到着
シーーーン……
シオンたち三人は王国に来て初めての試練に立たされていた。
三人は辿り着いた港で情報収集のために歩いていると、道のど真ん中で倒れている人影に出くわしたのだ。
お人好しであるシオンは助けようとするだろうし、ユフィーはあまり人と接点を持ちたがらない。
リィナに至っては、会話は簡単にできる方なのだが、持ち前の天然な性格で相手に伝わらない事を喋ることが多々あるのだ。
そのために、今この状況下に置いてもシオンはツッコミ役にならざるを得なかった。
「ちょっと、これどかしなさいよ」
「いやいやいや、人が倒れてるんだってば!」
「…大丈夫ですかー? 生きてますかー?」
「風燐華で倒れてる人を小突かない!」
今にも魔法を発動しそうな雰囲気のユフィーを止め、安否確認のために突いているリィナの持っているその物の間違いを直す。
今日もシオンは突っ込み役なのだ。
「……うるさいわね。ここで倒れてる奴がいけないんでしょ? どうせ、路銀に困った旅人とかじゃないの? 放っておきましょう」
「そんな訳にいかないじゃないか。旅人だったら、情報には聡いはず。何も知らない僕達が情報を手に入れるには、最善の手段だよ」
知らない人間が嫌い。極度の人見知りであるユフィーを何とか宥め、人助けをしようとするシオン。
「それは…そうでしょうけど…」
「王都クルメニアまではまだ距離がありますし、問題ありませんよ?」
そこで唐突にリィナが話しに割り込み、渋るユフィーに微妙に勘違いした言葉を言った。
その微妙な的外れの言葉に、ユフィーとシオンは苦笑いするがユフィーは態度を変えることはないらしく、腕を組んでシオンたちの言葉に備えた。
「…ぅぅ…んー……」
だが、そんな時に倒れている人影からうめき声が聞こえ、身じろぎする音が聞こえてきた。
「…あれ? 私……」
「…大丈夫? さっきまでここで倒れてたんだけど…」
起き上がってキョロキョロと辺りを見渡す黒髪の少女に、シオンが心配そうな声をかける。
その声に少々驚いた様子の少女だったが、すぐに気を取り直して頭をペコリと下げた。
「あ、大丈夫です。いつもの事なので」
「いつもの事って…。道の真ん中に倒れていることが?」
「ええ。だってお腹空いてちゃ何もできないもん」
自信満々に胸を張りながらそう言う少女。
正直な所、威張る所ではないのだが、なぜかこの少女は自信満々なのである。
「…そう…なんだ…。でも、何で倒れるまで何も食べなかったの?」
「お金がないからに決まってるでしょ」
「そのとーり!!」
ビシィ!
シオンの疑問にユフィーが答えたとき、間髪入れずに少女の指が三人に向けられた。
まるでどこかの効果音が聞こえてきそうなぐらいの勢いに、三人は気圧されてしまう。
「そうそうそう! そうなんだよ! お金がなかったら何も食べれないし、そのお金を手に入れようにも何も売れなかった! これが世に言うジリ貧って奴だね!!」
「…いや、違うと思う…」
早口でまくし立てながら喋る少女の言い分を、シオンは小声ながらも突っ込んだ。
グゴゴゴゴゴ……
「な、何!? 地鳴り!?」
そして唐突に、信じられない音が響く。
「…ちっ。ここにも魔物がくるっていうの?」
「港が襲われたっていう話は聞いたことがないんですが…」
その響き渡った音を魔物が近づいてくる音だと思ったユフィーは、背中におったスターレインの柄を握り締める。
リィナもそれに習い、風燐華を鞘から何時でも抜けるように構え、臨戦態勢を整えていく。
唯一その音を目の前で聞いたシオンは、あまりの音量の大きさにただただ驚いていた。
「…あははは…何か悪いことしたなー…」
「何言ってるの!? あんたも早く構えるか逃げなさい!」
「…いや、そうじゃなくてさ」
グゴゴゴゴゴゴ……
その響く鈍い音はさらに大きくなり、三人を圧迫する。
「…ユフィー…違う、違うんだ。…魔物じゃない。いや、ある意味で言えば魔物だけど、戦わなくていいんだ」
「シオン? 何を言って…」
なぜか悲しそうな顔をしながら、シオンはユフィーの肩を叩いて安全であることを知らせる。
その真意が図れず、シオンに疑問の言葉を投げかけようとするユフィーだったが、すぐに理解した。
「…私のお腹の音なんだよねー…ごめんね? そして何か食い物頂戴?」
「図々しいわ!!」
「つめたっ!!」
可愛く舌を出しながら言った少女に、ユフィーの氷を纏った突っ込みが入った。