっ! 君は、何がしたいんだ!」


「聞いていなかったのか? 俺はただ、世界を作り直す。復讐のために」


「ふざけるな! ただの私怨で、そんな事を行うなんて許されるはずがない!」


「許されると思っているなら、こんなことはしないと思うがね!」


ガキィン!


ハイアットが隠し持っていた短剣と、シオンのカテドラルが交差し、金属特有の嫌な音を奏でる。


その見事な鍔迫り合いに、ユフィーたちは手が出せず、見守るしかできなかった。


「だからって、何でこんな事を! 復讐なんて、絶対に間違ってる! 負の感情に縛られたまま生きてちゃ、絶対に笑えない! 心から、笑うことなんかできない!」


「そんなもの必要ない! なぜ笑わねばならない! 何のために笑う! お前は、何のために!」


「仲間だ! 友達だ! …大切な人達のために、僕は笑う! 笑っていてほしいから!!」


ギャリィン…


何とかハイアットの猛攻を弾き飛ばし、その出方を伺うシオン。


あの奇っ怪な模倣した偽者だという金色の光。あの光以外は、ハイアットの動きは普通だった。


いや、普通と呼ぶにはありえない短剣の扱いや鬼気迫る気迫、全てが一級品だった。シオンが少しでもその刃に振れていないのは、カテドラルの武器の特有性にあるだろう。


だが、それでもハイアットは諦めることはせず、再びシオンに向かって突進していく。


今度は短剣を二本、両手に携えての突進。


その突進を、飛び出したリィナが受け止めた。


先ほどのシオンのような鍔迫り合いを演じ、風燐華に魔力を集中させていく。


溢れ出す魔力は風燐華に風を纏わせ、その風を暴風へ、竜巻へと変化させる。


しかし、その竜巻を目の前にしてもハイアットの表情は変わらなかった。


「邪魔だ。失せろ」


「失せません! あなたには、教えてほしいことがあります!」


「俺には無いな、お前に教えることなど。消えろ、風」


風燐華に風を纏わせているというのに、ハイアットは一歩も引かず、逆に攻撃を繰り出してくる。


両手の短剣を振り、様々な角度から切りつけていく。


得物の長さからか、短剣の取り回しは速い。それが、リィナにとっては決定的な致命打となる。


二本の短い短剣と、長さのある風燐華の刀身。その圧倒的不利な状況をリィナは覆せず、風燐華と共にその体を弾き飛ばされた。


「リィナちゃん! へー…君、結構強いんだね」


「覚醒したとは言っても、所詮は腕一本。お前に俺が殺せるのか?」


「…こ、殺す…」


「見ていたぞ? 先ほどの戦闘。お前に、俺が殺せるのか?」


二度目のハイアットの質問。


その質問の重みに、カナは一瞬たじろぐ。


だが、彼女にはついてくれている仲間がいる。想いを分けてくれた、恩人が。


「…殺さない。…私が殺すのは、君のその想いだよ。絶対、それは間違ってるから!」


「お前に決めつけられる同義は無い。お前も消え失せろ、水」


無意識の状態だが、それでも槍に纏わせている水は、カナの想いに応えて猛っている。


ざわざわとうごめき、放たれるのを待つ水の本流を、カナは解き放つ。


目の前に立つ、狂気を身に宿した男の、その狂気を洗い流すために。


放たれた水の本流は、前回と同様龍の形をとってハイアットに迫る。


その水龍を、ハイアットは握り潰す。その人間とは思えない芸当に、魔法が扱える身として旋律を覚えるユフィー。


だが、カナはその事が予想できていたのか、レストーションを真っ直ぐに突き刺す。


走るハイアットの足元へと突き出された槍を、ハイアットは冷静な表情のまま踏み落とした。


「なっ! これ、なら!」


「無駄だと言っている。お前はもう退場していろ」


「カナ! 引きなさい! 凍りつけ。永遠の牢獄へと、その魂を閉じ込めよ。咎を受けしは、心の闇! 『牢獄ノ氷闇(ジュエル・アイダーク)』!」


薄く濁った氷の牢獄が、ハイアットに向かって落ちる。


その牢獄は微妙な位置調節により、見事にハイアットの頭上に綺麗に落ちた。


「こんなもの!」


「簡単には壊れないわよ。だってそれ、一番固く作った奴だから」


「関係ない。全てには綻びがある。だからこそ…!」


バキャァン!


「えっ!? そ、そんな簡単にっ!」


「お前は無用だ。魔法が無ければ、意味が無い。無くなれ、氷よ」


スターレインを構え直すユフィーだが、そのスターレインを弾き飛ばされてしまう。


簡単に蹴り飛ばされてしまったスターレインを握っていた手を見て、ユフィーは愕然とする。


「お前はそれだけしかないのだ。魔が無ければ、お前はどうすることもできない」


「そんなこと!」


「ユフィー! いいんだ、下がってて!」


「シオン!?」


「僕がやる。大丈夫、僕は大丈夫さ」


シオンがユフィーを止める。


スターレインが手元に無い状態で戦うのはかなり無茶だが、ユフィーとしてはまだ戦えた。


魔力も残っているし、怪我もない。


だからこそユフィーは戦いたかったのだ。シオンと共に、同じ立場に。


だが、シオンはそれを止めた。後ろで待っていて欲しくて。


帰るべき場所を、守っていてほしかったから。


その想いを込めたシオンの言葉に、ユフィーは黙るしかなかった。


「さあ、始めようか。君は、僕の力が欲しいんだろ?」


「ああ。その力のためなら、俺はなんでもしてやる」


「なんでも、ね。僕は、その考えは分からない。だって、力を求めるだけでは意味ないじゃないか」


「はっ! 意味なんか求めていたら、何も出来はしない! だからこそ、俺は求める! 力を!」


「復讐のために、力は使わせない! この力は!」


シオンがそう叫び、自らの手を胸に突き入れる。


金色の光を帯びたその手を胸から引き抜き、そこからハイアットが求める力を取り出すシオン。


彼には聞こえていたのだ。


自らの中に宿った、時の聖霊エヴィデンスから。


『君の心臓が、この者が求める力、エヴィーディタイマーだ。それを見せよ』と。


「それが、エヴィーディタイマー…。世界を変える、時の力か…」


どこか陶酔したような表情で、シオンの体から生まれた金色の光を見つめるハイアット。


その金色の光は形を変え、剣の形を取っていく。


「そう。でもこの力は悠久の力。時の流れを統一し、操る禁断の力。…この力を、君の復讐何かに使わせはしない!」


剃りの強い片刃の剣を、慣れないながらも構えるシオン。


その剣を見て、ハイアットは走り出した。


「それを寄越せ! その力があれば、俺の願いは叶う!」


「願いを叶えるためだけに、力を欲するなんて! 与えられるだけの力に、何の意味があるっていうんだ!」


「それが持たぬ者の考えだ! 持つ者がその想いを理解することはできない!」


「出来るさ! それが出来るように、僕は努力してきた! 民たちに理解され、信頼されるために僕は努力する! お互いがお互いを求めあえる中になれるように!」


「そんな絵空事!」


取り出した短剣をぶつけ、想いと共に切りつけていくハイアット。


その動きについていくのが精一杯のシオンだが、鍔迫り合いに持っていくようにシオンは動く。


シオンは戦いたくないのだ。彼すらも、助けたいのだ。


「僕は君を助ける! そんな復讐にとらわれた君の心を! この時の力は、そのために手に入れたんだ! 僕は、みんなが幸せで笑っていられる、そんな世界のためにこの力を使うんだ!」





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