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アクレニア戦記 ~二つの決意~  作者: 冬永 柳那
五章 すべての終わり
36/41

始まる戦い


チュンチュンチュン…


翌朝。


「俺たちはいけないから」


「ユリたちは、ここから動いちゃいけないの。だって、こここそがユリたちのいるべき場所だからね」


双子はそう言うと同行を辞退した。


ユリは行きたいのだろうか、うずうずして体を動かしていたが、カイの一言によりその欲求もなくなったようだ。


その事に少し残念がったシオンだったが、どうすることもできないのでそこで別れることになった。


ユフィーなどはいつも通りにそっぽを向いていたが、カナはユリとは別れたくないらしく、最後までごねた。


曰く───


「あんな服もう何回も着れないんだよ!?」


「知らないわよ。周りにはほぼ強制的に着させたくせに」


「見るのはいいですけど、着るのはちょっと…」


このような女性陣の意見により、カナは終わったら会いにいくという形で折れた。


そして今現在は、拠点に向かって移動しているのだが───


「…これも王道っていうのかな?」


「面倒くさい方の、ね! 『死氷結(キラースノット)』!」


頻繁に襲いかかってくるようになった魔物の群れに、ユフィーの魔法が炸裂する。


細い縄となった死の氷は、魔物の群れを搦め捕り、結びあげ、その命を終わらせていく。


シオンはそのお零れを掃除するように、カテドラルで切り裂いていった。


「こんなの王道って言いませんよー。王道って言ったら、何か大きな人がお城で待ってるんじゃないんですか?」


風燐華を振りながらリィナがそんな愚痴をこぼす。


風を纏った攻撃ではないために少し時間がかかっているが、それでも魔力を浪費するよりはいいと考えたのだろう。


足のみを動かしているような滑らかな動きで、魔物を切り裂いていく。


「リィナちゃん。それじゃおとぎ話にある『魔王』様だよ…。っ! はぁぁぁぁ!!!」


リィナの言葉に返すことで少し油断していたのか、顔のすぐ横を通り過ぎていった死に驚くカナ。


だが、すぐに頭を切り替え、刺突の壁を繰り出す。


レストーションの長さを活かし、相手の間合いに入れさせない。


凄まじい速度で繰り出される突きは、少しばかりの残像を持って魔物を突き殺していった。


「あ! リィナ、あった! あそこだ!」


突然声を上げ、視界の端に写った目標を指差すシオン。


シオンが指差したのは、完全に死を連想させる切り立った崖。所々に鋭利な土の突起が突き出しており、落ちている状態でぶつかればどうなるか容易に想像できた。


それを見たリィナは少し嫌そうな顔をしたが、すぐに手元にある風燐華を見て語りかける。


「…手伝ってくださいね、『風燐華』。…では、行きます! 風よ。渦巻きを我が足元へ。上昇せしは、己が肉体。『風華昇(ウィニーアップ)』」


四人の足元に魔力が集中し、その魔力は風となり、足場となる。


少し心許なくなった地面の感触は次の瞬間浮き上がり、四人の体を上空へと誘う。


「よし。リィナはこのまま制御をお願い、僕が進路を言うから。カナとユフィーは何かあったときの迎撃を。結構足場が心許ないから、力があまり入らないだろうけど」


「分かりました、頼みますね」


「了解よ」


「うーん、やるだけやってみるよ。いざとなったら振り回すし」


シオンの指示に、三人は各々の反応の仕方で応える。


リィナは制御のために風に近くなるようにしゃがみ込み、ユフィーはスターレインを構え、カナはレストーションを担ぎ直す。


それを確認したシオンは、自らの役目を果たすために進行の指示を飛ばしていく。


所々突き出る土の塊を器用に避け、着々と目的地に近づくシオンたち。


「っ! カナ、そっち頼むわ!」


「せやぁ!!」


翼を持った魔物たちはシオンたちを追いかけており、その迎撃をユフィーとカナは慣れない足場ながらも務めていた。


