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アクレニア戦記 ~二つの決意~  作者: 冬永 柳那
三章 真実の一端
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連合結成


「はい。では共に参りましょう。このまま移動していれば、一日程度で王都には着けますので、どうぞ疲れをお取りになって下さい」


「分かりました。ありがとうございます」


「いえ。先触れは出しておりますので、着きましたら謁見の手筈は整っているはずです。それまではどうかお休みになってください」


ナリアがそう言い残し、天幕の中から出て行く。


その受け答えを終えたシオンは、急に肩の力を思いっきり抜いた。


「…ふはぁ…。やっぱり畏まった言い方は疲れるよ…」


「何言ってるのよ、王族のくせに」


「王族だけど、僕の帝王学嫌いは有名だよ? 何回も逃げ出してたし」


「…その一貫であたしの村に来ていたりしたの?」


「そうともいうね」


揺れる天幕の中で、ユフィーとシオンはそんな会話をしていた。


シオンたちがいる場所は、比較的温厚な大型の魔物の『シュタルゲルト』の背中に作られた天幕の中だ。


騎士団では急を要する案件や、単独行動を行う以外には馬を使わない。


ただでさえ規模が大きいために、それだけの馬を用意する力が無いためだ。


そのために、長距離の移動は魔物を使っているのである。


「シオンさーん。食事貰ってきましたよー」


「お肉だお肉ー」


その天幕の中に、手に持てるギリギリの量の食料を持ったリィナとカナが戻ってくる。


帝国から来た理由や、その他諸々を説明する必要があったシオンとユフィーを見て、二人が気を利かせてくれたのだ。


「ありがとう二人共。…って、カナが持ってるのお肉しかないじゃないか」


「いけない? お肉は力の源だよ?」


「いや、それにしても持ってきすぎでしょ」


カナの両手、いや、体全体を覆うように持たれた様々な種類の肉は、かなりの量があった。


そのうちの一切れを口に運び、おいしそうな表情を浮かべるカナに、シオンはまたもため息を吐いた。


シオン。今日は厄日ではないのだろうか。


「リィナはバランスよく持ってきてるけど、何で甘い物が多いのかしら?」


「…糖分は頭を動かすのに重要だって、兄様に聞いたからです」


「なぜ目を逸らす」


ユフィーはリィナの持ってきた食料を検分し、リィナに聞く。


周到に隠された甘めのデザートやフルーツ類の多さの理由を。


「…だって、食べたかったんですもん…」


そう言われてしまっては汎論も出来やしない。


諦めたユフィーは、その手の中にある一つのフルーツを取り出し、かじる。


「…むぐ…美味しい」


「ですよねですよね! じゃあもう食べちゃいましょう。残すなんてもったいないです!」


「そうだね。じゃあいただこうか」


「いただきまーす!」


そして、シオンの音頭とカナの元気な答えと共に食事は始まった。





「「………」」


荘厳な雰囲気の城の存在感に、ユフィーとカナは呆然と立ち竦んでいる。


対して、シオンとリィナの二人は何も感じていないようにその場に立っていた。


それもそのはずだろう。この二人に関しては王族と王国お抱えの客員剣士の家系に生まれているのだ。


慣れていないという方がおかしいだろう。


一般庶民であるカナや、ただでさえ王国に来たことが無いユフィーにとっては、少々刺激が強すぎるのかもしれない。


「こちらになります」


ナリアの案内により城の中へと招かれる四人。


終始城の中身を面白そうに眺めていたカナ以外は無言で。


「うわ! ねぇねぇシオン君、メイドさんがいるよ! やっぱりシオン君の所にもいたの?」


「…カナ? 静かにね」


そんな軽い騒ぎを起こしながら四人が向かったのは、玉座。


謁見の場でもあり、この城の中心でもある。


「はっはっはっはっ! よく来てくれたな! 心から歓迎するぞ、王子よ!」


その玉座に座っていたのは長身で骨太の男。


