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アクレニア戦記 ~二つの決意~  作者: 冬永 柳那
四章 目覚める、時
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負傷



「武器は何使うの? 私は当然、これだよ!」


頭の上でレストーションを一回転させると、足を大股に開いた状態でどっしりと槍を構えるカナ。


その構えを見て、ユリは数瞬悩んだ後ゆっくりと口を開いた。


「…本気でいっていいんだよねー?」


「もちろん! ってか、本気できてくれないと悲しい」


「じゃあいくね♪ …おいで? 『ライトディボルス』」


淡く光る白色の異質な光がユリを包み込む。


それを振り払うようにユリが大きく手を振った瞬間、その光は消え、ユリの左手には淡く光る白色の剣が握られていた。


ユリは、その剣を地面に突き立てるように下に向けて構え、カナを見つめる。


その目は、完全に挑発の念が込められていた。


「………」


だが、カナは黙っている。


戦闘に入るために、かなり集中しきっているのであろう。あの時のようなことは起こらない、と見ているシオンたちは思っていた。


そう、思っていた。


「…んじゃ、いっくねー」


そんな事を知らないユリは、先手のために動き出す。


動き始めた足を止めることは困難だ。普通に考えれば。


だが、その動き出した足を、カナは簡単に止めた。


───その声によって。


「すっっっっっっごーーーーーーい!!!! 魔剣だよ魔剣! 私の人生の中で二本目の魔剣! ってか、最近すごいことありすぎーーーー!!!」


「「っ!!」」


「「「………」」」


完全に予期できなかった双子は、その大音量の声に驚いて耳を抑える。


残る三人は、カナの息を吸い込む姿を見られたために、平然と最初から耳を抑えていた。


ユフィーだけは顔をしかめているが。


「すごいすごいすごい! じゃあ戦おう。ほんとにすごいもん!」


「うっ…。頭がクラクラするよー」


頭に手を当てながら少し体をフラつかせているユリ。


だが、すぐにユリのその凶刃はカナに迫った。


ガギン


鈍い音をたてながら、カナのレストーションとユリのライトディボルスが交差する。


飛ぶようにして移動したユリが、空中に浮いたまま体ごと斬りかかったのだ。


その斬撃を、カナは鉄槍であるレストーションを活かし槍全体のしなりで受け止める。


そしてそのまま槍を回転させてユリの体を吹き飛ばした。


「あっぶなー…。早すぎでしょ、その動き」


「そんなことないよー。だって、ユリよりカイの方が強いもん」


両者油断無く武器を構えながらお互いを睨む。


その間にユリはカイの方を向き、笑いかけた。


「こっち向いてるわよ、あの子」


「そうだね。と言うより、二人共すごい…」


「ほんとにすごいです…。あんな動きが出来るなんて、ほんとにすごいです…」


「…どっちも頑張れ」


外野の四人が口々に一連の行動に言葉を漏らす。


ギィン…


その言葉を交わしている間にも、カナとユリの戦闘は続く。


それを見たユフィーはカイに質問を投げかけた。


「あんたたちは何であたしとリィナの魔法が使えることが分かったの? 見たところ、何も特別な事はしていないようだけど…」


「簡単。魔力を見ただけ。それにあれもあったから」


「あれ? ああ、風燐華ね」


カイがリィナの腰にある刀を指差し、その原因を語る。


「あんなもの簡単にぶら下げてたら誰でも分かる。それに、お前たちが言ったように俺たちは聖霊の代行者。分からないはずが無い」


「…それなんだけど、聖霊の代行者っていうのは何なの? あいつらは自分の事を選定者と言っていたけど」


「それであってる。そして、それが魔法を扱う要。鍵だ。聖霊に気に入られる。これが重要」


「確かにそんな事を言っていたけど……」


ドゴォォォン!!!