ユフィーの遠距離での迎撃に、カナがその迎撃の網からもれた敵を刺し貫く。


その貫いた敵を、カナは器用にその迫る群れの中に投げていたりもした。


「シオンさん! あれ!」


完全な逃げの強行に少し焦っていたシオンに、リィナの驚く声が上がる。


その声の雰囲気に、何事かと思ったシオンだったが、その視線の先を見つけると少しだけ安堵の息を漏らした。


「あれが『ケニハルナ砦』の裏門、いや、ルナニスクルメアの本拠地か…。リィナ、あの門の前の広場に降りるよ」


「…狭くないですか?」


「まあ、少しね」


「…投げてもいいですかね? ここからみんなで跳んだ方が早い気がするんですけど…」


「出来るの? そんなこと」


「今の足場の魔法を弱い攻撃魔法に変えたら、それを足場にして蹴ることが出来るらしいです。カイさんが言ってました」


足場の説明をしながらリィナはシオンに提案する。


確かにリィナの言う通りで、シオンが示した降りる場所は狭い。四人全員が同時に楽に降りる場所ではなかった。


だからこそ、自らの体一つで突っ込んだ方が早いとリィナは提案したのだ。


「出来るならそっちの方がいいか…。じゃあリィナ、それで頼むよ。ユフィーは少し無理だろうから、僕が何とかするよ」


「分かりました。すぐにできるので、いきますよ?」


「分かった。カナ! 今から足場がしっかりするから、あの場所まで跳んで!」


その指示が出た頃にはだいぶ下がった所まで来ており、カナやリィナのような身体能力が高い者には何ともないような高さになっていた。


「よーし! ならば、跳ぶぞー!」


「ちょっと、あたしにそんな脚力は…」


「ごめんユフィー。黙ってないと舌噛むよ!」


「じゃあ行きます! 『風翔凛(ラン・ウィニング)』!」


「って、キャァァァァ!!」


リィナの魔法の呪文とユフィーの悲鳴が重なる。


それも当然だろう、一瞬だけ地面とほとんど変わらなくなった風の足場を蹴り、自らを担いだシオンが空中に飛び出したのだから。


隣を見ると、カナはありえないぐらい楽しそうに跳んでおり、リィナは追ってくる魔物に冷静に生み出した竜巻をぶつけていた。


そしてユフィー自身はと言うと───


「………///」


真っ赤になって、いわゆるお姫様抱っこという状態を満喫していた。


ジャリッ


意外と危なげなく降り立ち、シオンは腕の中のユフィーを見る。


「ごめん、ユフィー。こうやって跳ぶんだったら担ぎ方がこれしか見つからなくて…」


「え、ええ!? い、いいいえ、べべべ、別に構わないわよ///!?」


顔を赤くしながら猛然と真後ろに動くユフィー。


そして、その先には扉が。


ゴンッ


「っつ!!」


ギギィ…


当然後ろを見ていないユフィーは綺麗にぶつかり、門に体を強かに打ち付ける。


だが、怪我の功名とでも言うべきか、その人の背丈を優に越える門はゆっくりと開いていった。


「…絞まらないけど、入ろうか」


「それが私たちですよ!」


「リィナちゃん、それ意味ないから」


「……///」





コツコツコツ…


「…誰もいないね」


当然魔物や、ルナニスクルメアの構成員から攻撃を受けると思っていたシオンは、何もないことに驚いていた。


「…ええ、やけに静かだわ」


四人の歩く石畳から鳴る足音だけが異様に響く空間に、ユフィーは警戒の色を濃くする。


「人の気配は…あるんですけど…」


周囲に気を配りながら歩くリィナだが、掴めている気配はあるのにその存在が希薄な事に顔をしかめていた。


「お宝あるかなー…お宝、お宝、お宝…」


一人完全に趣旨がズレてきているが、それでも周囲を気にしている事に代わりはないようだ。


「…でも、これは迷うね、下手したら」


「確かにそうね。何でこんなにも同じ形の柱しかないのかしら」


「…私は何も言いませんよ…」


「うん。リィナちゃんは何も言えないね」


砦の中の風景がいっこうに変わらないことに、シオンとユフィーが悪態をつく。


