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アクレニア戦記 ~二つの決意~  作者: 冬永 柳那
三章 真実の一端
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元気娘


「んーっ! 今日も良い天気ー!」


水のせせらぎが聞こえる川の畔に、一人の少女が大きく背伸びをしていた。


漆黒の髪を二つに束ね、勝気そうな瞳を持った少女だ。


その少女の傍らには、燃え尽きた木の破片と、一本の槍。


刺突に特化したような、真っ直ぐに伸びた鋭利な穂先が特徴の槍だ、その反対側の石筒の部分についてある輪っかの部分には、なぜか狐の尻尾をモチーフとしたファーがついている。


「おー、冷たい冷たい」


川に手を突っ込んで、バシャバシャと気持ちよさそうに目を細めながら顔を洗うと、少女は置いてあった槍を手に取る。


そして、おもむろにすうーっと息を吸い込み始めると───


「あああああああ!!!!」


大音量で叫んだ。


川の水がその音量で波立つほどの声量に、川の回りにいた動物や魔物達は逃げ出していく。


叫び声をあげた少女は、ものすごく満足そうな顔をすると、手を空に掲げる。


そして、もう一度叫んだ。


「うっし! 今日も良い調子! さぁ! 今日も元気にお宝とか探すよー!」


トレジャーハンター、カナ・コルセニアの一日は、こうして始まったのだった。






「さーて、今日はどこから探してみよっかなー?」


カナがいるのは、エスカレルニア王国のある北の大陸の中でも有名な、ユミルの遺跡という名の寂れた遺跡だ。


その外観は所々崩れ落ちており、カナのようなトレジャーハンター達が独自に開けた穴などで、至る所が欠損してしまっていた。


と言う事は、そこそこ発掘が進んでいる証拠なのだが、このユミルの遺跡に関してはそれは例外である。


それが例外と言われる訳は簡単だ。


カチッ


「…やば」


遺跡の中に入り、順調に進んでいたカナの足元から、何かがはまるような音が聞こえた。


その音が聞こえたことにカナは顔を青くしながら、不穏な気配のする後ろをゆっくりと振り向く。


ガゴン…


「やっぱりかー!!」


猛ダッシュ。


埃が舞い立つほどに走り去っていくカナの後ろから、破格の大きさの鉄球が転がって来ていた。


この遺跡、奥に進むためには基本的に潜っていかなければならない。


その事は必然的にこういうトラップが活かされているということであり───


ゴロゴロゴロ…


鉄球にとっては、好条件の土地ということだ。


「ぎゃぁぁーー!!」


少女らしからぬ悲鳴をあげながら、次第にスピードをあげていく鉄球から逃げるカナ。


走っている最中に後ろを振り向くと、迫る鉄球は走って来た道を半ば破壊しながらカナに迫る。


「な、何で毎回こうなるのよーー!!」


確実に運が無い。そして不用心。


その事を自分で理解できていない以上は、カナにトラップを回避することは不可能であろう。


だが、そんなカナにも運があったのだろうか。


目に涙を溜めながら走っていたカナは、涙で滲む視界の中、走る先の道に分岐があることを見つける。


一つは、狭いが確実に鉄球から逃れることのできる路地の用に曲がった道。


もう一つは、少し不安が残る広さだが、楽に走り抜けられそうな道。


その二つの道を見て、カナは少し悩みながらも一つの道に飛び込んだ。


「狭い方が鉄球はこないんだからこっち!」


と軽く叫びながら。


ゴロゴロゴロ…


「ふぅ…。何とか撒いたか…」


鉄球が通りすぎていく音を聞いたカナは、壁に寄りかかりながら安堵の息を零す。


だが、それも束の間。すぐに立ち上がり、路地の先を見つめる。


「さーて、お宝お宝♪」


そんなウキウキとした足取りと言葉を言いながら、カナは遺跡の奥へと向かって行った。





コツコツコツ…


遺跡の奥に、カナの履くブーツの音が響く。


途中にあった松明から火を拝借したカナは、手頃な木を燃やしながらその灯を頼りに奥へと進んでいた。


「うーん。やっぱ、この辺は結構持ち帰られてるよねー」


とある広い部屋とでも呼ぶべき空間に入ったカナは、左右に松明を振りながら辺りを確認する。


このユミルの遺跡は、先ほどのようなトラップがいくつも存在する。


だが、鉄球の用に一回きりの物が多いために、その後は簡単に通れてしまう。


つまりは、誰かが犠牲にならないと奥には進めないような作りになっているのだ。


しかし、そんなルートがあるはずなのにトラップに引っかかってしまうカナは、かなり不用心である。


「お? なーんか発見ー」


辺りをキョロキョロと見渡していたカナだったが、その視界の端にある物が止まった。


「うわ、カビくさ……古文書、かな? …読めない…」


カナが手にしているのは、ボロボロの深緑色の一冊の本。


石畳の上に作られた台座のような所に置かれていた本を、カナは興味津々に眺めていたのだが、興味に負けて手に取ってしまったのだ。


そこに書かれている事を読もうとしたカナだったが、古くボロボロの本は読みずらく、書かれていた言葉が古語だったため、カナは読めずにいた。