すさまじい爆音が鳴り響き、ユフィーの言葉を途中で遮ってしまう。


その音が鳴った方向を見ると、カナとユリの戦っている所の真ん中に、大きな穴がぽっかりと開いていた。


ちょうど切り結んだ後だったために直撃を免れたのであろう。その開いた大きな穴をみつめ、呆然としている。


ガラガラガラ…


穴の周りにできた土くれが音を立てて崩れ、その中からある物が現れた。


「グルルルル…」


唸り声と共に現れたのは、巨大な体躯を持った漆黒の毛並みを持つ異形の獣。


鋭く光る牙を剥き出しにし、ありえない方向に飛び出る無数の爪。その一つ一つが、命を刈り取る光を放っていた。


赤く滾った目は真っ直ぐに、ある者を捉えて離さない。


カイと話していたユフィーを。ただ真っ直ぐに、他の者には目もくれず。


「あたし?」


「ユフィー!」


今までの流れとして自分が狙われると思っていたシオンは身構えていたが、何の身構えもない、さらに言えば後衛であるユフィーに、疾駆する巨体を避ける術は無かった。


その事にシオンが叫び声を上げ、助けに入るために体を動かす。だが、届かない。


魔物の動きに人が勝てる訳が無いのだ。


「ガァァァ!!」


「うるさいな。まったく」


今まさに飛びかかろうとしていた獣を、カイが気だるそうな声と共に受け止める。


素手ではとても止められないと思われた重量の突進に、カイは両手を掲げて受け止めていた。


その手の先に、闇色の光を携えながら。


「『コーガディーガ』か…。何でこいつがこんな所に」


カイは魔物の名前を呟きながら、必死にカイを噛み千切ろうとするその牙を弾いて距離をとる。


そして、始めて表情を変えた。


獰猛な笑みに。楽しそうな笑みに。嬉しそうな笑みに。


「…だが、俺の前に出たからには殺す。…行くぞ『ダークディボルス』」


薄く光る闇色の異質な光がカイを包み込む。


それを振り払うようにカイが大きく手を振った瞬間、その光は消え、カイの右手には鈍く光る闇色の剣が握られていた。


ユリとまったく同じ形をした、しかし色と雰囲気のまったく違う魔剣が。


その剣を掲げ、カイは叫ぶ。魔法の呪文を。


「…引きずり込め、闇の引力の力を持って。敵を地面へ縫い付けろ、闇の引力! 『重力の鉄槌(グラヴィティ・ミョルニル)』!」


一瞬だけ瞬いた黒色の光は、何事もなかったかのように剣に飲み込まれる。


だが、その魔法は標的に届いていた。


ズズン…!


コーガディーガの巨躯が、盛大な音と共に地面に縫い付けられる。


体中の骨という骨が悲鳴を上げ、体の上から少しずつ圧力がかかっていく。


だが、その圧力を持ってしてもコーガディーガは動くのを止めなかった。


「グガァァァ!!」


「うるさいんだよ」


いつの間に移動したのか。


コーガディーガの丸い鼻を蹴り飛ばし、自慢の牙を踏み潰す勢いで踏みつけるカイ。


そしてそこからは、蹂躙が始まった。


「ククク…なぁ、もっと強いんじゃないの?」


剣を振る。


「ハハハハ…もっと動けよ。俺の前に出てきたんだから」


裂傷が刻まれ、鮮血が飛び散る。


「あっはっはっは! もっと鳴けよ! もっと、もっと、もっとさぁ!!」


返り血を体に盛大に浴びながら、コーガディーガの体を切り刻んでいくカイ。


その手に持つ闇色の魔剣は、そのカイの笑い声と血を浴びながら、その色を更に濃くしていった。


その間も、カイの笑い声と蹂躙は止まない。


相手が絶命していると分かっていても。


「…止めてよカイ…戻ってよ…お兄ちゃん…!」


その狂っていく兄を、ユリが腰に抱きついて止める。


涙で顔を濡らしながらカイをみつめ、その腰に抱きつく力を強めるユリ。


すると、カイの笑い声が止み、いつもの無表情でユリの頭を撫でた。


「…悪いな。いつも」


「ううん…。ユリは、カイが戻ってきてくれると信じてたから」


その双子の奇妙な一面を垣間見た四人は、まったく声が出なかった。





「ちっ、面白くねぇなぁ…。しっかし、あんな弱ぇもん送ってくんなってんだ。ま、俺様がちょっかい出してやるかねぇ。『目覚めよ、時ぃ』ってなぁ。クハハハハ…キヒヒヒヒ!!!」





ドスッ


「え?」


シオンは急に生まれた自らの胸への衝撃に声をあげた。


軽く殴られたぐらいの、何ともない衝撃。普通なら見逃しそうな衝撃だったが、その後に感じた熱さにシオンは声をあげたのだ。


「…な…んだ…これ…」


胸に開いた穴に手を運び、その貫通した穴を塞ぐように手を重ねる。


だが、そんなものは全く役に立たない。溢れ出した血を見て、シオンは倒れた。


周囲の紅を、自らの紅で更に染めながら。


その光景を目に止めた後、シオンの意識は闇に呑まれていった。






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