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アクレニア戦記 ~二つの決意~  作者: 冬永 柳那
四章 目覚める、時
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紡がれる真実

「…ん…」


「シオン! よかった…起きてくれて…」


シオンが起きた時に見たのは、ユフィーの目に涙を溜めた姿だった。


背には木。意識を失ったシオンを木陰まで運び、そこで寝かしておいてくれたのだろう。


そんなユフィーの優しさに感謝しながら、シオンは体に力を入れて立ち上がろうとした。


ガクン


「───え?」


膝に力が入らない。


意識を失うほどだった脱力感と吐き気は収まっている。


だが、それが無くてもシオンの膝は言うことを聞いてくれなかった。


「まだ立たない方がいい。と言うか、立てないはず」


服はボロボロだが、それ以外は何ともないようにケロッとしているカイが、シオンに向かって声をかけてくる。


恐らくはユリの回復魔法を受けたのだろうが、さすがは魔剣の所持者。回復速度とその回復量が尋常ではない。


「うん…膝に全く力が入らないや」


「当たり前。それが、時の力の代償。まだ軽い方か?」


「軽い方? これでも十分辛いんだけど…」


「時は使いすぎると死ぬ。使用者の時すらも蝕む『輪廻を操る』時」


ため息を吐こうとしたシオンに、カイの容赦の無い宣告が下る。


「『輪廻を操る』…。じゃ、やっぱりこの力は…」


「…? エヴィデンスの奴…何も伝えてないのか」


自らの両手を見つめながら、伝えられた事と力について見つめ直すシオン。


その行為を見て、カイは呆れ返りながら時の聖霊の名前を呼んだ。


「おー、すごーい! もうどこも痛くないよー!」


「はい! 普通、これぐらいの怪我をしちゃったら、一週間は安静にしてないといけないんですけど…」


「ふっふーん。そりゃライトディボルスまで使った最上級の回復魔法だからねー。回復しない方が嘘ってもんだよ!」


「ユリちゃんには感謝してますー」


「私もです!」


「いえいえいえ、カナとリィナはもうお友達だからね!」


そのシオンたちと程近い所で、三人の女の子がハシャいでいる。


そして、いつの間にかは分からないが自己紹介までも済ませているようだった。


こちらの三人も服はボロボロだが、それ以外は魔法で完全に治ってしまっているようだ。


それはつまり、この場で動けない体なのはシオンだけである事を示していた。


と言うより、服がボロボロになっているため、普段露出しない肌などが見え隠れしており、シオンはどこに目線をやっていいか分からなかった。


「ユリ…。服を変えてこい。出来れば他の二人も一緒に」


その事に気づいたのか、カイがユリに着替えてくるように指示を出す。


だが、その指示をユリは膨れっ面で返した。


「えー、このままでいいじゃん。と言うかー、このままの服でやらない? りょじょく……?プレイとか」


「しない。着替えてこい」


「はーい。いこっか、こっちにあるから!」


カイの冷たい切り返しに、ユリは他の二人を引き連れて逃げた。


三人を見送った後、カイはシオンたち二人に向き直り、位置を調節するために座り込んだ。


「で…。力を得たとき、聖霊に会わなかったのか? 氷の方は会ってるはずだが」


「ええ。あたしは会ったわね。あの淡い水色のローブを着た、少し面倒くさい性格をした奴にね」


「アイシーは昔からそうだから」


「僕は…会ったっていうのかな、あれは」


思い出されるのは、あの不思議な金の世界で出会った小柄な少女の事だ。


色素と存在が薄かった少女。気を抜けば、どこかに消えてしまいそうな雰囲気を持った少女だった。


その言葉に興味を持ったカイが、滅多に動かない眉を動かしながらシオンに聞いてきた。


「お前、持ってるのか? 証を」


「証?」


「丸い銀板に質素な十字架が彫られたネックレス。『時の(エヴィデンス・クロック)』だ」


