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アクレニア戦記 ~二つの決意~  作者: 冬永 柳那
三章 真実の一端
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決意の在り処


シオンが放った、港での一部始終の状況、その思いに、場は静まり返っていた。


「…ルナニスクルメア…。聞いたこともないな。…クーよ、いるか!!」


「はいにゃ、王様!!」


突然天井から降ってきた影は、シリアナの目の前で臣下の礼を取る。


その現れたビルスティアの少女に、三人は驚いて声もでなかった。


「『ルナニスクルメア』、『魔物の名前を名乗る男たち』。この二つを中心に何か出てこないか探してきてくれ」


「分かったのにゃ!!」


頭に生えた猫耳と尻尾を揺らしながら、クーと呼ばれた少女は天井へと飛び上がった。


その処理しきれない行動の数々に耐えかねたシオンは、シリアナに質問を投げかけた。


「王…先ほどの者は…」


「ああ、あ奴か。あ奴の名はクー。王国の隠密部隊の隊長をやっている者だ。とは言っても、一人しかいないのだがな」


「そんなものがあったんだ…」


「まぁ気にせんでくれ。それで連合の話だが、そなたの話の通りであるのであれば、早急に事を進めねばならん」


「はい。復讐なんて馬鹿げてる…」


唇を噛み締め、悔しさや苛立ちの入り混じった感情を露にするシオン。


だが、そのシオンに対しシリアナが投げかけた言葉は意外なものだった。


「よいではないか、復讐など。それで晴れるというのなら」


鼻で笑いながら、シオンの口上を無下にするシリアナ。


「…過去に縛られたまま生きて、どうなるっていうんですか」


「人は過去に縛られて生きるものだ。誰でもな。過去があって、今がある。今があるから未来があるのだ」


そこでシリアナは一度言葉を区切ると、シオンに向かって諭すように言葉を紡いだ。


「未来はただそこにあるものではない。掴み取るものだ。過去の過ちを、過去の思いを引きずりながらでも、それは掴み取れる。未来を、過去より良くしようとする者の手ならな」


