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アクレニア戦記 ~二つの決意~  作者: 冬永 柳那
三章 真実の一端
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仕組まれた襲撃


「………」


宿屋から出てきたユフィーは考えていた。


なぜあんな事を言ったのか。なぜ出てきたのか。なぜ、こんなにもムシャクシャするのか。


その答えは分かっている。


カナだ。カナの元気な性格、言動、雰囲気。一つ一つが似ているのだ。


ユフィーのその腕の中で命を落とした友人、帝都崩落の際に命を散らしたミーナ・ルナーシアに。


極度の人見知りが攻撃的になったユフィーでも、初対面の人間にあんなに敵意を向けたことはない。


それだけ突き刺さるのだ。


友人を守れなかった現実が。


そのためユフィーはあんな態度をとってしまったのだ。


「…らしくないわね…」


呟きを漏らす。


割り切ると決めたあの時に、そんな思いを二度としないために強くなると誓ったのに。


今でも、ユフィーの心は贖罪を求めていた。





「ユフィー! どこだー!」


突然出て行ったユフィーを探して、シオンは港へと出てきていた。


ユフィーのどこか固かった自己紹介。そしてその後に放たれた氷の言葉。


シオンも薄々感じていた。カナが似ているのではないかということに。


ミーナ・ルナーシア。ユフィーの友人で、シオンも王子という肩書きを極力隠して村を巡っていた時に知り合った少女だ。


良く言えば元気。悪く言えばウザい。そんな少女だった。


シオンがユフィーの村でお世話になっていたときにも、ユフィーとミーナはどつき漫才のようなことを繰り返していた。


その事を思い出し、シオンはユフィーの事が心配になって追いかけてきたのだ。


「…ユフィー、変な事してなきゃいいけど…」


早々簡単に早まったことはしないとは分かっているシオンだが、それでも心配せずにはいられなかった。


とは言っても、土地勘のない場所で逸れてしまってはどうしようもない。


連絡手段のないこの状況では、どうする事も出来ないのだ。


「…探すしかないか…。でも、どこから行こうか…」


「それならここからならどうです?」


「っ!」


突如真後ろから聞こえた聞き覚えのある声に、シオンは嫌な予感を覚えて飛んだ。


カテドラルを抜き放ちながらその声の主に向かって叫ぶ。


「何の用だ! 『ヒーナス』!」


「おお怖い。そう怒らないでください。今回もお話だけですよ」


「話? それなら僕もある。去り際にいった言葉…『時の少年』って一体何?」


シオンにはずっと引っ掛かっていた。会ったことも見たこともないような人間に、急にターゲット呼ばわりされ、果てには謎の単語を投げかけられる。


何のためにそんな言葉を言ったのか、そして、なぜ魔物の名前を名乗っているのか。


分からないことばかりだった。


だが、『ヒーナス』は口を不気味に歪ませ、こう言った。


「その事ですか。お答えしてしまえば非常におもしろくなくなるのですが…まあいいでしょう。本来はこの話のためだったのですから」


一人で納得したように頷く『ヒーナス』。


そして、シオンに向かってゆっくりと手を差し出した。


「我々と共に来ませんか? 世界を変えるために…」


「世界を…変えるため…? 何を言っているんだ! 僕が言ったのは『時の少年』と言ったことについて教えろと言うことだ!」


「安易に説明していますよ? あなたの力が必要です。私たち、ルナニスクルメアの悲願のために」


「ルナニスクルメア? それは一体…」


聞きなれない単語を聞かされたことにより、シオンの困惑は最高に高まる。


それを好機と見たのか、『ヒーナス』はまるで演説を行うように高々と宣言した。


「さぁ! 私の手を取りなさい! あなたの力は世界を壊し、そして創造する力! その万物を越える力があれば、世界は変わるのです!」


「…っ! 僕にそんな力は無い! もし仮にあったとしても、僕はそんな思いで使ったりはしない! 世界を変えるなんて、そんな馬鹿げたこと…!」


パチン!


シオンの言葉を遮るように、『ヒーナス』が空に向かって指を鳴らす。


その異様な音の大きさにシオンが違和感を抱いていると、空が真っ黒に染まった。


「なっ! これはシンセミアの時と同じ…」


「議論は平行線をたどるようですね。それに、あなたもまだ力には目覚めていない。なら、じっくり待ちますよ。我々が耐えてきた年月に比べればずっと少ない時間なのですから」


またも意味深な台詞を残しながら『ヒーナス』はこの場から離脱しようとする。


「待て! この魔物達は、君が操っているのか!? そしたらなぜ!」


「ええ、その通りです。そしてこの一連の魔物の襲撃事件、私たちルナニスクルメアが行っています。…復讐のために…」


「…復讐? っ! ま、待て!!」


シオンの制止の言葉も虚しく、『ヒーナス』は飛び上がり空の黒と同化してしまう。


そして、それが襲撃のサインだったらしく、空を埋め尽くしていた黒色が一部分ずつ欠けていく。


空からの突進を開始したヒーナスの群れが、王国の港町を襲っていった。


「くそっ。ユフィーを探さないといけないし、リィナとカナも……ええい!」


的確に自分だけを狙ってくるヒーナスを切り伏せていく。


その執拗な数の邪魔者に、思考がまともに纏められない事に苛立ちを覚えるシオン。


「これだけ狙われてちゃ…。…もういい。考えるのやめだ。…全部倒す!」


カテドラルを構え、かかってこいと言わんばかりに煽るシオン。


その挑発が届いたのか、ヒーナスは今まで以上の大群でシオンに襲いかかってきた。




ガシャァァン!!


