民衆の中で
ガヤガヤガヤガヤ…
ポポンッパパパンッ
フォーゲルノート帝国の首都、センシミアの街は、かなりの人で溢れ返っていた。
王宮のある街の中心部を、円上に取り囲むように出店が出回り、周囲にはめでたい日を祝う人が酒盛りをしている。
そう。ここは戴冠式が行われる会場であり、皆新しい王を祝うために集まっているのだ。
人の出生が絡んでいるということもあり、戴冠式はかなり不定期に行われる。
最低でも十八年というスパンがあるため、国民はかなりこの儀式という名の祭りに敏感なのだ。
そして、ここにも戴冠式という名の祭りを楽しむ者の姿があった。
年は若く、今まさに戴冠式を浮けようとしている少年と同じくらいであろう。
長い金髪の髪を黒いリボンで二つにまとめた、落ち着きの感じられる翡翠色の瞳を持った少女だ。
そんな少女が、目の前にいる自らの友達であろう小柄な少女を見てこう言った。
「ちょっと、ミーナ。あんたハシャぎすぎじゃない?」
「えー、そうでもないよ? ってか、ユフィーが全然ハシャいでないんだってば。愛しの王子様がいるかもしんない場所にいるのにさー」
「なっ! ミーナ、何を言って…! あ、あたしはそんなのなんか…!」
ミーナと呼ばれた小柄な少女は、ユフィーと呼んだ金髪の少女をからかうように舌を出して言う。
その言葉を聞いたユフィーは、ひどく狼狽しながら手を前に突き出して否定しようとする。
だが、薄緑色の長めの髪を指先で弄びながら、ミーナは最後の言葉のストレートを言い放った。
「えー、いいじゃんいいじゃん。好きな人がいるって言うのは良い事だよー」
「……///」
「わー、顔真っ赤ー!」
「…っ///! …こ、の! 待ちなさい!」
それにボンッと言う音が聞こえてきそうなほどに顔を真っ赤にさせてしまうユフィー。
だが、ミーナが言ったからかいの言葉に腹を立てたのか、顔が真っ赤のままだが手を振りかざしてミーナを追いかける。
ミーナはそれが分かっていたようで、すぐに踵を返して逃げ出していた。
「うわーユフィーが怒ったー逃げろー」
「棒読みで、言うな!」
ガツンッ
「いだっ!」
振りかぶっていた手を、ミーナの頭の上に綺麗に振り下ろす。
すると、決して人の頭から出てはいけないような音と、女の子らしくないような声をミーナがあげた。
殴られた頭をさすりながら、ミーナは恨めしそうに青紫色の瞳に涙を溜めながら、ユフィーを見つめてこう言った。
「うーー。何も本気で殴らなくったっていいじゃん…」
「あのね、本気で殴らないと意味ないでしょう?」
殴った手をプラプラと振りながら、ユフィーはミーナにそう言う。
その発言にミーナは気に食わない所があったらしく、ユフィーに食ってかかった。
「いたいけな少女にその発言! 許されないと思うのは私だけでしょうか!?」
「知らないわよそんなの。だいたい、いたいけな少女って何よ」
「あー! もう! 今までもの凄く可愛かったデレてるユフィーはどこ行った!? ツンデレって疲れるんだよ!?」
ドカッ!
「キュウゥ…」
かなり大きな音と共に、ミーナが呻き声をあげながら沈黙する。
その頭に、大きなたんこぶをつけて。
そして、そのたんこぶを作ったユフィーは、ミーナとは逆の方向を向いていた。
腕を組んで顔を背けてはいるが、耳の先まで真っ赤にさせているのを隠すことはできていなかった。