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アクレニア戦記 ~二つの決意~  作者: 冬永 柳那
一章 変化の予兆
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憂鬱の理由

パラ…パラ…パラ…


心地よい風の吹く部屋の中、一人の少年が頬杖をつきながら本のページをめくっていた。


年は若い。体躯は細く、身長も少し小柄である。


水色に染まった短めの髪を横に流し、さながら美少年と言った風貌の青黒い瞳の色をした少年だ。


豪勢な装飾に彩られた部屋の中に、ただ一人退屈そうに本をめくっている。


「…はぁ…」


しまいには大きなため息まで出てしまう始末である。


すると、少年は本をめくっていた手を止め、すっと立ち上がった。


辺りを見渡し、これまた豪勢な本棚に手をかけて、とある本を引っ張り出した。


その本の表紙にはこう書かれていた。『帝国王家の歴史』と。


少年はその本をやや乱暴ぎみに今まで向かっていた机の上に置き、ページを広げた。


ペラ…ペラ…ペラ…


今度も大した意味は無いようで、退屈そうにページをめくる。


そして、そのページの枚数が無くなろうかというとき、少年のいる部屋の中に一人の女性が入ってきた。


「シオン殿下。そろそろお時間になります」


「…はーい。…んんーー」


恭しく礼をした後、特徴的な色合いのメイド服を着た女性は、自らが仕える少年に告げた。


シオンと呼ばれた少年は気だるそうに返事をした後、大きく背伸びをする。


体中にあるもの全てを絞り出すかのように大きく背伸びをした後、話しかけていた女性に声をかけた。


「あのー、リサーナさん? 別にこう言う場では『殿下』って呼ばないでって言ったと思うんだけど…」


殿下という言葉を強調していったシオンに、リサーナと呼ばれた女性は薄く笑いながらその言葉を否定した。


「いえ、言われておりませんよ? その前に、あなたはフォーゲルノート帝国の王子なのですよ? いい加減、慣れてもらいませんと」


「うーん、そうなんだけどねー…」


彼女の頭に生えている垂れた犬耳を見ながら、シオンは軽く唸ってしまう。


この世界アクレニアには、シオンのような『ヒューマティア』と呼ばれる種族と、リサーナのような『ビルスティア』と呼ばれる亜人の種族、『スピリティア』と呼ばれる魔法の扱いに長けた長命の種族が住んでいる。


『ヒューマティア』と呼ばれる種族は、他の種族の者たちと比べて秀でた所はなく、万能型の種族と呼ばれ、聖霊に魅入られた者は魔法を扱うことも可能な種族だ。


『ビルスティア』と呼ばれる種族は、体力や力と言った身体能力に優れており、特攻型の種族と呼ばれている。だがその反面、魔法を扱うことは不可能といった面がある。


『スピリティア』と呼ばれる種族は、魔力や知能といった精神的要因が絡む事柄に強く、保守型の種族と呼ばれている。種族全体が聖霊に魅入られており、魔法を扱えない者はいないとも言われている。


さらに、この三つの種族を見分ける最大の特徴は、耳を見ることである。


ヒューマティアは普通の大きさの耳。ビルスティアは獣の耳と尻尾。スピリティアは横に張り出した尖った耳。


と言うように、簡単に見分けることが可能なのである。


そして、シオンの目の前にいるビルスティアの女性は、ビルスティアの一番の特徴である尻尾を揺らめかせながら、シオンの態度を咎めた。


「シオン殿下…そのような煮えきらない態度はよろしくないと、前にも忠告させていただきましたよね?」


「うん…確かに言った。でも、これからの事を考えると、正直憂鬱だよ…」


はぁ…と大きなため息を吐くシオン。心底憂鬱そうである。


だが、リサーナはそんな事もお構い無しに言葉を続けていく。


「憂鬱だろうが何だろうが、出ていただきます。今日は記念すべきシオン殿下の戴冠式なのですからね。もっとシャキッとしてもらわないと困ります」


戴冠式。それこそがシオンをここまで憂鬱にさせるものの名前だった。


戴冠式とは、文字通り冠を戴く儀式である。すなわち、それを受けた者は『王』となるのだ。


シオンの年は、数えること十八回。そして、この戴冠式が終わり王位につく頃には十九を向かえている。


若すぎるという声が上がるのは当然だが、シオンのいる帝国王家の慣わしではこう決められていた。


『王位を継ぐ者、十九回目の節目を向かえるまでに冠を被るべし』と。


この慣わしを受け、シオンは今まさに戴冠式を行おうとしていたのだ。


シオンがいる場には聞こえてこないが、外では期待のあまり熱狂の渦が巻き起こっている。


そんな事を露ほども知らないシオンは、もう一度大きなため息を吐いた後、リサーナに確認を求めた。


「そう言えば、リサーナさんは前の…父上の時の戴冠式の話は聞いていないんだっけ? 父上には聞けないし、他の忠臣達に聞いても何も教えてくれないし…」


「さんなどいりません。お言葉ですが、私はあなた様とさほど年は変わりませんよ? それに、戴冠式の様子を伝えることは許可されておりませんので」


「え? なんで?」


「クルト様のご意志です」


「あぁー、そういう事」


リサーナの言葉に、ポンと手を叩きながら納得するシオン。


だが、リサーナはそれを見ることなくシオンの肩を掴んでいた。


「ささ、ここで長話をしている場合ではございません。早くお着替えを」


「え? まさか、あれを着るの?」


リサーナの言葉に、シオンはひどく怯えた様子で言葉を発する。


「当然です。さぁ、お手伝い致しますので」


「いやいやいや、自分で脱げるからー!」


有無をいわさぬリサーナの言葉と行動に、シオンは軽く悲鳴をあげながら抵抗する。


だが、結局は為す術なく、身ぐるみを剥がされてしまうシオンだった。




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