「ま、多分良いものでしょ。貰って帰ろーっと」


そう言ってその本を懐にしまって外に出ようとすると、カナは少し固まってしまった。


「あれ? そういえば、あんな所に岩なんかあったっけ?」


カナが目にしているのは、来た道に鎮座する大きな岩。


退かすことは不可能そうな大きな岩に、カナは首を捻りながらも帰るために歩き出す。


だが、そこは運の悪いカナである。


突如聞こえてきた不穏な音に、体をビクリと反応させてしまう。


ギギィ…


「わっ! な、なに!?」


背中におった愛槍『レストーション』に手をかけ、いつでもそれが抜けるような体勢になるカナ。


そのカナの目の前で、不穏な音は次第に強くなっていく。


目の前の、大きな岩から。


「…なーんか、すごーーーく嫌な予感しかしないんですけど…」


ギチギチギチ…バキッ!


音が変化し、姿を表す。


カナの目の前にあった岩が変異し、カナの目の前に立つ。


そして、吠えた。


「ボォゥゥゥ!!」


「なんで『ストーンゴーレム』何かが出てくるのよ!」


突如岩から現れた魔物に、そこはかとない理不尽さを覚えながらも、カナはレストーションを抜いて構える。


叫んだ魔物、ストーンゴーレムはカナに向かってその太い腕を振り下ろした。


「よっと」


カナはそれを難なく避けると、ゴーレムの周囲を周回するように走り出す。


「ゴーレム系って遅いから楽なんだけど、硬いからなぁ…」


周囲をぐるぐると回りながら、そう愚痴を零すカナ。


確かに、ゴーレムは土の魔物と言う事もあってその体は硬い。だが、その硬い密度を保つためにほとんどが密集して形成されるために、その動きはかなり遅い。


そのため、カナのように魔法が扱えない物にとっては、ただの岩を相手にしてるのと変わらないのだ。


「でもまあ、やるしかないんだけどね!」


気合を入れ直し、ゴーレムへと向かっていくカナ。


槍を中段に構え、突進していくような形をとったカナに、ゴーレムはようやくその体をゆっくりと向ける。


「遅いよ!」


ゴーレムの懐に素早く潜り込んだカナは、そのままの突進の威力のまま突っ込む。


そして、槍を前に一気に突き出す。


ガキン!


「やっぱり硬い…。でも、これなら!」


槍の向きを持ち替え、石筒で殴る。


鉄の芯の部分を使い、棍棒のように振るうカナ。


そこでようやく、ゴーレムの腕がカナを襲った。


「そらっ!」


自らに迫るゴーレムの石の腕を、カナは槍を使って避ける。


その際、槍でその軌道を少しだけ操作した。


ドガァン!


「いえーい! ビンゴー!」


自らの腕で自らの体を殴ったゴーレムは、そのまま力なく崩れ去っていく。


カナは自らの作戦が成功した事に、ガッツポーズを作って喜んでいた。


そして、今度こそ外へと出るために歩き出したのだった。





「えーー!! 五百メルにもならないってどういうこと!?」


「いえ、ですから…」


エスカレルニア王国のとある港町の一角、とある鑑定屋の中でカナの抗議の声が響いた。


その抗議の声を受けた店主は、もう一度その理由を言う。


「この古文書は劣化が激しく、ほとんどの部分が読むことができません。それに、読み取ることができる部分においても、ほとんど知られている魔術呪文のために、買い取りの値段が下がってしまうんです」


「うそー! あんなに苦労したのに…」


「よろしければこちらで預かるなり処分なり致しますが…」


「うーん…いいや、持ってるよ。燃やすならこっちでやるから」


「そうですか。ありがとうございました」


古文書を懐にしまい、店を後にするカナ。


だが、店を出て数歩ほど歩いた所で直ぐに沈んでしまう。


「あーうー…。もうちょっと高く売れると思ったんだけどなー」


頭を抱えて唸り出してしまうカナ。


ブツブツと何がいけなかったのかを思案しながら、もう数歩ほど歩く。


すると、すぐに頭を抱えるのもブツブツと呟くことも止めて、真っ直ぐに前を向いた。


「うん! ウジウジ悩んでてもしかたがない! 私の取り柄は元気なんだから!」


全く以て切り替えの早いことである。


顔を両手でパシパシと叩くと、今度は晴れやかな笑顔を浮かべて歩き出す。


だが、なぜかまた頭を抱えてしまう。今度はさらに深刻風に。


「あー、そう言えば宿も取れないんだった…。また野宿ー?」


騒がしい少女である。


元気が取り柄というより、感情の起伏が激しい落ち着かない子と言った方がいいのかもしれない。


その証拠に、またと言っては可笑しい表現かもしれないが、直ぐにいつもの表情に戻ってしまうカナ。


「ま、仕方ないか。それより、いろいろと探さないと……ん?」


グギュルルルル…


「…お腹が空くのは…止められない…っ…」


盛大すぎる腹の音が、カナの意識を削り取っていく。


バタッ


「…もーむーりー…」


ころころと表情をひとしきり変えた後、そう言って地面へと倒れこんだ。






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