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アクレニア戦記 ~二つの決意~  作者: 冬永 柳那
二章 遥かなる旅
15/41

決着

「よし、落ちてきてる。畳み掛けるよ!」


「はい! ハァッ!!」


地面へと落下して、太く短い足で地面に立つグリムワイバーンを見て、シオンは好機と声を上げる。


その声とともに、リィナは構えていたセントクルセイダーズを思い切り突き出す。


先制のために放った一撃は、見事にグリムワイバーンの翼膜を貫いた。


そしてそのまま、リィナは余力を生かして翼膜を引き裂く。


シオンもそれに負けじと、反対側の翼の翼膜をカテドラルの爪でボロボロにしていった。


「やりました! これで飛べないはずですよ!」


「うん。でも油断しちゃダメだよ。だって怒ってるし、火炎だって…」


ゴァァァ!!


屋敷の中でも見た暗い紫色の火炎が、シオンの言葉を区切るように放たれる。


その火炎をある程度予想していた二人は、別々の方向に逃げることで回避した。


「わっ! 私ですか!?」


首を大きく曲げることで、グリムワイバーンは火炎を逃げたリィナに向けた。


再び迫り来る火炎に、リィナは全力で逃げる。


しかし、グリムワイバーンにとってこの行動は間違いだった。


完全にリィナが囮になり、意識から外れることのできたシオンが、グリムワイバーンの足を切り裂いた。


「ギャァァオォォ!!」


足を切り裂かれ、その痛みにもんどり打って倒れるグリムワイバーン。


その間もシオンは手を止めずに、カテドラルの双爪でグリムワイバーンを切り裂いて行った。


「ハァァァ!!!」


雄叫びを上げながら腕を振るう。


右、左、右、左と規則性がありながらも、その切っ先は違う所を切り裂いている。


最近接戦の武器である双爪の、最大の利点が発揮されている瞬間だった。


「よーし。私も行きますよ!」


逃げていたリィナが、勇んで攻撃に参加する。


こちらは頭を重点的に狙い、少し出ている角を圧し折る勢いで怒涛の攻撃を繰り出していく。


振り下ろし、振り上げ、薙ぎ、突く。


基本的な動作を、これでもかというほどに叩き込む。


そして唐突に、二人は攻撃を止めて飛びすさった。


「これだけ攻撃してもまだなの…?」


「そうですね…もうとっくに終わっててもいいはずなのに…」


まったくと言っていいほど進展の無い攻防に、シオンとリィナは疲れを覚え始める。


さすがに体力も削られ、無意識のうちに肩で息をしているのだ。


不安を覚えないはずが無かった。


そんな時に、もう一度火炎が飛び出してきた。


「くそっ! リィナ、もう一度だ!」


「…待ってください! 今回のは横に広がってます!」


「なら上に…って、そんな場所は無いか…後退するよ!」


周りを見渡した後、退却の指示を飛ばしながら自身も下がるシオン。


そして、シオンが一瞬前までいた空間を暗い紫色の火炎が焼き払った。


「…拡散するものも出せるなんて…誤算だったよ」


「どうします? 迂闊に前に飛び込んだら火炎の中ですよ?」


「…どうしようか。幸い、あっちは警戒して動かないでいてくれてるけど…」


「お二人さーん♪ 随分楽しそうだけどー、ボクも混ぜてよー♪」


グリムワイバーンを睨むシオンたちの耳に、そんな楽しげな声が届く。


幼い少年のような声のその異常な響きに、二人は困惑する。


「っ! だ、誰だ!?」


「ボクはボクだよー♪ ほら、こっちこっち♪」


声の在り処から、薄緑色の光が灯る。


その先ほどまで見ていた色の輝きに、シオンは驚きを、リィナは感動を隠せなかった。


「ふっふっふー♪ ボクの名前はウィンディアだよ♪ 風の聖霊って言ったほうがいいかな?」


「…風の、聖霊…」


「ふわー…。すごいですすごいです!」


「うんうん♪ でさ、楽しいことしてるんならボクも混ぜて♪」


音の旋律を聞いているような、そんな心地よい声の調子。


薄緑色の体全体を覆うローブを着込み、光の当たる角度によってその色味を変える緑色の髪をした風の聖霊は、楽しそうにシオンたちに提案した。


「あ、そうそう♪ そこのリィナって子には最初から用があったんだよねー♪」


「…私に…ですか?」


「うん♪ だってボク、君の魔力が気に入ったんだー♪ だから、選定者として君に力を与えにきたんだ♪」


「…選定者? それはどういう…」


バァン!!