カイのその言葉を聞いてシオンは思い出した。


帝都から出立する際に父から手渡された、質素なネックレスの事を。


「ああ、持ってるよ。確か……あれ?」


ネックレスの通り、シオンは貰ったその日からずっと首にかけていた。


そのために胸にあるはずだったネックレスがなくなっている事に、シオンは酷く焦る。


「…ない…どこかに落としたのかな? いや、鎖だったから、そう簡単に外れる訳が…」


「少し邪魔する」


小さく断りを入れると、シオンの胸に手を当てるカイ。


そしてそこに、自らの闇の魔力を流し込んでいく。


彼の体調を調べるためでもあるし、なにより『証』がそこにあると踏んだからだ。


その予想の元、シオンの中を見ていく。気配を探る。そして、見つけた。


「…どうしたの? なにか…」


「お前の中にある。時の証が。そして、エヴィデンスもそこにいる」


小さく笑ったカイを不思議に思ったのか、胸に手を当てられたままで問いかけるシオン。


そのシオンに対し、カイは手を離しながら少し安心したように語る。


「多分、お前が心臓を吹っ飛ばされてその後に蘇生した時に取り込んだんだろう。エヴィデンスにとっては、嬉しい誤算か」


「え? 心臓を吹っ飛ばされてって…ええ!?」


「そうよ? 本気で心配したんだから」


心臓が無かったことをさらりとカミングアウトされ、思いっきり狼狽するシオン。


ユフィーはそんなシオンを宥めるように、あくまでも冷静を装って声をかけた。


「聖霊は選定者。選んだ者と共にある。そして、それを見守るのが俺たち代行者」


「そうなんだ…じゃあでも、なんでその時の証が僕の中に取り込まれてるの?」


「時の証は魔を封する道具。魔剣の無い時の代わりに、その中に聖霊が入れるように」


「え? それってどういうことなの?」


「魔剣は聖霊の住処。だからこそ、あの様な絶大な威力を持っている。…聖霊は、魔剣と共にある」


最後の台詞だけ苦しげに吐き捨てた後、カイは質問をさせないために全てを語り出す。


昔々の、とある一人の男の復讐の物語を。


「昔、ある所に一人の男がいた。有名な魔導師であったその者は、聖霊の力を人が扱える物の元に封入しようと考えた。森羅万象の力。この力を我が物にしようとしたんだ。その媒体は、剣や弓、槍などの様々な武器に試された。魔導師の目論見は成功し、人の身でありながら森羅万象の力を操ることができるようになった。しかし、魔導師はその実験が成功したあとすぐに死んだ。復讐をなすこともなく」


そこで一旦区切り、さらに語る。


悲劇の男の話を。聖霊と共に歩めなかった、悲しみの男の話を。


「聖霊にも自我があるからだ。己が認めない相手に、力を使わせはしない。だからこそ、聖霊たちは魔剣と呼ばれる物の中に住み、選定者となった。相応しい者にしか、この力を扱わせないために。そこで生まれたのが、聖霊と交流が深かったスピリティアの子孫たちだ。その者たちが聖霊の同行、魔剣の所持者を監視し、正しく導いた。それが、俺たち双子だ」


過去を語り、今の事を語る。


簡単なようで難しい、その代行者の双子の兄は、少し悲しそうな顔をしながら語るのを止めた。


「じゃあ…今僕の中には魔剣と同等の物が取り込まれているということ?」


「そういうことになる。今はまだコントロール出来ていないだろうけど、いずれ取り出せる」


「あたしは魔剣と同等のものなんか持ってないわよ? この杖だって、シオンの所の王様から貰った者だし」


「アイシーはその者に相応しい形の拠り所を見つける。お前の場合は多分、その馬鹿みたいな量の魔力量だろう。願ったんだろ? 力が欲しいって」


シオンとユフィーの言葉に答えながら、カイは少しだけ遠い目をして空を眺めた。


赤みがかった空を見ながら、カイは一人呟いた。


「俺の知っていることはこれだけ。後はユリにでも聞いてくれ。ユリの方が聖霊については詳しい」


空を見上げたままそう言う彼の背中には、どこか役目を終えた戦士の雰囲気が漂っていた。







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