『武王』とも呼ばれる、ここエスカレルニア王国の王だ。


シオンの父、クルトよりも若い印象を受けるその体からは、一種の威圧感を感じる。


右目に大きくかかる紫色の髪を揺らしながら、シリアナ・リース・フィールダーその人はシオンに手を差し出した。


「こちらこそ。突然押しかけてすみません。あと、王子っていう呼び方はちょっと…」


「む、そうか? なら殿下で良いか?」


「シオンでいいですよ」


「ふむ。なら俺もシリアナで良いぞ。堅苦しいのは俺には似合わない」


「ははは。でしょうね」


手を握り合いながらそんな会話をしている国王と王子。


話している内容としてはかなり軽いのだが。


その様を見ているユフィーとカナは、かなりの異次元な場所に自分たちがいることを理解し、若干身を引いていた。


「ん? おお、そなたはハーキュリーの所の娘ではないか。シオンと共に来たのか?」


直立不動で立っていたリィナの姿を、シリアナが見つけ手を差し出してくる。


「は! とある偶然により帝国に出向いておりまして、そこで出会いました。そこからは旅を共にさせていただいております」


リィナの口から飛び出たかなりの固い発言に、残る三人は驚き、シリアナは苦笑いした。


「やはりそなたは固いな。いや、あの男が柔らかすぎるだけか」


「兄様でしょうか? その男というのは」


「ああ。あの男と話すのは気が楽だ。後、心配しておったぞ? 急に王国から消えたこと、家出してきたことを」


「う…。あ、あれは…」


「まあいい。大筋は知ってはいるからな。そこで俺からの言葉だ。あまり気にしなくても良い。『そなたのしたいことをしろ。さすれば、必ず道が見える』」


「したいことをする…」


シリアナの口から発せられた威厳のこもったその声に、リィナはシオンの言葉を思い出す。


『それに、そういうのは贅沢な悩みって言うんだ。分からないなら、お兄さんがリィナの事をどう思っているのかを知りたいなら、全力でぶつかってみなよ。きっと、いい経験になると思う』。


その言葉がリィナの脳裏に流れ、決意を濃くしていく。


「…王。兄様が今どちらにいるかご存知ですか?」


「…ふむ。…あ奴なら確か、騎士団の団長であろう? 団舎にいけば分かると思うが?」


「分かりました。ありがとうございます。失礼致します!」


面白い物を見たというような目でリィナを見つめた後、シリアナはリィナに情報を与える。


その情報を聞いたリィナは、すぐに玉座から飛び出して行ってしまった。


「…これでよいな。若者の旅路を見るのは良い物だ」


「…そんなものですか」


「ああ。で、案件を聞こうか。かなり逸れてしまったがな」


「あ、はい。これです。僕達がここに来た理由です」


「…むぅ…」


シオンが取り出したのはクルトが認めた文。


その文の中身を読んだシリアナは唸り、シオンにその目を向けた。


「…帝都崩落…そうか。王国でも帝国でも同じようなことが起きている。先だって、そなたらも魔物の襲撃を港で撃退したとか」


「はい。その知らせを届ける事が、僕等の指名です」


「…なら、この文字はどうなるのだ?」


読んでいた文をシオンへと向け、そこに書かれていた文字を見せるシリアナ。


そこに書かれていた五文字の言葉に、シオンは驚きを隠せなかった。


『息子を頼む』。この五文字の言葉に。


「…ははは。さすが父上だ…」


乾いた笑いをこぼし、その言葉の真意を受け止めるシオン。


シリアナの性格は豪胆。そして雑だ。ならばこの言葉の取る意味とは───


「シオンよ。そなたの好きにしていいようだぞ?」


やはり、悪く言えば投げやりな方だった。


「…分かりました。なら、僕の思いを伝えます。そして、港での襲撃で起こったこと、分かったことを」


「…ほう?」


一度唾を飲み込み、滅多にしたことが無い経験にシオンの体が強張る。


だが、意を決し、言った。


「連合を組んでもらいたいのです。王国と帝国、二つの国が力を合わせるんです」






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