「「っ!!」」


分からない単語を聞こうとしたリィナだが、突如大きな音が背中で響く。


その音の大きさと近さに、シオンは武器を構え直し、リィナは体を垂直に飛び上がらせた。


そのリィナの反応に、ウィンディアは涼やかに笑いながら言う。


「はははは♪ やっぱり君って面白いねー♪ じゃ、結界も持たないから説明は後だねー♪」


「ちょっと! 急にそんな事言われても困るって!」


そんな言葉を残し、消えていこうとするウィンディアに対し、シオンは声を出す。


その声に、ウィンディアは手を振りながら楽しそうに言った。


「弱点は目だよー♪ ボクはリィナにプレゼントするものを拾ってくるから、また後でねー♪ あ、まだ魔法は使えないと思うから、そのつもりで頑張ってねー♪」


「ええ!? どういうことなんですか!?」


散々場を引っ掻き回した後、ウィンディアは───エールのつもりなのだろう───一陣の風を残しながら消えて言った。


その呆気ない伝承の存在との邂逅に、シオンたちは半ば呆然とするが、グリムワイバーンの咆哮によって我を取り戻した。


「弱点は目か…。ま、当然と言えば当然なんだけど…鍛えられないしね」


「でも、どうします? 瞼が開いてるときじゃないと、確実に刺さりませんよ?」


「うん…一応案はある。でも今は攻撃を!」


作戦は後回しに、こちらの出方を伺うグリムワイバーンに斬りかかっていく。


シオンは右、リィナは左からほぼ同時に攻め込む。


相手の甲殻を、鱗を、皮膚を切り裂くために、二人は攻撃を開始した。


だが、相手も死にたくは無いらしい。強靭な尻尾を振り回し、二人の接近を阻む。


それを辛くも回避した二人は、さらに近づいていく。


「リィナ! 足を薙いで!」


「やぁ!!」


滑り込みながら、抜き打ちぎみにリィナが太くしっかりとした足を切り裂く。


反対側のシオンは、飛び上がりながら双爪で胸の辺りを切り裂いていった。


綺麗に交差した二人は、リィナは地面に剣を突き立て、シオンは一回転しながら体勢を整える。


体勢を整えたシオンはそこで声を張り上げた。


「リィナ! 僕が今から突っ込む。リィナは後から目を狙って!」


「ええ!? 一体どうやって…」


「ごめん! 今回は丸投げ!」


謝りながら駆けていくシオン。


そして、掛け声とともに普段の彼からは想像も出来ない行動に出た。


「せいやぁ!」


ドカッ


双爪を使うのではなく、飛び上がった勢いそのままにグリムワイバーンの首を蹴った。


両足を使って、綺麗にきっちりと。


誰もが予想だにしなかった攻撃に、グリムワイバーンの首が弾かれたように曲がる。


そして、その曲がった首の先にある頭は、リィナを向いた。


「ええい! いっけーーー!!!」


そしてリィナも予想だにしない行動に出た。


剣士の魂、自らの愛剣を思い切り振り被って投げたのだ。


剣士として鍛えられたリィナの膂力から放たれた剣の弾丸は、まっすぐにグリムワイバーンの目をとらえた。


ズシャッ


「グギャァァォォォ!!!」


剣が目を通じて頭を貫き、グリムワイバーンが叫び声を上げる。


そして、その叫び声が断末魔となった。


ズズン……バキン…


「へ?」


グリムワイバーンが倒れる音とともに響いた小さな音に、リィナは一抹の不安を覚える。


その音は、剣士であるリィナだからこそ聞きなれた音であったからだ。


「…まさか…」


すぐさま駆け寄り、自らの愛剣を探すリィナ。


しかし、リィナの懸念とは裏腹に、地面と頭を縫い付けている剣を見つけるのは簡単な事だった。


「…あった。…で、大丈夫……じゃないですー……」


だが、真実は残酷な物。


引き抜いたセントクルセイダーズの剣身は、半ばからポッキリと折れていた。


「リィナ、大丈夫……じゃないよね……。…ごめん」


「ふぇぇぇ……」


近寄ってきたシオンは、折れたセントクルセイダーズを握り締めながら泣くリィナを見て、かける言葉が無かった。


戦闘の収穫は少なく、損失はリィナの愛剣の無残な姿だった。





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