「…それでも、復讐は間違ってる。それで悲しむ者が増えたら、それはただの自己満足だ」


「それが分かっているのがそなただ。ただ、頭ごなしに否定するのではない。すべてを受け入れ、そこから意見を出せ。それが上に立つ者の語りだ」


「上に立つ者の語り…」


「そう俺は思っている。まぁ、人の考えなどそれぞれだ。各々の最善の考えを示せ。そしてそれを信じろ。さすれば、必ず良い未来が掴めるはずだ」


玉座に座り直しながら、シリアナはシオンに自らの思いを語る。


王としての先輩からの意見として。一人の男としての意見として。


それが、シリアナが出した『息子を頼む』の言葉の答えだった。


「さて、他の者にも聞いておこうか。その二人の少女にもな。敬語はいらん。話してくれ」


手を差し出しながら、ユフィーとカナの意見を聞こうと促すシリアナ。


「…あたしは復讐でもいいと思ってるわ。実際、相手は魔物だけど復讐に似たようなものを誓っているし」


「ほう? 友か? 家族か? 失った者があるのだな」


「友よ。大切な、ね」


遠い目をしながらシリアナの質問に答えるユフィー。


その目には、ミーナの姿が映っているのだろうか。


「…ならそなたはどう思っている? 復讐を果たせたときの、未来がそなたには描けているのか?」


「え?」


「復讐とは、自分を殺してさえも憎き相手を討つ行為だ。それだけが原動力になっている事も多い。それが無くなった時、そなたは未来を生きれるのか?」


静かな目でユフィーを見つめるシリアナ。


「それは……生きれるわ。必ず。あたしは他にも、生きる意味があるから」


チラッとシオンを横目で見た後、ユフィーは自信満々に答える。


その時に見える、無意識の内に放たれた氷の空気に、シリアナは満足そうに頷いた。


「良い覚悟。良い思いだ。さて、そなたはどうだ? シオンとこの少女、ハーキュリー家の者の話を聞いてどう思う?」


今度はカナに手を向け、話を促すシリアナ。


萎縮した様子のカナだったが、その促しの言葉に合わせて語りだした。


「…私は正直、そんな気持ちなんて、思いなんて持ってない。トレジャーハンターの仕事だって、気がついた時にはなってたし…まぁ、お茶は好きだけど…」


明確な答えは無いようで、他の三人のような思いが無いことを申し訳なさそうに答えるカナ。


だが、シリアナはそれを簡単に認めた。


「よい。悩みが無いことはすばらしい。だが、それでは生きている事にハリが無いだろう?」


「いやでも、元気に生きようとか、明るくしてようとか思ったことはあるよ? だって、自分から楽しくしてないと、楽しくならないでしょ?」


「それが分かっているのならいい。そこからそなたの思いを見つけよ」


「そんな簡単に言われてもなー…」


「ふ…。簡単に言ってしまって悪かったかな? そなたの思いは、先ほどの言葉の中にある。これが俺から言える、最初で最後のヒントだ」


「???」


薄く笑ったシリアナの表情と言葉の意図が分からず、首を傾げてしまうカナ。


そんなカナを見てシリアナはもう一度薄く笑った後、三人に切り出した。


「さて、俺がこんな話をした理由を言っておこうか。正直、良く分かっていない状態で答えていただろう?」


玉座の肘掛に体を預けながら、シリアナは語りだす。


エスカレルニア王国、国王としての言葉を。


「たったこれだけに人数でも、思いが被ることはない。人はそれぞれ生きているのだから。だからこそ、このような事件が起きると俺は思っている。人が人として生きる限りはな」


今度は立ち上がり、シオンに向かって歩み始めながら独白を続けるシリアナ。


「だが、その考えは間違っている。それではすべての事件を容認していることと同じだからな。そうおもうであろう?」


シオンの前で立ち止まり、確認とも取れる声音で語るシリアナ。


その声に、シオンは自らの意見を被せた。


「はい。でも、王の考えの下ではそれが正しいと思ってらっしゃるんですよね?」


「ああ。人が人である限りその行為はなくならない、そう思っている。忠臣達には怒られてはいるがな」


シリアナは次にユフィーの下へと歩き出す。


「そなた達の思いは、そなた達自身の思い。彼らの思いは彼らの思い。その思いが交錯するからこそ、人の思いは面白いのだよ」


「…でも、それでは理解は無理ではなくて? だって、認め合ってしまえば、考えをぶつけることは、思いを語り合うことは出来ないわ」


もっともの意見をユフィーがぶつける。


結局、シリアナが言いたい事とは『分かり合う事』だ。


人が人として生きるためにぶつかり合うのなら、お互いがお互いを認める必要がある。


ならば、『分かり合う事』こそが重要なことではないのか。それをシリアナは言っているのだ。


だが、それではその諍いが必ず起こる。分かり合わないために。


「それはもっともだ。重々承知している。だが、だからこそ大切なのだ。人と人が理解しあう。共通の目的のためにやれることが」


そこまで言って、シリアナは最後にカナを向いた。


「この少女が言った、『楽しく生きる事』。これが重要だと俺は思っている。誰もが楽しく生きられる、なら、不満も起きまい」


「え? え? 私が良い事言ったの?」


カナはあまり分かっていないようで、軽く狼狽してしまっているが。


だが、それを意に介さずシリアナは言葉を続けた。


「ま、何が言いたいかというと、簡単にまとまってしまうのだが…。…『連合結成の条件は、人が楽しく生きられる世界を目指す事』だ」


本当に簡単に纏めてしまったシリアナは、その言葉を言った後、再び玉座へと戻ってしまった。


「…じゃあ、大丈夫なんですね? 連合のことも、ルナニスクルメアの事を止めることも」


「ああ。だが、今は情報が無い。クーが戻るまでには時間もかかるだろう。ゆっくりとしていくがいい」


「はい。お言葉に甘えて、ゆっくりとさせて頂きます。あ、リィナに関してはどうしましょうか。出て行ってしまいましたけど…」


「それは騎士団のものが連れて来るだろう。無論、そなたら四人で続けるのであろう? 真実を確かめる為に」


「はい。僕が必要とされている理由、僕の『力』が何なのか。それに僕が動けば奴らも来るでしょうから」


「あたしは最初からそのつもりよ。あたしの生きる意味も、したいことも、全部ここにあるのだから」


「楽しそうだからね。友達と一緒に行くのは、当然のことだよ!」


その三人の言葉を聞き、シリアナは満足そうに頷く。


そして、三人を代表するようにシオンがこう言った。


「僕らは、旅を続けますよ。だって、まだやらなくちゃいけない事がありますから」






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