それに合わせ、リィナが恨み言を吐くかのように呟いき、カナはそのリィナの呟きに、小さく突っ込みを入れた。


この四人、今から戦いを始めるというのになかなかに和やかである。


バチバチバチ…


爆ぜる音が響く。


今まで和やかに進んでいた四人が、その音と共に臨戦態勢を整える。


シオンはカテドラルを、ユフィーはスターレインを、リィナは風燐華を、カナはレストーションを構え、油断なく辺りを見渡す。


バチッバチッ


電気が流れ、落ちる音がシオンたちの目の前で鳴った。


「よぉ。久しぶりだな、てめぇら。と言っても、約一名には初めましてか?」


「あら、あなた挨拶が出来たんですか。これからもその心がけを忘れないで頂きたいですね」


「ちっ。やっぱ外にいる奴等は使えねぇな」


「………」


律儀な言葉を吐く『エルブレイア』に、『ヒーナス』が信じられないと言った声をあげる。


『コーガディーガ』は憎々しげに空を見上げながら、もう一人の黒髪の女性はただ無言でシオンたちの前に現れた。


「君たちは…!」


「…やっぱりあんたたちがいるわよね…!」


「…今度は逃しません」


「ああども、初めまして」


「「「律儀に返事をするな!」」」


「ええ!? 怒られるような理由あった?」


カナの台詞に、シオンたち三人が声を揃えて突っ込みを入れる。


その勢いに、カナは少々驚きながら小さくなっていく。


「はっはっはっ!! やっぱりおもしれぇな、全くよ!」


「黙って下さい。一番最初に死ぬくせに」


「んだとてめぇ! お前が死ねよ!」


大声をあげて笑う『エルブレイア』に、『ヒーナス』の辛辣な台詞が刺さる。


それに反応してしまったため、食ってかかるようにして『ヒーナス』の体を掴もう賭する『エルブレイア』。


だが、今まで無言を貫いていた黒髪の女性が、自らの隠し持っていた短剣を引き抜いてまで止めた。


いや、その威圧感に止めざるを得なかっただけなのだが。


「…私からすれば、お前たちなど全て雑魚。喚くな、黙れ」


「ぐぐ…」


「へっ! いいじゃねぇか! いい加減に始めようぜぇ!?」


『コーガディーガ』が瞬時に取り出したソルトレスターを振りかざし、石畳に向かってそれを振るう。


石畳に突き立てられたソルトレスターから魔力が流れ、石畳を変質させる。


剥がれていく石畳が鋭利な形状へ変化し、捻れ、一つ一つ歪な槍へと変化していく。


「殺せ! 『土槍煉獄(ヘル・スピアース)』!」


『コーガディーガ』が命じた通り、死を孕んだ歪な槍がシオンたちに迫る。


「ちっ! 『結晶氷陣(クリシミナル)』!」


舌打ちと共にユフィーのユターレインが輝き、一瞬にして分厚い氷の壁が出来上がる。


その氷の壁にぶつかると思われた土の槍は、急激に方向を変えて石畳へと突き刺さった。


「ざぁーんねぇーん。ホントはこっちだ! 消し飛びなぁ!」


ドゴォォォォン!


「なっ! 床が!」


楽しそうに笑った『コーガディーガ』の深い笑みと共に、石畳に突き刺さった土の槍が爆発する。


砦全体を揺るがす大きな音は、絶大な破壊力を持って石畳の床を破壊した。


「うわぁぁぁ!!」


「くっ! シオン!」


「キャァァァ!!」


「…うわーなんかなつかしいー…」


石畳の床の崩落に巻き込まれた四人は、瓦礫と自らが出した悲鳴と共に落ちていく。


そして、四人が落ちた穴を見つめながら『コーガディーガ』は言う。


「これでいいんだろ? これでよぉ」


「けっ! 俺はこのままでもいいってのに、物好きだねぇ…」


「上出来でしょう。それに、この方が私たちとしてはやりやすいのでね」


「…行くぞ。奴等は必ず来る。そのための分断だ」


「へーいへい」


深緑色の翼を生やして飛ぶ黒髪の女性に、『コーガディーガ』はソルトレスターを担ぎ直して従った。




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