宿屋にいたリィナとカナは、突然のガラスが割れる盛大な音に驚いた。


ドゴォォン!!


「う、うわぁぁ!!」


「キャァァ!」


「ま、魔物だーー!」


さらには壁が吹き飛ぶ音、人々の悲鳴を聞き、リィナとカナは顔を見合わせた。


「カナさん…」


「うん。なーんか、嫌だね。シオン君とユフェルニカちゃん、無事かな?」


「大丈夫ですよ! お二人とも強いですし!」


「そっか。ならリィナちゃん。私たちがやることは、一つだよね」


「はい!」


大きく二人で頷きあった後、カナとリィナは宿屋を飛び出した。


もちろん、お金は置いたままで。


そして、二人の目の前に飛び込んで来たのは、真っ黒な空と、魔物の嘴だった。


「せやぁ!!」


それをいち早く察知したカナが、身を捻りながら『レストーション』を振るう。


体の円運動に合わせて振るわれたレストーションの柄は、ヒーナスの頭を捉え地面へと叩き落とした。


「おー! すごいですね! って言うか、それで殴れたんですか?」


「そうだよ? 鉄槍だからねー。固いのさ」


素直にその技に感心するリィナに、カナはレストーションを担ぎ直しながら答える。


だが、そんな悠長な構えをしている暇は無かった。


「って、そんな事より早く住民を逃さないと!」


「あ、はい。分かりました!」


そのカナの一言を境に、逃げ惑う住人を先導しなるべく被害の少ない場所へと先導する二人。


不可解な事に、かなりの大人数で移動していたはずの二人だったが、まったくと言っていいほどヒーナスは襲ってこなかった。


だが、その事は今の二人には関係ない。


今は住人の無事が優先なのだ。


「ご無事ですか!?」


「あ、王国騎士団の人だ!」


その二人の前にやってきたのは、ごくごく一般的だが少し装飾の多いコートに身を纏った女性。


頭に生えた狐耳とふわふわと揺れる尻尾から、ビルスティアであることが分かる。


「ええ!! ナ、ナリアさん!?」


「リィナ様!? どうしてこの様な所に! と言いますか、心配したんですよ!? 家出などなさって!」


「え? 家出? リィナちゃんって家出少女だったの?」


「ち、違いますぅ! ああもう! ナリアさんがここにいるって事は、もう安心してもいいんですよね!? 私は試したいことがあるので戻ります!!」


偶然の再会に戸惑いながらも、リィナはきっぱりと言い放つ。


焦りと恥ずかしさが入り混じった、奇妙な赤い顔ではあるが。


「あーあ、行っちゃったよ…。で、騎士団の人。ここの住人の安全は、あなたたちが持ってくれるの?」


「え? あ、はい。責任を持ってお守り致します」


暴風のようなリィナの動きに、ナリアは半ば呆けていたが、すぐに持ち直してカナの質問に答える。


その答えを聞いたカナはすごく満足そうに笑った後、ナリアに続けてこう言った。


「んじゃ、私も戦いに行くんで、よろしくお願いします」


シュタッっと言う音が聞こえてきそうな見真似の敬礼をした後、カナはリィナの後を追いかけていった。


「あ、ちょっと!! …大丈夫でしょうか…。リィナ様は重度の方向音痴だというのに…」


ナリアの懸念は、知り合って数時間のカナには分かるはずが無かった。




「凍てつく氷塊。彼の者へと降り注げ! 『氷塊ノ(アイブロワ・レイン)』!」


向かってくるヒーナスの群れに向けて、魔法を発動する。


その魔法に合わせ群れの頭上に現れた拳大の氷の塊は、的確にヒーナスを一体一体潰していく。


向かって来ていた群れの一角を潰したユフィーは、そこで少しため息を吐いた。


「…ふぅ…。…すぅ…はぁ…」


魔力の流れを見極めるため、ため息を深呼吸に入れ替えるユフィー。


魔力は体力と似ている。使えば無くなるし、落ち着いて体を癒せば回復する。


つまり、走った後に体を落ち着けるのと同じ行為をすれば、微弱ながら回復はするのだ。


「…もう…誰も…あんたたちに傷つけさせないわ」


そう言うユフィーは、スターレインを振りかざして呪文を唱えた。


「…氷よ。糸のように張り詰め、細く強靭に変われ。我が敵を捉え離さない、永遠の呪縛となれ! 『膜ヲ氷オ(アイスピルネア・ネット)』!」


スターレインの宝玉全てが輝き、広範囲に魔法を発動させるためにその内包された全ての魔力を解放する。


放射状に流れた魔力に合わせ、辛うじて見える程度の糸が周囲を完全に覆い込んだ。


その糸が見えないヒーナスは、糸に触れた途端凍った。


冷気で造られた糸の檻が、触れる者全てを凍らせていく。


「…何か少ないけど…まぁいいわ…。ここにいる者全て、あたしが殺してあげる…」


憎悪と憤怒と悲しさのこもった瞳で、ユフィーは氷の糸の檻の中で不敵に笑った。





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